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b. 各部計測値のチェック
(イ) 特に燃焼最高圧力のバラツキは、燃料弁の詰まり等の影響も受け易いので、燃料ポンプのラック目盛や排気ガス温度等と比較をして判断をする。
(ロ) まず異常と判断されたシリンダの燃料弁を開放して、燃料弁の噴射テストをする。
 燃料弁の噴射圧力と噴霧状況をチェックして、異状がないときには、燃料ポンプの突き始めを調整をする。
(ハ) 燃焼最高圧力を下げたいときには、突き始めタイミングを遅くするため燃料ポンプ下部の調整ネジを下げ、また、上げたいときには調整ネジを逆にあげて突き始めのタイミングを早くする。この時の調整量は、再運転で確認をしなくてもよいように本船機関士に問い合わせて確実に行うこと。
 前頁の例にあげた機関では、ネジ1角で0.15MPa(1.53kgf/cm2)「程度変化をする。
(ニ) 排気ガス温度のバラツキはあまり神経質にならず、絶対に燃料ポンプラックの位置をそのために移動してはならない。
c. 運転中に回転速度の振れ等があるときは、調速機の調整をする。なお、水動力計を使用したときには調速機試験ができる。
 
 調速機試験で、負荷を急に変化させる方法は
(1) クラッチ付きの機関は、負荷運転時に瞬時にクラッチを切る。
(2) 水動力計を使用している場合は、水動力計への供給水弁を急激に遮断し、逃がし弁を全開する。
で行うが、(1)は低速機関の場合、通常1,100kW(1,496 PS) 以下程度の機関でのみ行っている。
 
 もし、回転速度380min-1(rpm)で調速機試験を施行したところ、負荷急変時に回転速度が425min-1(rpm)まで上昇したとすると、通常は瞬間変化率δを下述の如く求める。
 δ= (425/380−1)×100=11.8%
JGの規則ではδ<20%であり、11.8%問題ないことになる。
d. 始動試験
 JGの規則では、本船の空気だめと同容量もしくは以下のもので自己逆転機関は前後進交互に行い、12回以上、逆転機か可変ピッチプロペラを装備した場合は6回以上連続できればよいので参考に覚えておくこと。
2) 海上での試運転
 機関運転は陸上と同程度の確認事項の後に行われるが機関出力を水動力計で正確に計測できないだけである。
 なお、海上運転前に機関を暖機することもあり注意をする。
(1) 試運転時の負荷
 負荷の設定は機関回転速度によって行うしかなく、通常は陸上試運転の2/4及び3/4時の回転速度程度で行われる。1)−(2)項参照
(2) 機関出力の測定と算出
 主機関の場合は、5・29図トルク係数曲線を使用する。
 例えば、154頁で例示した機関を搭載した貨物船が整備後、試運転時の負荷3/4の成績で回転速度n=345min-1(rpm)、燃料ポンプラック目盛Ra=22.0とすると、トルク係数はチャートよりA=1.95となる。
 よって、この時の出力はNe=345×1.95=672.8kW(914.9PS)
 また、この時の負荷率は672.8÷1000=0.673 67.3%である。
5・29図 トルク係数曲線
 参考:海上での機関出力算出とトルク係数曲線の作成方法
[1] 海上運転時において機関出力を算定する方法は、以下の4つの方法がある。
a. 燃料ポンプラック目盛と回転速度から算出する方法。
b. 燃料消費量から算出する方法。
c. ねじり計測機によるトルクから算出する方法。
d. 指圧器などによる図示出力から算出する方法。
 主機関においては、この中で[a]の方法を一般的に採用している。
[2] 燃料ポンプラック目盛と回転速度から算出する方法(例:前出機関とする)
a. 154頁の陸上試験の成績表より各負荷の燃料ポンプラック目盛り(Ra)、回転速度(n)、及び燃料油入口温度、燃料油の性状(比重0.8596(15/4)℃、低位発熱量10、120kcal/kg)を出す。
b. 各負荷の出力を回転速度で除した値をAn(トルク係数)とする。
25%  A1 250÷240=1.042  燃料油入口温度   30℃
50% A2 500÷302=1.656 30℃
75% A3 750÷345=2.174 29℃
100% A4 1,000÷380=2.632 29℃
110% A5 1,100÷392=2.806 35℃
c. 各トルク係数を燃料油入口温度に係数0.00065/℃を使用して15℃の比重に換算する。
 A1=1.05、A2=1.66、A3=2.18、A4=2.64、A5:2.82
