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3. 検討の内容
3.1 「船舶の地中温暖化対応について」 -CO2排出削減と自然エネルギーの活用-
まえがき
 船舶は輸送機関の中では最も省エネルギーなものであり、大量輸送機関であるにもかかわらずCO2排出量は少ないが、その船舶も国内輸送では運輸部門のCO2排出量約2.6億トン(全体の約21%)のうち、内航海運*1は5.6%(CO2排出量約1,500万トンで日本全体の1.2%)となっている。また外航海運*2では、世界全体で約4億トン(世界の総排出量約240億トンの約1.7%)のCO2を総体としては排出していると推定されている。
 従って、地球温暖化防止の観点からCO2削減の努力が基本として重要であるが、京都議定書をめぐる国際的な動向等を見れば、欧米諸国はビジネス戦略を含む国際戦略の中で動いており、国際標準等で我が国が後れをとった轍を踏まないためにも、船舶はCO2の排出が少ないというだけの守りの姿勢ではなく、「環境の世紀」といわれるなかで新たな展開を図っていくという前向きの視点と戦略が必要である。
 このような観点から本調査では、船舶からのCO2削減のためには何が効果的であり、どのような技術開発が必要なのか、自然エネルギーの活用はどうか、またCO2削減の実施方策とその課題等についての調査検討をした。
 *1; 漁船は農林水産部門の取り扱いでありこの排出量には含まれない。
 *2; 外航船のCO2削減は国際海事機関(IMO)で審議される。
3.1.1 地球温暖化防止の背景と現状
(1) 温室効果ガスとその発生源
 大気中の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)等の温室効果ガスは、地表からの赤外線を吸収・放射し地表を暖めるが、これがないと地球の平均気温は-18℃になってしまうなど地球の生態系を支えているものでもある。ところが現在、人間活動の活発化から温室効果ガスの濃度が増加し気温が急速に上昇する地球温暖化現象が問題となっており、過去100年間で0.6±0.2℃(日本では約1℃)上昇し、対策がなければ21世紀末までに1.4〜5.8℃上昇するといわれている。
 各ガスの温暖化への寄与度は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のデータによれば、
CO2; 化石燃料の燃焼など ……………………………………… 60.1%  
メタン; 化石燃料の燃焼、廃棄物埋め立て、農業関連………… 19.8%  
N2O; 燃料の燃焼など …………………………………………… 6.2%  
HFC; 冷媒、発泡剤など ………………………………………… 0.2%  
PFC; 溶剤、洗浄など …………………………………………… 0.2%  
SF6; 半導体製造、変圧器絶縁ガス …………………………… 0.1%  
CFC,HCFC,ハロン; モントリオール議定書(オゾン層保護) …… 13.5%  
となっており、CO2が最大の温室効果ガスである。
 そのCO2排出量は、世界全体で242億トン(1997年)であり、南北格差が大きく先進国が約60%を占め、アメリカは23%(1位)、日本は5%(4位)である。
 我が国のCO2排出量・約12億トン(1998年)の部門別内訳(電力分配後)を見ると、エネルギー転換部門(発電、精油など)69%、産業部門(工場など)40%、民生(家庭)部門12.7%、民生(オフィス、店舗など)部門12.2%、運輸(自動車、内航、航空など)部門21.7%(約2.6億トン)などが多い。
 また、運輸部門では、自家用乗用車55.6%、自家用・営業用貨物車28.6%、タクシー・バス3.6%と自動車が計88%と圧倒的に多く、内航海運5.6%(約1500万トン)、航空4.0%、鉄道2.7%と少ない。
 なお、外航船舶からの排出量は、これらとは別に世界全体で約4億トン(世界の排出量の約1.7%)と推定されている(国内集計では航空機と合せて約3600万トンだが、日本の排出量からは除外)。
 
