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SR242「原油タンカーの新形コロージョン挙動の研究」 要約
Ship Research Panel 242
Study on Cargo Oil Tank Corrosion of Oil Tanker
Summary
Recently, excessive corrosion in uncoated plating of cargo oil tanks was reported in newbuilt crude oil tankers. Most of tanker owners and operators have been concerned about this accelerated corrosion, whose speed is higher than anticipated. In order to explicate causes and mechanism of the corrosion, Ship Research Panel 242 has carried out an investigation for 3 years.
Objectives of the investigation are the followings.
1)  Confirmation of the corrosion status for both recently built and older VLCCs
2)  Preparation of database on the corrosion and corrosion environment in cargo oil tank
3)  Hypothesizing mechanisms of the corrosion by analyzing results of the above 1), 2)
4)  Verification of the hypotheses by means of experiments in laboratories and on vessels
5)  Study on countermeasures to prevent corrosion.
Noteworthy results of the investigation are the followings.
1)  Vapor space corrosion
a) Mechanism of corrosion has been clarified and flaky rust scale has been reproduced by experiments.
b) There is no difference on corrosion between double hulls and single hull
c) There is no difference on corrosion speed between TMCP steel and MS steel
2) Tank top pitting corrosion
a) Mechanism of pitting initiation and growth has been almost clarified.
b) There is no difference on max. speed of pitting growth between double hulls and single hull, however density of pitting for double hulls is greater than single hull.
c) There is no difference on speed of pitting growth between TMCP steel and MS steel
1. 研究の目的
 最近、国内外のオイルタンカーのオーナーやオペレーターの間で、原油タンク(COT)の腐食に対する関心が高まっている。特に、近年建造されたVLCCと従来のVLCCのCOT内を比べ、その腐食速度の増大、腐食形態の変化があるとの論議がなされている。即ち、万一原油タンクに異常な腐食が生じた場合、原油の満洩、鋼材の早期な切り替え、構造部材の疲労寿命の低下に伴なう亀裂の発生、あるいは多量の腐食生成物発生による配管機器の破墳等の重大な危険が懸念されている。
 一方、オイルタンカーのCOTについての系統的な板厚計測データは乏しく、とりわけ若い船齢時点でのデータは皆無に等しい。また、過去に取得されたデータの整理・分析も不十分であり、特に孔食についてはきわめて記録が少なく、錆の形態について調査したデータが殆どない状況である。さらに、COTの腐食について取り扱った研究や文献は国内外共に少なく、最近になりようやく研究が着手されつつある状況である。このように、原油タンクの腐食については、種々の原因の可能性が挙げられてきてはいるが未だ特定には至っていないのが実態である。
 このような状況を鑑み、本研究は、COTの系統的な腐食データベースの構築、および腐食の原因とメカニズムの解明、それらに基づいた適切な防食対策の検討を研究目的とした。
2. 研究の目標
 本事業では以下の6項目について、研究成果を得ることを目標にした。
 [1] 各種調査と分析による系統的な腐食データベース構築
 [2] 実船調査によるCOT内腐食環境の把握
 [3] 原油タンク内の腐食発生状況の把握
 [4] 主要腐食発生メカニズムの仮説構築
 [5] 腐食メカニズムの検証と解明
 [6] 防食対策の検討と提案
3. 研究内容
[1] 各種調査と分析による系統的な腐食データベース構築