d. 縦軸に各トルク係数、横軸に各燃料ポンプラック目盛の関係を表すとトルク係数チャートとなり、157頁の5・29図に示す。
e. 出力(Ne)の算出
 Ne(kW)=An×n(min-1) An:トルク係数  n:回転速度
 注1:使用燃料油の比重、発熱量により換算が必要なときは次式によりRaを算出してから、トルク係数をチャートより読みとる。
 Ra=ra×Ga/0.860×Ca/10120
 Ra:修正ラツク目盛
 ra:読みとりラック目盛
 Ga:使用燃料油の温度換算(15℃)比重
 Ca:使用燃料油の低位発熱量
 注2:燃料ポンプのセッチングが製造時と大幅に異なったり、燃料ポンププランジャが酷く摩耗していると、正確な出力とならないことがある。
3) 性能曲線でのチェック
 156頁の5・28図性能曲線上に各計測点をプロットするが、このチェックで注意することは
[1] 横軸のデータは回転速度や見かけの負荷ではなく157頁(2)で算出した出力とする。
[2] 各計測点は、計測上の誤差等もあるのでプロットするときには、点ではなくある程度の面積を持った丸(○)とする。
[3] 陸上運転と比較して過給機へ供給される空気が、狭く温度の高い機関室内よりとなるため、給気圧力が下がることで最高圧力も下がり、逆に排気ガス温度が全般に高くなることがある。
[4] 各データの性能チェックに対する対応は、
 「舶用機関整備指導書その1」第2章3.故障診断の要因図を参考にするとよい。
4) 舶用特性曲線上の作動点のチェック
 海上運転では、機関出力が水中で回るプロペラによって決定されるため、この時の機関回転数と機関出力の関係をチェックすることが大変に重要である。152頁で陸上試運転の負荷試験の各ポイントを舶用特性曲線として縦軸に出力、横軸に回転数として平面上に表すと5・30図となり、この平面を使用して作動点のチェックをする。
 この舶用特性曲線を描くときには、同一平面上に何本かの回転マージンを加えた曲線と機関作動点の使用許容範囲をいれておくと、非常に理解がし易い。
 5・30図を説明すると、
[1] 回転マージン+4%曲線:新造船を計画するときに、プロペラにマージンをつけ、設計するため、海上試運転時の予想作動線。
 回転マージン+2%曲線:理想的な就航中の作動線。
 回転マージン−4%曲線:トルクリッチ上限作動線。
 Aゾーン:連続使用許容範囲、通常はこの範囲で運転されなければならない。
 Bゾーン:短時間使用許可範囲、新造時の海上試運転でスピードを計測するためや、時化を避けたり緊急時に使用する範囲。
 なお、新造時に限っては106%の回転までは上げることがある。
 Cゾーン:使用禁止範囲、トルクリッチのため運行上危険であると同時に経済的にも燃料使用量が急増して不利である。
(拡大画面: 74 KB)
5・30図 舶用特性曲線
[2] 例として5・29図の作動点をこの平面上に◎でプロットしてみると、ほぼ+4%の曲線上に乗っており、整備後の運転として正常であることが判断される。
[3] また、5・29図に例示の貨物船の新造海上試運転時の場合、バラスト(空船)で運転を行う上にプロペラマージンがつけてあり、機関出力は陸上試運転の回転数に対してかなり軽負荷になるため、各負荷は陸上試運転時よりプロペラマージン分程度の回転数を増して出力が出るように設定する。例えば、5%のプロペラマージンを相定して回転数を設定した場合を陸上試運転と比較すると、
50%(2/4) 負荷: 設定 317min-1 陸上 302min-1 海上運転出力 456kW
85% 負荷:  〃 378min-1  〃 360min-1    〃   764kW
100%(4/4) 負荷:  〃 399min-1  〃 380min-1    〃   904kW
となる。
 これに従って各負荷の作動点をプロットしてからそれらを結ぶと破線のようになる。この曲線はマージン約8%となるが、バラスト状態の貨物船の結果であればほぼ計画の通りであろう。
[4] 経年変化
 前頁の[2]と[3]を比較すると、今回の試運転時は新造時に較べて約4%のマージンが減少(トルクリッチ側に寄っている)が観られるが、これを経年変化と呼び、船体の傷や取り切れない汚れ、あるいはプロペラ損傷等による疲れ現象である。
[5] トルクリッチとプロペラカット
 この平面は、就航中であっても常に利用できる。たとえば、就航十数年を経て定期検査ドック直前の作動点がAゾーンを超えてCゾーン内にあったとすれば、トルクリッチ状態でありドック時の対応を検討しなければならない。
