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第4章 燃料・潤滑油・冷却水
1. 燃料油
1.1 燃料油の分類
 燃料油の分類は、各種規格により数値が若干異なるが、JISその他の慣用呼称との対比を、4・1表に示す。
4・1表 燃料油分類の主な慣用呼称
日   本 USA ヨーロッパ
JIS K2205 通称 (慣用呼称) (慣用呼称)
1種 (1〜2号) A重油 Bunker A Light Marine Fuel
2種 B重油 Bunker B Medium Marine Fuel
3種 (1〜4号) C重油 Bunker C Heavy Marine Fuel
1.2燃料油の性状
 機関に使用する燃料の性状として重要な項目について、以下に説明する。
1) 密度
 1987年にJISが改正され、従来の比重(15/4℃)から密度(g/cm3at15℃)表示に変更されている。
 高密度の燃料油は遠心清浄機による水分分離が困難になり、安全に水分離できる限界密度は0.991である。
2) 動粘度
 従来動粘度は50℃におけるcSt(センチストークス)表示が一般的であったが、最新のJISでは50℃におけるmm2/sで表示している。ただし数値としてはcStと同じである。
 粘度の高い燃料油は噴霧粒子が大きく、貫通度が大となり分散性が悪化するため燃焼不良となる。
3) 残留炭素(残炭)
 残留炭素分が多い場合、高分子炭化水素の量が多くなり、燃焼が困難となるため燃焼室内、排気弁、過給機等の堆積物が増加する。
4) 水分
 水分は清水であれば燃焼に対する障害とはならないが、噴射系部品の発錆等の問題が起こる。また、高粘度油で加熱を要する場合べーパロックが起こる危険性がある。特に、海水の場合はNa分による過給機等への堆積物が増加する等の問題がある。
5) 硫黄(S)
 硫黄の含有量は、ほぼ、原油の種類(産地)により決まる。燃料油に高分子炭化水素の化合物として存在するため、遠心清浄機でも殆ど除去できない。
 硫黄分は、次のようにして硫酸を生成して各部に腐食を起こす。
 S+O2     →SO2   ――燃焼
 2SO2+O2   →2SO3  ――燃焼室内の酸素と化合
 SO3+H2O   →H2SO4 ――燃焼時発生する水分と化合
6) バナジウム(V)
 バナジウム(V)は排気弁等の高温腐食(バナジウムアタック)の原因になると言われている。
7) ナトリウム(Na)
 ナトリウム(Na)はデポジット付着(バナジン酸ナトリウム)の原因となる。
8) アスファルテン
 高アスファルテンの燃料は難然性であり排気温度上昇、スモーク増大、部品の温度上昇につながる。
9) 着火性
 着火性はセタン価・セタン指数やディーゼル指数で表される。
 セタン価はCFRセタン価測定用機関(F−5)を用いて測定するので比較的容易でなく、またC重油の測定は困難である。セタン指数はAPI比重と平均沸点から計算してセタン価を推定するが、残さ油を多く含むB重油以上では計測できない。
 ディーゼル指数はAPI比重とアニリン点から計算してセタン価を推定するが、燃料の種類によって計測精度が低く着火性指標としては不適当な場合も起こる。これに対し、CCAIという指標は燃料油中に含まれる芳香族性を表し着火遅れとの相関が高いので、最近よく使われるようになった。
1.3 燃料油の性状に関する障害
1) 軽油
 軽油の中でも、特に粘度の低いものを使用すると、プランジャとバレル間の潤滑性が悪くなって、スティックが発生する。
2) 密度・発熱量
 工場試運転時、ラックストッパをセットするが、工場使用燃料油と実際に使用する燃料油の密度・発熱量が違うと機関のオーバロードや負荷が掛からないといった障害が発生することがある。
3) バナジウム・ナトリウム
 バナジウムとナトリウムは燃焼中に酸化され、酸化バナジウム(V2O5)や酸化ナトリウム(Na2O)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)などを形成する。これらの生成物はお互いに反応して低融点の塩を生成し、ピストン、排気弁や過給機に付着する。この溶融塩は排気弁等の表面の保護酸化膜を溶かし、腐食を促進する。これがいわゆる高温腐食と呼ばれるものである。
 またバナジウムとナトリウムの酸化物の比率により溶融塩の融点が変化し、最も低い場合は300℃近辺にまで低下する(4・1図)。融点の低下を避けるためにバナジウムに対するナトリウムの比率は元素比で1/3以下にしておく必要がある。