 (2) 気候変動枠組条約と京都議定書…COP7まで
 100年間で数度という温度上昇は、一見少なく見えるが、その影響は大きく、
[1] 「生態系が対応出来ない。」
植物の移動速度は、100年間で数度という気温変化について行けず、多くの樹木が打撃を受け、そこに生きる動植物も影響を受ける。
[2] 「異常気象・自然災害の被害が大きくなる。」
温暖化により降水パターンのバランスが崩れ、極端な洪水や干ばつなどが増加する。
[3] 「食料生産に被害が出る。」
温暖化が進行すると、世界の穀倉地帯の乾燥化などマイナスの影響が大きい。
[4] 「海面が上昇する。」
温暖化が進むと海水の膨張、氷河の融解等により海面が上昇する。20世紀に10〜20cm上昇し、今後100年間に最大88cm上昇するといわれている。これは小さな島国や低地に住む人々にとって深刻な問題であり、我が国も少なからず影響を受ける。
などといわれている。
 このように地球温暖化の影響が大きいと予測されることから、1980年代には科学者の間で問題視されるようになり、1988年には、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立され、科学的な調査研究がされるようになった。IPCCの第1次報告書を受け、1990年の世界気候会議(ジュネーブ)では、国連での条約化が決議され、1992年5月の国連総会で「気候変動枠組条約」が採択された。直後の6月にリオデジャネイロで開催された地球サミット「環境と開発に関する国連会議」(UNCED)から署名が開始され、条約は1994年3月に発効し、2001年6月現在、日本を含む181カ国が加わっている。
 この条約では、温暖化防止の国際的な枠組みを決めることや、2000年までの削減努力が示されているが、法的拘束力が無いことなどから、締約国会議(COP)が開催されることとなり、1995年に第1回(COP1)がベルリンで開催された。
 COP1では、2000年以降の先進国の削減目標を盛り込んだ議定書を1997年開催のCOP3で採択することなど(ベルリン・マンデート)が決議され、その後COP2(ジュネーブ)を経て、1997年12月京都でCOP3が開催された。
 COP3では、各国の利害が対立するなか、先進国の温室効果ガス排出量削減の数値目標が定められた。先進国全体で6つのガス排出を、2008〜2012年の間(第一約束期間)に1990年と比較して5.2%削減するとし、各国ごとに以下の数値目標が決められた。
10% :アイスランド  
8% :オーストラリア  
1% :ノルウェー  
0% :ニュージーランド、ロシア  
-6% :日本、カナダ  
-7% :アメリカ  
-8% :欧州諸国連合(EU)  
 また、先進国間の排出量取引や共同実施(JI)、途上国とのクリーン開発メカニズム(CDM)などの仕組みや、森林吸収源を取り扱うことなどが決められた。
 その後、COP4(ブエノスアイレス)、COP5(ボン)、COP6(ハーグ)と京都議定書の具体的なルール作りの作業が進められたが合意に至らず、2001年7月のCOP6再開会合(ボン)に議論は持ち越された。
 その間、2001年3月、ブッシュ政権が、途上国に削減義務がないこと、米国の経済に悪影響があるなどの理由から京都議定書を支持しないことを表明したなかでCOP6再開会合(ボン)が開催され、日本は森林吸収源による削減が3%まで認められるなどしたが、現時点では米国抜きでも発効すべきとの意見と、米国への説得の努力をすべきとの意見があり複雑な状況のなかにある。
 国際的な動きは、今後、2001年10〜11月のCOP7(マラケシュ)を経て、リオデジャネイロ・サミットから10年目の2002年地球サミット(ヨハネスブルグ)へとつづくが2002年は京都議定書を実施するためにはタイムリミットの年といわれており、何らかの国際的な合意が得られることが期待されている。
 我が国の国内的な対応としては、京都議定書の採択を受けて平成10(1998)年6月に「地球温暖化対策推進大綱」が決定され、また「地球温暖化対策推進法」が1999年に施行されるなど、総合的な対策が推進されることとなった。
 大綱は、我が国が温室効果ガス排出量6%削減を目指すため、自動車の燃費基準を1995年比15%〜20%向上させること、鉄道、船舶(内航)、航空機のエネルギー消費原単位を1995年比、鉄道約7%、船舶(内航)約3%、航空機約7%改善すること、物流の効率化、公共交通機関の利用促進、交通渋滞の緩和をはかること、経団連の環境自主行動計画の実効性の確保、新たな省エネルギー型技術の開発・普及の推進や、森林整備の推進、ライフスタイルの見直しなど多分野での総合的な推進策からなっているが、原子力立地の推進と新設が前提となっているなど今後の課題は多い。
 