 ドックで船体を洗浄すれば作動点はAゾーンに戻ってくるが、それが大きく戻ることは期待できないので、ドック時にプロペラをカットして、大きくプロペラマージンを復帰しなければならない等を検討する資料となる。
5) 連続最大出力変更後の運転
 検査のドック時に、機関連続最大出力変更(以下出力変更とする。)が行われることが、最近はよくみられることである。
[1] 出力変更とは
 現在の船員法では乗組員の数が機関連続最大出力によって決められている。その規則に合わせるために、船主が自主的に所管官庁に出力変更の届を申請して承認を受けて行われる。よって、直接整備には関係ないが、検査官立会いで海上運転が施行される。
[2] 出力変更届の作成
 通常は、船主の依頼で機関製造所が製造時の各計算書や陸上試運転成績をもとに出力変更届に必要な設計検査用の書類を作成する。
[3] 出力変更の内容・機関性能変更例
例えば、ある機関の連続最大出力を955kW(1、299PS)から750kW(1,020PS)に変更する場合は

a. 主要目   連続最大出力  (kW)   750←955
    回転速度  (min−1)   376←410
    シリンダ内最大圧力  (MPa)   11.5←13.0
    平均有効圧力  (MPa)   1.56←1.86
b. 燃料ポンプラック目盛
 110%負荷時 平均値
 新:26.1 現:31.1
c. 燃料ハンドル目盛
 110%負荷時 平均値(参考)
 新:26.5 現:31.0
[4] 負荷制限装置のセットの方法
 5・31図の如く、735kW(1,020PS)の110%負荷の燃料ハンドル目盛(26.5)燃料ポンプラック目盛(26.1)にセットボルトをセットする。ボルトをセット後ワイヤ掛けをしてから封印をする。
5・31図 負荷制限装置
[5] 海上運転
 次の試験を行う。
a. 負荷試験:連続最大出力の3/4、4/4、110%を行う。
b. 4/4負荷運転中に速力、左右旋回、前進中後進試験を行う。
c. 上記a、bについて成績表を作成し提出する。
 この海上運転に乗船する機会があると考えられるため、運転成績の採取や出力の計算方法等に慣れておくとよい。
6) その他の運転性能の検討
 整備士としても、本船に搭載された機関が色々な角度から検討されることが機関を扱うエンジニアとして仕事の参考となると思い説明する。
[1] 過給機・空気冷却器を含む吸排気系統の検討
 最近の機関は、いわゆる高過給機関であって、その性能を持続するためには機関運転中の過給機の回転数と給気圧力を保つことが大切なポイントとなっている。
 そこで、陸上試運転の成績より過給機の回転数と給気圧力をピックアップして、その関係を縦軸に給気圧力、横軸に過給機回転数を取って平面上に表しておくと過給機性能をチェックするために有効である。
 5・32図は154頁5・3表の成績より作成したものである。
 例えば、整備後の試運転時の成績が◎の通りにプロットされたとすると、次のことが検討されなければならない等に利用する。
a. 吸入空気温度(機関室温度)が高くないか。
b. 過給機空気吸入フィルタの掃除が不十分か。
c. 機関室への通風量(供給空気量)の不足か、あるいはメカベンが故障していないか。
[2] 燃焼系の検討
5・32図 過給機回転速度と給気圧力の関係
 次の5・33図は154頁5・3表の成績より燃焼最高圧力と給気圧力の関係を表したもので、縦軸に燃焼最高圧力、横軸に給気圧力を取り平面を作ったのである。
 例えば、この平面上に整備前の本船データよりピックアップしたものを●、整備後の試運転成績を○でプロットしてみる。
 その結果、次のようなことが判明する。
a. 整備後の試運転のデータは、やや最高圧力が低いが機関の経年疲労等を考えれば正常であり、整備が問題なく行われたことを証明している。
b. 整備前のデータは、給気圧力に対して最高圧力が低く、ピストンリングおよびシリンダライナの摩耗、吸排気弁のシートの不具合等が想像される。
c. また、整備前のデータより、最高圧力は燃料ポンプの性能を受け易いためまず燃料ポンプの突き始めのタイミングをチェックしてセッチング表の通りであれば、ポンプのプランジャ・バレルの摩耗も想像され、燃料ポンプの圧力テストをリコメンドしている。
d. これより、整備の方案をたてる資料にもなる。
5・33図 シリンダ内圧力と給気圧力の関係








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