4・1図 V2O5-Na2SO4 混合物の融点
4) FCC油(Fluid Catalytic Cracking)
 FCC油には分解精製過程で使用される触媒粒子のシリカ―アルミナが残存している。
このFCC油をディーゼル機関の燃料油として使用すると、次のような障害が発生することがある。
[1] 燃料噴射ポンプ・プランジャの早期摩耗
[2] ピストンリング・シリンダライナの早期摩耗
 これらの早期摩耗の進行の結果として派生的に以下の[3]〜[7]の状況を引き起こす。
[3] 燃焼ガスのブローバイの増加と潤滑油早期汚損
[4] 潤滑油消費量の異常増加
[5] 主軸受メタルやクランクピンメタル等の早期摩耗
[6] 燃焼不良や機関性能低下
[7] その他

5) ハイカロリA重油
 近年、軽質油と重質油の需給バランスの関係から、灯油、分解軽油、ビスブロークン軽油等がA重油の基材として使用され出しており、A重油の品質が変化している。この場合、品質の変化は着火性の変化に最も顕著に現れるが、現行のJISではA重油に着火性の規定はなく、従って着火性の点で、B、C重油並みのA重油が出て来る可能性がある。特に、陸上用の販売経路で販売されるA重油は外燃(ボイラ)用を目的としており、中にハイカロリA重油と呼ばれるものがある。これらは一般に船舶用等に販売されているA重油と異なり、石油メーカにおいてセタン指数等の着火性の規定はされていない。
 ハイカロリA重油(主として分解軽油)は石油メーカも、内燃機関には使用できない旨のPRを行っているが、着火性の低い燃料では始動困難や白煙の発生、及び高負荷時のPmax異常上昇等の着火、燃焼不良の問題がおこるので注意が必要である。
1.4 燃料油の取扱に関する障害
1) 燃料油加熱
 C重油使用で燃料油の加熱が不十分な場合、燃料噴霧の粒径が大きくなって、後燃え傾向になり、排気温度上昇・過給機早期汚損・潤滑油早期汚損を起こす。
2) 燃料油供給圧力
 燃料油の供給圧力が低すぎると、負荷が掛からなくなる場合がある。また高過ぎると、燃料ラックの動きが固くなって、ガバナ制御がうまくいかず、ハンチング又は始動不良を起こす場合がある。
3) 微生物
 燃料油タンク内にカビ又は藻類が繁殖し、燃料油ストレーナの目塞りを起こす場合がある。
1.5 高粘度燃料油の使用について
 内航船で使用される燃料油は船の運航経済性から漁船などに比較して高粘度油(低質油)が使用される場合が多い。
 全般的に高粘度になるに従って油中に含有する水分、硫黄分、残炭等の不純物が多くなるためその除去対策が必要となる。
1) 高粘度燃料油対策
(1) 燃料の加熱温度
 舶用ディーゼル機関の燃料噴射適正粘度はRW.No.1.60秒〜80秒であるので、高粘度燃料油を使用する場合は機関入口でこの粘度までに加熱する必要がある。
 従って、加熱に当たってはストレージタンク→セットリングタンク→サービスタンク→機関入口と徐々に要求される温度まで加熱していくことが望ましいが、就航路の北限での厳冬期の燃料温度を想定して上記各タンクの加熱温度を決定する必要がある。

 代表例として4・2図に1500秒油の処理系統を示す。
 加熱容量・タンク容量は735kW(1,000PS)当りの容量を示す。

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4・2図 1500秒油(RW.No.1.100°F)燃料処理系統

(2) ストレージタンク(船体付燃料タンク)
 ストレージタンクの位置は従来船体底部の二重底を利用するのが普通であるが、位置の選定は加熱カロリ節約のためにも工夫されるべき問題である。
 ストレージタンクの加熱温度は購入される燃料粘度により異なるが、送油ポンプの吸引能力より判断して概ね20〜35℃の範囲内である。
(3) 燃料送油ポンプ(FO移送ポンプ)
 ポンプ型式は高粘度C重油の場合はギア式よりネジ式の方がよい。又、ポンプ取付け場所はタンクトップにできるだけ近づけサクションヘッドを小さくし、吸引管の曲がりによる抵抗を少なくする工夫が必要である。
(4) セットリングタンク(燃料澄タンク)
 タンク構造は、縦長で底面の比較的小さいものが望まれるが、容量が大きい程水分、スラッジ等の分離効果がある。又、燃料補給管はタンク内壁に沿わせて加熱流れを攪拌しない配慮が必要である。
(5) サービスタンク(燃料供給タンク)
 タンク容量は、735kW(1,000PS)当たり1.0〜1.5m3以上とし、加熱温度は概ね90℃位を標準として保温を目的とした加熱器容量を設定する必要がある。
 タンク構造は、縦長として底部を傾斜構造とする外、船体のローリングによる撹拌を防止する内板を設ける等の工夫をする必要がある。またタンク内部にはスラッジが溜まり易いので、補強材等はタンク外部に設けるとか、燃料補給管はタンク内壁に沿えてタンク油が撹拌されないよう注意する必要がある。
(6) ミキシングチューブ(空気分離器)
 ミキシングチューブは燃料油管のエア分離を目的としているが、その容量は、主機関燃料消費量の20分程度の容量が望ましい。代表的寸法例を4・3図に示す。

