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4. ディーゼルエンジンの性能について
4.1 ボイルシャールの法則
 気体の体積は温度が上がったり、周囲からの圧力が下がると増加する。反対に温度が下がり、圧力が増すと減少する。
 このように気体の体積と温度と圧力とは一定の関係があって変化する。
 
1) ボイルの法則
 気体の温度を一定に保てば、その絶対圧と体積とは互いに反比例して変化する。
 すなわち体積を1/2にすれば、圧力は2倍となり、体積を1/3にすれば圧力は3倍となって、絶対圧と体積の積はつねに一定である。
 いま、気体の圧縮始めのときの絶対圧をP1、体積をV1、圧縮終わりの絶対圧をP2、体積をV2とすると
 P1・V1=P2・V2
 PV=一定     となる。
 これをボイルの法則という。
 
2) シャールの法則
a. 圧力が一定で、温度と体積を変化する場合
 気体の圧力を一定に保てば、その体積と絶対温度とは比例して変化する。
 加熱(または冷却)始めの絶対温度をT1、体積をV1、加熱(または冷却)後の絶対温度をT2、体積をV2とすると
b. 体積を一定にして、温度と圧力とが変化するとき
 気体の体積を一定に保てば、その絶対温度と絶対圧とは比例して変化する。
以上の関係をシャールの法則という。
 
3) ボイルシャールの法則
 気体の圧力、温度、体積がともに変化するとき、圧力と体積の積は絶対温度に比例する。
 すなわち、
の関係があり、これをボイルシャールの法則という。この法則は実在のすべての気体に当てはまるものではない。これらの法則が完全に当てはまる気体を理想気体という。空気や燃焼ガスは理想気体に近い性質をもっている。
4.2 ディーゼルエンジンの出力(馬力)
1) 出力とトルク
 平成11年10月1日よりS1単位への完全切り替えが実施された。従って本書もSI単位を主に著し、従来単位を参考値として( )書きするように改訂した。新旧の主な換算率は8ぺージに記しているが、kWを用いる出力の換算式は次の通りである。
 SI単位の場合;1出力(kW)=1.359622(PS)≒1.36(PS)
 従来単位の場合;1馬力(PS)=75kg・m/sec=0.735(kW)
 それでは内燃機関に用いられている動力の従来単位について復習しておこう。
 動力の単位は馬力であり、一般にHorsepower(HP)又はPferde Starke(PS)で表し、75kgの重さの物を1秒間に1m移動させる動力を1馬力(PS)としてきた。
 馬力だけでは、どの程度のプロペラや発電機などを廻すことが可能なのか判らないため、一般にトルク(回転力)に換算して比較している。
 トルク(回転力)と軸馬力(PS)及び回転数(rpm)の関係は次の式で示される。
 T:トルク(kgf・m)、 n:回転数(rpm)、 SPS:軸出力(PS)
 これをSI単位に置き換えると、次のようになる。
 1W=1J/s、   1J=1N・m であるから
 1kw=1,000N・m/s
 Skw:軸出力(kW)
 T:トルク(N・m)、 n:回転数(min−1)
 
 中高速機関では、低速形機関に比較して機関出力は大きくてもトルクが小さいため大径のプロペラを回せない。そのために減速機を用いてプロペラ軸の回転数を小さくし、大きなトルクを得るようにしている。
 (例題) 機関出力331kW/2,500min−1、減速比3.25の場合の機関トルク及び減速軸トルクを求めよ。
2) 図示出力(馬力)と軸出力(馬力)
 シリンダ内で実際に発生する仕事を動力の単位(出力)で表した物が図示出力(IkW)であり、下記にて算出する。
 A:シリンダ断面積(cm2)
  A=πD2/4
 D:シリンダ直径(cm)
 S:ピストンストローク(m)
 n:クランク軸回転数(min-1)
 Z:シリンダ数
 i:定数(4サイクルの時はi=1/2、2サイクルの時はi=1)
 
 インジケータ線図(PV線図)と図示平均有効圧力
 4サイクル機関において、吸入、圧縮、燃焼、排気の各々作動行程において、シリンダ内の圧力はピストンの位置と共に刻々変化することが想像できるでしょう。このような状況を図示したものをPV線図(Pは圧力、Vは容積の意味)と称し、エンジン熱力学理論の基本となっている。(1・10図参照)
1・10図
 PV線図は別の見方で云えばエンジンの1サイクル中に行われた仕事を表わしています。燃焼と膨脹行程はプラスの仕事であり、吸入、圧縮、排気の各行程はマイナスの仕事ですから、PV線図上でそれらを差引きした残りの図形(タビ形図)が仕事を表わすことになる。
 1・11図はタビ形図の一例で、縦軸に指圧器から換算された圧力の値を目盛ってあり、横軸の長さ(行程容積に相当)を10等分し、タビ形内の矢印の長さを以ってその位置の圧力値を示している。いまこれらの圧力値を全部加算して、合計値を10で割れば圧力の平均値0.7MPa(7.14kgf/cm2)を求めることが出来る。この平均の圧力を膨脹行程中に一定に作用させたと考えると、結局タビ形の面積で得られた仕事と同一の仕事をしたことになるので、この理由からこれを図示平均有効圧力と称し、一般に記号Pmiで表示している。
1・11図
 軸出力(SkW)は、制動出力(BkW)又は正味出力とも呼ばれ、クランク軸から実際の動力として取り出され、プロペラや発電機などを動かす動力であり、動力計で計測される出力である。
 動力計として摩擦式(プロニ・ブレーキ式など)水動力計、電気動力計などが用いられ、まれにファンブレーキ式なども使われる。
 水動力計による計測は1・12図に示すように装置し、回転数と秤の腕の長さL(m)と、秤の荷重W(N)を測定し次式により算出する。
1・12図
 BkW:ブレーキ出力(kW)
 n:動力計の回転数(min-1)
 L:動力計の腕長さ(m)
 W:L位置の正味荷重(N)
 