(3) 海上交通等におけるCO2削減
 船舶による海上輸送は他の交通機関に比べCO2排出量はかなり少ない。船主協会の資料によれば、
◇貨物を1トン・1km運んだ場合のCO2排出量;
 営業用普通トラック(48g)、営業用小型トラック(180g)、自家用小型トラック(599g)、フェリー(13g)、内航海運(10g)、JR貨物(6g)、航空(402g)となっている。
 従って国内輸送では、物流の効率化を図るとともに、自動車輸送から海上輸送等へのモーダルシフトを進めることが地球環境保護にとってはよいといえる。
 ただし、モーダルシフトは自動車のCO2排出量を減少させるが、海上交通のCO2排出量を増加させることには留意しておく必要がある。
 例えば自家用/営業用貨物車(運輸部門2.6億トンの28.6%=約7400万トン)の5%分( 372万トン)がフェリーに転換したとすると、その分自動車は減少するが、フェリーでは最大(x13/48)100万トン程度が増加する計算となる。
 海外との物流は海運と航空であるが、高速を要する航空貨物以外の物流は外航海運が担っており、陸上交通を含む国内物流の場合とは異なる。
 なお、外航船舶のCO2削減については、IMOで審議されることになっている。
3.1.2 船舶からのCO2等の削減方法
A.船舶技術によるもの
(1) 船体抵抗低減(船型、摩擦・空気抵抗)によるCO2削減方法
 船舶を推進する際の抵抗を出来るだけ低減し、より省エネルギーな運航をすることによりCO2削減を図る方法であるが、表1に示す「船舶の流体抵抗成分の割合」を見ても分かるように、これまで数々の船型改善やバルバスバウによる造波抵抗減少等の結果から、船舶の流体抵抗では摩擦抵抗が最大成分となっている。この摩擦抵抗を低減し省エネルギー船とすることがCO2削減にもつながる。
 
表1;船舶の流体抵抗成分の割合
  タンカー コンテナ船
流体抵抗 水抵抗 粘性抵抗 摩擦抵抗 75% 50%
圧力抵抗 10% 10%
造波抵抗 10% 30%
空気抵抗 5% 10%
 
 従って、船の摩擦抵抗を1割・削減することが出来れば、タンカーでは7.5%、コンテナ船でも5%の抵抗低減を図ることが出来る。
 以下に、現状での摩擦抵抗低減技術について述べるが、その方法には、現状大きく分けて以下の3つの手法がある。
 
a. マイクロバブル法
 実用に最も近いとされる主力の方法であり、船首方向よりマイクロバブル(直径約1ミリ程度)の多数の泡を船体表面の境界層に沿って流すことにより摩擦抵抗を低減する手法であり、投入エネルギーを差引いても数%の効果があることが確認されている。このためSR239では平成13年9月「青雲丸」にマイクロバブルの発生装置や各種の計測装置を設置し、世界で初めての実船実験を行なっている。
 この実験ではマイクロバブル発生装置をパイプにより外板付けにすることなどの制約条件があることから低減効果は低くなったが、これを新造時から計画すれば、より有効な発生装置の設置が可能であること、CFDによる吹き出し位置の最適化、流れの最適化等を図ることにより、低減効果は十分期待出来るものになると思われる。
 
b. 空気膜法
 VLCC等の広大な船底フラット部分を薄い空気膜で覆うことにより摩擦抵抗を画期的に低減する手法であり、SR239でもその有効性は確認されている。しかしながら数メートル程度の模型実験では分からなかったが、空気膜の長さは航行中の船舶を想定すると現状技術では数メートル程度が限界であり、船底全面を空気膜で覆うためには投入するエネルギーが大きくなることなどから、いまひとつのブレークスルー技術が必要とされている。
 
c. 表面処理法
 船体表面の形状や塗料等を工夫することにより摩擦抵抗を低減する手法であり、新型塗料の開発等が進めば一気に進展する分野である(自己研磨型塗料はある意味では抵抗低減型塗料の一つともいえる。)また、表面処理法についても、他分野ではゴルフのディンプルや水泳の抵抗低減効果のある水着などの例もあり、経済性のある手法があれば船舶の分野のみならず波及効果の大きい技術となる。
 このように船舶の摩擦抵抗低減技術の研究開発では、我が国は実船実験までのレベルでは先行しているが、基礎技術分野に強い欧米諸国や、アジアにも世界レベルの研究者がおり、どれだけ特許やノウハウ等の技術力を確保しつつ実用化(実船への搭載)を図っていくかが重要となっている。
 また、この摩擦抵抗低減の実用化までのプロセスには、我が国での技術開発の進め方にとって重要な側面も有している。即ち、例えばマイクロバブル法では数メートルの模型船での微少なバブルの振る舞いと2〜300mの実船での効果には従来の相似則等は通用しない。従って長大模型(造研SR239では長さ50m)による水槽試験、CFD等の活用を図るとともに実船での試行が技術開発にとって不可欠であり、公的な船の協力や一般商船を含む実船での実績を積み改良を重ねることが、開発の果実を得るためには重要である。
 また日本の悪い面でもあるが、新しいものに対し「コストがかかり誰も買ってくれない。」などと言っているうちに、諸外国に先行を許してきた例が多い中で、この技術分野が、そうならないことを期待するものでもある。
 