a. 実船の腐食関連データの収集と整理 文献調査、原油タンカーの板厚計測データの収集と整理を実施した。また実船のタンク底板の孔食データを系統的に整理した。さらに、陸上貯油タンク等の腐食事例を調査した。
b. 腐食メカニズムの検討と解明 COTタンクの上甲板裏面とタンク底板を重点に、タンカー腐食の因子や因子相互の相関関係を検討した。それら腐食のメカニズムの仮説を構築するとともに、この仮説を検証するために必要な情報の入手に向けて[2]、[3]、[6]の調査・研究を実施した。
c. 防食対策の検討の研究 原油タンクに対する防食対策についての現在の実施例を調査し、これらの結果ならびに本研究成果にもとづいて、防食対策の基本的考え方を検討した。
[2] 実船における腐食実態の把握の研究
a. 上甲板裏面の腐食実態の調査 実船における上甲板裏面の腐食状況の調査、および板厚計測結果の解析を実施し腐食衰耗の実態を把握した。また腐食環境因子データの収集、腐食生成物等の採取・分析等を実施した。
b. タンク底板の腐食実態の調査 実船におけるタンク底板の腐食状況について調査を行った。ピットマップの作成等により孔食の計測を実施するとともに、計測データの解析を行うことにより孔食等の実態と特徴等についての考察を行った。また、腐食環境因子データ、腐食生成物等の採取・分析等を行った。
c. 隔壁構造等の腐食実態の把握 実船における隔壁構造等の垂直構造及びその付属構造についても腐食状況の外観調査等及びその結果の解析を実施した。
[3] 腐食発生メカニズムの構築検証
a. 実船における試験片暴露試験の研究 平成11年度に実船タンクに取り付けたサンプルを全て回収し、腐食減肉量ならびに腐食形態の調査と解析、腐食生成物の分析を実施した。この結果を上甲板裏面およびタンク底板の腐食発生メカニズムの仮説構築に活用した。
b. 実験室試験による検証 上甲板裏面およびタンク底板の腐食メカニズムの仮説検証用データを取得するために実験室試験を実施し、腐食ガス成分、温度、海水などの腐食環境因子及び鋼材種類の影響を定量化するとともにタンク内腐食の再現を行った。
c. 実船における腐食モニタリングの実施 腐食環境と腐食進行の相関を把握するために、センサーを実船に搭載し、航海時にタンク内の環境と腐食変化を計測した。得られたデータを回収・解析することにより、上甲板の腐食メカニズムの仮説を検証した。
4. 得られた成果
 [1] 各種調査と分析による系統的な腐食データベース構築
・上甲板の全面腐食に対する平均板厚減肉量の定量化、ならびにタンク底板に生じる孔食進展速度の統計手法を用いた定量的な把握が可能になった。これにより腐食の進行速度の目安がつけられ、タンカーの安全運航への貢献が期待できる。さらに、船型と使用鋼材の腐食への影響評価が客観的に行え、COTの安全確保に有効な判断材料を用意することができた。
 [2] 実船における腐食実態の把握の研究
 上甲板裏面の腐食
・COT内のガス成分は、従来の腐食化学では考えられなかったH2SとO2が共存するもので、タンク内は非常に厳しい環境下にある。
・上甲板に見られる腐食は全面腐食であり、形成される腐食生成物は、単体Sと酸化鉄層が交互に積層された形態を取る。その重量の約60%はS分であり、錆量は格段に少ない。
 タンク底板の腐食
・タンク底板の腐食は孔食である。S/Hでは水滞留部または流水部に孔食が発生し易い傾向が見られる。D/HではS/Hに比較して就航直後から孔食発生頻度は高い。
・鋼板表面に形成されるオイルコートの保護性は高く、一方オイルコートの状態が不均一な部分には孔食が多く発生する。
・孔食は入渠時を基点に発生し成長する。S/HとD/Hの孔食進展挙動には差がなく、腐食の進展過程はほぼ同一と解釈される。
 [3] 腐食発生メカニズムの構築検証/解明
 上甲板裏面の腐食
・上甲板裏面の腐食は、COTタンク内の腐食性ガス組成(H2S,CO2,H2O,O2)と露点そして上甲板の昼夜の温度変動が主要な因子となる。腐食はこの環境因子の影響を強く受けて変化するが、MSとTMCPの鋼種の差、D/HとS/Hの船型差による腐食速度の差違はない。
・タンク底板の腐食
・タンク底板の孔食は、鋼材表面の保護皮膜に何らかの欠陥が引き起こされ、マイクロセルが形成されることにより発生、進展する。保護作用を発現する要素にオイルコート、ミルスケールなどが、欠陥を引き起こす因子には、滞留水、COW照射、固体S等がある。オイルコートによる保護皮膜形成は船殼構造の影響を受け、S/HとD/Hの構造差が孔食発生状況の差と関連する。
・孔食の進展速度については、S/HとD/Hの間に差違は見られない。また、孔食の発生、進展に対しては、MSとTMCPの鋼種の差はない。 また、それぞれの腐食のメカニズムが明らかにされたことで、防食方法の方向性を示すことができた。
5. 成果の活用
 本研究の結果を基に、下記のような活用が期待できる。
(1)原油タンク内での各種鋼材の腐食性能に関する系統的なデータベースが構築できた。その結果、腐食速度の評価を正しく行うことができ、タンカーの安全運航への大きな寄与が期待される。
(2)TMCP鋼が、腐食の観点からも問題なく活用できることを裏付けるデータが整備できた。よって、TMCP鋼を活用する日本の造船、ひいては海運、鉄鋼および関連産業の国際競争力の維持、強化への寄与が期待できる。
(3)D/Hタンカーのカーゴタンクの腐食現象に対し、世界に先駆け正しい認識を得ることができた。 この結果に基づき新しい効果的な防食方法が生まれる可能性がある。








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