 なお、下記の条件を与えれば非常に簡単な式になる。
 (例題) 水動力計における秤の腕の長さが0.89525m、秤の荷重1,000N、回転数2,000min-1の時、軸出力を求めよ。
 図示出力と軸出力の関係は1・13図で表されるように次の関係がある。
 
 軸出力=図示出力−機械摩擦損失
 (SkW)=(IkW)−(Pf)
 
1・13図
3) 正味平均有効圧力
 正味平均有効圧力(Pme)は、機関性能を比較する重要な要素の一つであり、軸出力(SkW)との関係は次式の通りである。
 最近の舶用ディーゼル機関においては出力性能向上が著しく、無過給機関で0.6〜0.7MPa(6〜7kgf/cm2)、過給機付機関にあっては1.6〜2.0MPa(16〜20kgf/cm2)、なかには2.1MPa(21kgf/cm2)を越える物もある。
 (例題) 最大出力257.3kW/2,800min-1、シリンダボア105mm、ストローク130mm、6気筒4サイクルディーゼル機関における最大出力時の正味平均有効圧力及びピストンスピードを求めよ。
 A=πD2/4=π×10.52/4=86.546≒86.55(cm2)
4) 定格出力と最大出力
 定格出力とは、機関銘板に打刻されている出力及び回転数であり、一般に何kWの機関などと呼んでいる。舶用ディーゼル機関においては、これを連続最大出力及び回転数と云い、それ以上の出力及び回転数を過負荷出力及び回転数と呼んでいる。
 但し、小形漁船主機関(シリンダ径150mm以下)の場合は水産庁登録済みの出力及び回転数で表示される場合が殆んどであり、連続最大出力及び回転数に当てはまらぬことが多い。
 連続最大出力は、JISによれば定められた状態と運転条件のもとで定められた回転数にて長時間連続して運転できる出力とし(連続)定格出力とも云っている。
 最大出力とは、その機関が出しうる瞬間的な最大出力を云うが、一般的には定格時間の取り方によって異なっている。舶用主機ディーゼル機関の場合は通常1時間(連続)定格出力をもってその機関の最大出力としていることが多い。
 負荷許容最大出力とは、メーカが製品の品質保証をする限界の許容しうる過負荷出力及び回転数であり、許容限度以上の出力及び回転数で運転できぬように燃料噴射量ならびに回転数を封印セットしている。又小形主機関の場合、その機関の使用環境条件を加味して軽作業、中作業、重作業に区分して封印セットしている場合もある。作業区分の考え方の一例を1・10表に示す。
1.10表 作業区分
船種
(用途別)
L:軽作業用 M:中作業用 H:重作業用
遊漁船、レジャーボート、通船、採介藻船、定置網船、一本釣船(沿岸)、客船等の軽作業船 一本釣(近海)、まき網船、刺網船、もじゃこ船(10トン以上)、運搬船等の中作業船 いか漁(集魚灯発電機駆動)五智網漁等の引網漁で連続使用時間が24時間以内のもの
使用条件 年間総使用時間 1,500時間/1年 2,500時間/1年 3,500時間/1年
最大出力の総使用時間 2時間以内 10時間以内 24時間以内

 検査船に用いられる舶用ディーゼル機関の過負荷出力及び回転数は通常連続定格出力を100%負荷とし、110%過負荷出力をもって燃料噴射量の制限をしなければならない。
 さらに過速度最大回転数は100%負荷回転数の120%を超えぬような制限装置を持つよう義務付けられている。
4.3 熱効率と機械効率
 機関の熱効率とは、仕事に変えられた熱量と機関に供給した総熱量の比で表される。供給熱量は燃料の燃焼により発生する熱量であり、普通は0℃において一定体積の下に燃焼した時の低位発熱量を用いる。
1) 図示熱効率
 燃焼ガスがシリンダ内でピストン上面にする仕事を図示仕事(Wi)と言い、これに関する熱効率を図示熱効率(ηi)と言い、次式で表される。
 上式の3,600は1kW(1kJ/s)で1時間当たりの仕事を熱量に換算したもので、
 1×60×60=3,600(kJ/kWh)
 
2) 正味熱効率
 実際に機関から得られる有効仕事(We)は図示仕事(Wi)から各運動部分の摩擦や弁、ポンプその他装置を動かすに要する仕事を差し引いたものであり、これに関する熱効率を正味熱効率(ηe)と言い次式で表される。
 
3) 機械効率
 正味熱効率はいくら良くても図示熱効率以上に良くすることは出来ない。また正味熱効率が悪い場合、図示熱効率が悪いのか、機械損失が多いのかを明らかにするため次式で定義する機械効率(ηm)を用いる。
 機械効率は主として機械内部の摩擦の多少に関係するもので、図示出力と軸出力との差は機械の摩擦や補助装置の運転に費やされるものでこれを摩擦出力(FkW)と云う。
 摩擦出力(FkW)=図示出力(IkW)−軸出力(BkW)
 以上それぞれの効率の間には、次式で示す関係がある。
 正味熱効率(ηe)=図示熱効率(ηi)×機械効率(ηm)








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