(2) エンジンによるCO2削減方法
a. ディーゼルエンジン
 ディーゼルエンジンは、各種原動機の中で最も燃料消費率が低く、すなわち熱効率が最も高く、既にCO2排出削減という観点からは優位の立場にある。また、熱効率は出力が増大、すなわち大形化するにつれて向上する傾向にあり、現状における大形エンジン単体での最大熱効率は、2サイクルエンジンでMax.54%、4サイクルエンジンでMax.51%に達している。
 これらの数値は既に限界近くに達しており、エンジン単体での一層の熱効率向上は厳しい状況であるが、更なるエンジンの高出力化・燃焼室廻りの新材料開発・断熱高温化技術等により、数ポイント程度の熱効率向上は期待される。
 また、船舶の推進機関は用途上、部分負荷から定格負荷の全域で使用されるため、高出力化と共に定格負荷において最良燃費となるよう調整されて部分負荷は犠牲になることとなる。今後は、全域における燃費改善を図りCO2排出削減に貢献することがポイントであり、商用実用化への段階となっている電子燃料噴射技術・電子吸排気システム技術・可変翼過給機技術等の性能に関わる装置の可変化技術が重要である。
 一般的にディーゼルエンジンの低燃費化、すなわちCO2低減はNOx排出量を増加させるトレードオフの関係にあり、NOx排出量を約30%低減して規制値をクリアするための燃料噴射時期遅延等はかなり燃費率を犠牲にしている。
 最近、この課題を克服する手法として、圧縮比上昇・燃料噴射系及び過給機の改善技術・燃焼室最適設計等により初期段階からピークのない全燃焼期間にわたり過度に高い熱発生率の生じないスムーズな燃焼とする技術が開発されている。また、前述の電子燃料噴射技術・電子吸排気システム技術・可変翼過給機技術等の可変化技術もこの課題を克服する手法として期待されている。
 なお、NOx等低減のために、排ガス再循環(EGR)や触媒等による低減技術を採用する場合にはエンジン本体は燃料消費率向上のための開発に特化して行なうことが出来るという考え方もある。
 また、ディーゼルエンジンは宿命となっている重質・低質油燃料焚きに有利であることも環境保護全般からみれば重要な点ともいえる。
 
b. ガスタービン
 ガスタービンは、本体の燃料消費率・熱効率ではやや劣り、大形化するにつれて著しく向上するが、現状における大形ガスタービンの熱効率はMax.42%であり、ディーゼルエンジンに比べて約10ポイント強劣る状況である。
 近年、ガスタービンの低燃費化、すなわちCO2低減は、新耐熱材料開発・冷却技術向上等の技術向上がめざましく、燃費率は益々良くなり多分野に普及していくと考えられている。
 一般的にガスタービンはディーゼルエンジンに比べて、良質燃料油を使用し、燃焼温度も低いため、NOx排出量は低いという長所を持っている。しかし、ガスタービンもディーゼルエンジンと同様に熱効率の向上を図るほど、NOx排出量が増加するトレードオフの関係にあるという宿命を持っているため、燃焼温度を低下させる新技術の開発も重要である。
 ガスタービンはディーゼルエンジンに比べて熱効率が低いが、逆に排気温度が高いため排気熱回収による熱効率向上に有利とも言える。排気熱利用技術として再生サイクル、コンバインドサイクル、トータルエネルギーシステム等が注目されている。
 舶用ガスタービンの開発動向として、国家プロジェクトのSMGT技術研究組合による開発が平成9年度からスタートしており、再生サイクルガスタービン技術の採用により、中・高速ディーゼル対応の熱効率38〜40%を目標としている。
 以上、熱効率を主点としてディーゼルエンジンとガスタービンの比較を述べたが、その他にも両エンジンには一長一短が有り、その比較結果を表2に示す。
 