4・3図 ミキシングチューブの寸法

(7) 燃料清浄装置
 遠心式清浄機及び全量こし式清浄装置がある。粘度の低いC重油の場合は、いずれの方式を採用してもよいが、1500秒以上のC重油を導入する場合は両方式を併置することが望ましい。この場合は、遠心式清浄機をサービスタンクの前にこし式清浄機を燃料供給ポンプと主機関の間に設置することになる。
遠心式清浄機入口の燃料油粘度が100〜120秒になるよう加熱することが必要である。
 遠心式清浄機については5.4項にて詳細説明する。
(8) 潤滑油処理系統(LO処理系統)
 主機関に高粘度燃料を燃焼させると燃焼残渣(スラッジ)が多くなり、このスラッジがクランクケース内に入り潤滑油の汚れや、劣化を著しく進めるので充分なる容量のLOボトムタンクとLO清浄装置を設置する必要がある。
2) 燃料等加熟対策
(1) 加熱源
 高粘度燃料油又は潤滑油を加熱するために必要な加熱源としては、電気による電熱加熱、蒸気加熱、温水加熱等が従来より使用されてきており、全加熱容量に対し電気容量、ボイラ容量が決定される。
(2) 加熱対象装置と温度管理
 加熱対象としては、ストレージタンク又はサイドストレージタンク、セットリングタンク、サービスタンク、FO清浄機入口、主機関主管入口、LO清浄機入口、FOスラッジタンク、A/Cブレンド装置入口、A/Cブレンドタンクである。又、保温トレースが必要なものとしては、主機関FO管、FOこし器、FO戻り管、FO供給ポンプ配管等である。
 加熱温度の目安になる管理温度標準値を燃料粘度別に4・2表に示す。
 また、粘度・温度関係図を4・4図に示す。

4・2表 管理温度標準値
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(3) ヒートトレーシング
 ヒートトレーシングは、C重油焚き主機関、A/Cブレンド重油焚き補機関のFO管系に行われる。トレーシング部分は、サービスタンクより機関までのFO管と機関よりミキシングチューブまでのFO戻り管に施行されるのが普通である。
 トレーシング方式としては、蒸気、温水、熱媒液を通す鋼管又は銅管をFO管に沿って抱かせ、その上に保温ラッキングする方式となっている。
(4) 保温ラッキング
 保温ラッキングは、B、A/C及びC重油FO管系全般、加熱するFOタンク群、FO及びLO清浄機、ミキシングチューブ等の機器はもちろん、弁、フランジに至るまで施工するのが普通である。
 また、加熱に必要な蒸気、温水、熱媒液系統の機器、管系の全般に施行される。
(5) 粘度管理
 高粘度燃料油の導入に伴い、必然的に燃料加熱の是非が機関部乗組員の重要な管理業務となってきた。すなわち燃料温度の管理の良否が、燃料粘度の変化に直結し、その結果は即、主機関燃焼の良否や加熱のために費やされる燃料コストに跳ね返ると共に機関の保守費用に影響を及ぼすこととなるので注意を要する。

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 この図から燃料油の温度変化による粘度変化の関係、大型バーナの燃焼に適する粘度範囲、ディーゼル機関の適正噴射粘度、ポンブ流動性の限界などを求めることができます。
 特に燃料油の粘度、温度関係は燃料油の加熱温度を知るときなどによく利用されるものです。たとえぱInter mediate Bunker Fuel #15(レッドウッドNo.1、@50℃で600秒)を燃焼に適する粘度に加熱するためには本図から100〜105℃にすることが必要となります。
4・4図 燃料油用粘度−温度図








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