表2;ディーゼルエンジンとガスタービンの比較表 (常用、大形エンジン)
  ディーゼルエンジン ガスタービン
熱効率
(燃料消費率、CO2排出量)
○2サイクル Max.54%
  4サイクル Max.51%
×Max.42%
NOx量
(燃焼温度)
×Max.約2500ppm
(約2100〜2300℃)
○Max.約300ppm
(約1700〜2000℃)
使用燃料(低質油焚き) ○低質油(C重油) ×良質油(A重油)
出力 △大出力不可 ○大出力可
燃焼用空気量 ○少 ×多(約3〜4倍)
サイト条件変化(ディレート) ○小 ×大
振動 ×大 ○小
騒音 ×低〜高周波 ○高周波のみ
冷却水 ×要 ○不要
体積・重量・据付 ×大 ○小
部品点数 ×多 ○少
製造コスト ○安価 ×高価
メンテナンス間隔 ○長 ×短
ランニングコスト ○安価(約\6〜9/kWh) ×高価
排気熱回収(コンバインドサイクル、トータルエネルギシステム等) ×少 ○多
全熱利用率 50〜70% 50〜70%
     
記号説明; ○優れている。 △何とも言えない。 ×劣る。
 
c. 燃料電池
 燃料電池は水素(改質ガス)と酸素(空気)から、燃焼を伴わず理論的に高効率な電気化学反応によって電気と熱を取り出す。また、この電気化学反応ではCO2の発生はないが、水素を天然ガスやメタノール燃料から改質して作る場合はCO2が生成され、水素を燃料にした場合も石油資源から生産する方式や電力網からの電気による水分解の方式ではCO2を発生する。ただし、石油系燃料の単位炭素含有量(1TOE=107kcal当たりの炭素ton)には、C重油0.8180、メタノール0.7851、ガソリン0.7658、天然ガス0.5639、LNG0.5639の差があり、機関の効率が同一であればこの割合がCO2排出量の比になる。
 燃料電池には電解質の種類によっていくつかの型があるが、溶融炭酸塩型(MCFC)や固体酸化物型(SOFC)は動作温度が600℃以上の高温で中規模発電プラント向きであり、リン酸型(PAFC)、固体高分子型(PEFC)、アルカリ型は比較的低温で動作するので、分散型コジェネレーションや自動車用等に向いている。現状でのシステム発電効率は溶融炭酸塩型45〜55%、固体酸化物型45〜55%、リン酸型35〜45%(改質)、固体高分子型35〜45%、アルカリ型50〜60%位である。
 船舶用エンジンとしてどの型を採用するかは、陸上で開発の進んだものの中から舶用に適したものを選ぶのが得策と思われる。
 平成2・3年度に、シップ・アンド・オーシャン財団で検討された燃料電池推進船はLNGを燃料とする溶融炭酸塩型のLNG船、ナフサを燃料とする溶融炭酸塩型のフェリー、メタノールを燃料とする固体高分子型の観測船であった。在来船と燃料消費量の比較をしているLNG船については、幾つかの仮定はあるが燃費は燃料電池推進船の方がよいとなっている。溶融炭酸塩型は重量・耐久性・コストに問題があり、固体高分子型は白金触媒のCO被毒による性能劣化が問題であるとされている。
 また、造研では平成6〜8年度にナショナルプロジェクトとして固体高分子型を対象とした、燃料改質、負荷変動対策、海水影響等の舶用推進システムの研究が行なわれ、燃料電池本体の開発が進めば燃料電池推進船は可能であるとの結論が出されている。
 近年、自動車用として固体高分子型の開発が著しく進んでおりコスト問題からは最短距離にあり、触媒のCO被毒問題も解決しつつある。短い起動時間と部分負荷性能に優れており、まだ耐久性・信頼性・コストに問題を残しているが、実用化の可能性は高い。自動車の場合ガソリン車とガソリン燃料電池車の燃費は総合効率で各々20%、31%(将来のハイブリット車では、31%、34%)という試算もある。
 従って、改質による水素を燃料とする場合でも、燃料の炭素含有率の低さと燃料電池の燃費の良さにより燃料電池推進船はCO2排出量を低減するものでもあり、今後の技術開発等の進展によっては、その可能性は高いものと思われる。
 
d.原子力船
 原子力発電はCO2を排出しないので地球温暖化防止になるという意見と、放射性物質という地球環境への汚染物質を作り出すので単純に歓迎できないという意見がある。また、燃料である濃縮ウランは大量の電力で作られており発電全体のCO2発生量をカウントすべきという意見もある。これらの事情は船舶においても同じであろう。
 今、在来船を原子力船に代替することによって海運からの直接のCO2排出を削減する量については、原子力船の普及度に依存する。普及に関わる問題点として経済性と社会的容認が大きい。
 
[1] 経済性としては、原子力は固定費コストが高く燃料費が安いことから、原子力発電所が大規模出力で成り立たせている経済性を、原子力船という比較的小出力のプラントで達成できるのか、という問題がある。
 現在の原子力発電所は110万kw、原子力船むつは3.6万kwである。原子力産業会議の経済性評価の調査で構想された4000TEU原子力コンテナ船は25ノツトでは14.3万kwでデイーゼルに負けるが、30ノットになれば32.3万kwでディーゼルに勝るとなっている。
 
[2] 社会的容認としては、安全性と環境汚染の問題があるが、原子力発電所と同じレベルの問題に加えて、国際航海を含む移動体としての問題点がある。海難事故や、炉心溶融事故時の海水との水蒸気爆発の可能性、寄港地の放射性物質管理業務、人口密集地への寄港の問題、原子炉運転向け特別船員教育、核ジャック対策などのため、原子力発電所以上に容認カ灘しく、当面は基礎技術の開発と、北極海での砕氷船等の特殊船分野に限定されたものになるであろう。
 
e. その他
 最近、排ガスから直接CO2等の有害ガスを分離・除去する研究も開始されており、ディーゼル、ガスタービン等の機関の種類を問わず、また陸上を含め波及効果の大きい技術であり、その動向が注目されている。ただし、実用化までの過程では分離したCO2の処理や装置のスペース、コスト等にも配慮することが必要であろう。
 
(3) 推進システムによるCO2削減方法
a. 推進器等の高効率化
 推進器にはプロペラ、ウォータージェット(WJ)、ポッド型(POD)などがあり、またプロペラでも、その機能により可変ピッチ、二重反転、スキュードプロペラ、キャビテーション(SCP、TPC等)があり、さらにはフィンやダクトを付加したものもある。
 これら推進器は、それぞれ船舶の種類や用途により使い分けられているが、適切な選定と設計、製作の良否により、性能の確保、燃費の良否、振動等に関係してくる。
 従って、その船に合った適切な推進器の選定と性能・効率の向上は、運航性能の確保は勿論、燃費の向上ひいてはCO2の削減にもつながる。
 効率の面からは、一般商船で数多く使われているプロペラは最も効率のよい推進器であるが、その良否やフィン、ダクトの装着により燃費に5%程度の差があるといわれており一考を要する。またPOD型は船型改良等と併せた高効率化を図る必要がある。
 ウォータージェット推進は、プロペラより効率が悪く高出力であることから燃費多消費型であるが高速船の推進器としては適しており、その効率向上は高速船分野の今後の発展にとってその大型化とともに重要なアイテムといえる。
 
b. 電気推進とシステムの組合せ
 現在の石油エネルギーに代わる新たなクリーンエネルギーとして、ガス資源等代替燃料を利用する原動機として、ガスタービン・ガスエンジンが実用化され普及するものと期待されている。また燃料電池の開発も自動車、コジェネレーションの分野では日進月歩の開発が進んでおり、今後はこれらの機関の船舶搭載も考えられるが、その場合、各機関の特性上から主機関及び発電機関を含めた所要出力を分散して多台数の発電機関による電気推進方式が適切と思われる。電気推進方式は種々の運行パターンに対して運転台数の調整が可能であるため各機関の最良熱効率域で使用でき、トータル的にCO2低減に寄与するものと考えられる。
 また、後述の自然エネルギー(風力・太陽光等)は、電気として多分野で普及推進されているが間欠的なエネルギー源であることからも、常用発電機関とのハイブリット技術は容易に実用化されるものと考えられる。
 
(4) 自然エネルギーの活用によるCO2削減方法
 太陽光、太陽熱、風力、波力、潮力、海水温度差、地熱等の自然エネルギーは、燃料を全く必要としないことから、排出物もなく究極のグリーンエネルギーといえる。 この中で、船舶に比較的容易に適用可能と思われる太陽光、風力に関して、その利用技術の現状と、将来性についての考察を行なった。
 
a. 太陽光の活用
 現在実用化されている太陽光発電、いわゆる太陽電池の効率は結晶型で15〜20%、アモルファス型で11〜12%位であり、結晶型でシステム損失を考慮すると10%位といわれている。さらに太陽光はエネルギー密度が低いので、発電能力は約100W/m2(即ち、1kwの電力を得るには10m2必要)である。従って、大電力を得るには大きな設置面積を必要とする。しかも、この発電能力も天候、温度により左右されるため必ずしも安定供給型エネルギーとは言えない。ましてや、船舶のような移動体に採用する場合には必ずしも最適な適用が可能とは限らない。
 塩分の付着等による太陽電池表面の汚れは発電効率の低下を招くため、広大な甲板面積を有するタンカーであっても、フリーボードが低いため必ずしも適船とは言えない。最も設置場所を得易い自動車専用船にて約3000m2=300kwの発電システムを採用した場合でも、現在の価格では設置費用が約2億円の試算となり、燃料節減による設備費回収はとても困難である。
 発電効率の大幅向上と、価格の1桁低減が望まれるところである。
 なお、現在開発途上の塗料型太陽電池(注:参照)などが実用化されれば将来有望なものとなる可能性はある。
 注:国際基盤材料研究所(日本経済新聞「技術創世紀/塗る太陽電池街に」(8月18日)参照)
 
b. 風力の活用
 風力の利用の仕方として、帆装により直接、船の推進力として利用する方法と、プロペラ等により発電し電力として利用する2通りの利用が考えられる。
 
 i) 風力推進
 既に、昭和55年建造の新愛徳丸を初め、大型船では30,000DW型外航貨物船を含む16隻の内航船等にて実用化されている。これらは主機と帆装を組み合わせた、いわば機主帆従の設計で、定速航行時は自動操舵と主機自動制御により、主機及び帆装から得られる出力の総和が一定となるように制御されており、新愛徳丸では約20%の省エネ効果の時もあったといわれる。しかしその後、帆装商船は当時の燃料油価格の低下による経済性や、システムが複雑であったとの理由から建造されていない。
 しかしながら、風力で得られるエネルギーにて平均10%の馬力利得があり、この利得は船のサイズによってあまり変わらず、また、風力によるPower Gainは高速船ほど大きくなる傾向にあるなどのメリットがあり、再考を要する課題といえる。
 帆装追加により船価は約10%UPとなるが、燃費節減により20,000DW型バルカーでの試算では6〜10年で回収可能である。但し、荒天時の対策、着桟・停泊時等港内での操船性能向上対策、ハイブリッドシステムの検討など更なる研究が望まれる。
 
 ii) 風力発電
 一般に航走する船上でプロペラなどを回すことは、抵抗増加になると考えられるが90,000DW型大型石炭船に12kwサイズの小型風力発電装置を12基分散配置して、どの程度のエネルギー回収が見込めるか、海技大学/神戸商船大学等で研究がなされている。その結果によると相対風速の出現頻度に左右されるが、主機の燃費は3.3kg/h増加するものの、発電用ディーゼル機関の燃費は16.2kg/h削減され、差し引き12.9kg/h、1日平均で129kg/日の省エネルギー効果(約36t/年)が期待されると報告されている。但し、この程度のエネルギー回収率(約0.3%に相当)では、船舶の稼働期間中に設置費用を回収することは困難で、更なるブレイクスルーが期待される。
B. 運航・物流技術によるもの
(1) エコナビゲーション(最適航路/減速運航)によるCO2削減方法
a. 最適航路による効果
 船社は船の安全とスケジュールキープの目的で、Weather Routing Service(WRS)を利用するが、その効果を検証することは必ずしも容易ではない。
 過去のWRS採用実績船で実航路と計算上の最短距離航路をとった場合、かかったであろう航海時間を比較したところ、船種により多少異なるが北太平洋、北大西洋の冬季で、平均約8〜10時間の航海時間短縮効果が見られた。これは2〜3%の節減効果となり、必ずしも無視し得ない値といえる。
 また、SR240で開発が進められているフリートサポートシステム(FSS)では、WRSと船体状況から最適のウェイポイントを選択するシステムが内蔵されており、実海域での最適航路選定に資するものであり、航行安全のみならず省エネ効果にも寄与するものといえる。
 
b. 減速運航による効果
 バンカー価格が高騰した折り、船社は燃料節減のために必要以上に高速で航行することを禁じる、言わば減速航海奨励運動を行うが、実績として約800隻を対象に実施した結果、約11億円/年間(約2%の燃費節減)の節減効果が報告された例がある。これも無視し得ない省エネ効果といえる。
 CO2削減という観点から見れば、バンカー油価格の高低にかかわらず、これを計画的に行なうことが地球環境保護に繋がることともいえる。
 
(2) 物流改革等によるCO2削減方法
a. 海上輸送の効率化(企業アライアンス)
 国内海上輸送は企業系列ごとに行われている。物流合理化を目指して荷主企業が合併や業務提携を行い物流コストを削減しているが、これは不必要な輸送活動を削減するもので、CO2排出量も同時に削減することになる。輸送システムを同一にする場合、融通という製品融通によって特定の輸送を止める場合などがある。前者では物流シミュレーションにより企業アライアンスの効果を調べたところ、約25%の削減となった例もある(海技研の研究)。工場と消費者の距離が縮まったためである。企業アライアンスが自由に行われる社会環境がCO2排出量削減に効いてくる。
 
b. モーダルシフトの推進
 陸上走行トラックを燃料消費量(CO2排出量)原単位[CO2ton/輸送ton]の低いフェリー・RORO船に載せることでCO2の排出量を削減するモーダルシフトは少しずつ進んでいる。船社は運賃を下げる、便の発着時刻を変更する、高速化する、航路を新設するなど種々の努力をしている。今後も顧客ニーズに沿った改善が必要である。ただしCO2排出量の観点からは、トラックよりも燃料消費原単位を大きくする単なる高速化はCO2削減にはならない。
 これからも種々の試みがなされるべきで、それを誘導するインセンティブを制度化すべきであろう。試みとしては、運賃を下げるためバージ船を活用する、RORO船のシャーシ積み付け方式の改良、バラ荷積みも可能にする、陸路との接続を円滑化する、荷主を開拓する情報蓄積・コンサル能力を向上させる、ITを活用し陸走のトラックに情報提供しコスト削減する、規制緩和などが考えられる。
 なお、モーダルシフトは自動車からのCO2排出量を減少させるが、海上交通のCO2排出量を多少増加させることにも留意しておく必要がある。(1(3)参照)
 
c. 規制による船型からロジステック船型へ(499問題等)
 現行の内航船の船型は、いわゆる499トン型に代表される船型が多く、乗り組み基準や設備規制が大きく変わる500トン未満で最大の積トン等を得る設計が最適船型と言われているが、ロジステック的な観点からみれば必ずしも経済船型とはなっていない。現状の規制による船型からロジステック船型に変えることが出来れば、経済的な効果のみならずCO2の削減効果も大きいと思われる。
 この検討ためには、それぞれの物流に適合する(新)航路や新船型の開発が必要であり、物流解析と船型技術等を統合したロジステックシミュレータの開発と活用が期待されている。
C. マトリックス表による評価
 これまで述べてきたCO2の削減方法についてマトリックスによる比較詔面を行ってみた。評価項目は、CO2削減という観点からの削減効果(%)、コスト/セーブ、技術開発課題(ブレークスルー技術)、開発期間、総合評価(◎、○、△、×または記述)であり、これを一覧表の形でまとめた。
 ただし、船舶技術によるものと、運航・物流技術によるものでは一律な評価は必ずしも適当ではないのでA,Bの2表に分けた。また、CO2削減という観点から評価しているので、別な観点からは重要な技術開発となるものもあると思われるので誤解の無いようにしていただきたい。評価結果を末尾添付の別表に示す。
D. CO2以外の温暖化ガスヘの対応
 6種類の温室効果ガスのうち、CO2以外のCH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、PFC(パーフルオロカーボン)、SF6(六フッ化硫黄)の船舶からの排出については、シップ・アンド・オーシャン財団において調査がされている。(注参照)
 それによると、PFCは消火剤として一部使用されているが、漏洩量はHFCに比べて少ないこと、またSF6も主として電子部品の洗浄等に使用され、海運関係では使われておらず対象外としている。
 従って、CH4、N2O、HFCについて、大略以下の推定を行なっている。
(1) CH4
・ 外航船舶のエンジンからの排出量;MEPC45/8に示されている41x103t/年。
・ 原油輸送に伴う排出量;イナートガス(CH4を含む)放出、漏洩143x103t/年。
・ 合計CH4排出量;184x103t/年。
 CH4の地球温暖化係数=21を乗じたCO2換算では3.9x106t/年。
(2) N2O
N2Oは、主としてエンジンの負荷変動時に排出。排出係数(0.08g/kg-Fuel)を用いて計算すると、11.4x103t/年となり、
N2Oの地球温暖化係数=310を乗じたCO2換算では3.5x106t/年。
(3) HFC
リーファーコンテナ初期注入量(約30kg)の約3〜4倍の量をコンテナの廃棄(20年と仮定)まで補給するとすると、HFCの排出量は2.8〜5.2x103t/年。
HFCの地球温暖化係数=1700を乗じたCO2換算では4.7〜8.9x106t/年。
(4) 合計
各ガスの推定結果をCO2排出総領(437x106t/年)と比較するとCH4(0.9%)、
N2O(0.8%)、HFC(1.1〜2.0%)となり、合計で最大4%程度である。
注;「外航船舶からのCO2以外の温室効果ガス排出量の見積り」(MEPC46/INF.33)
3.1.3 CO2削減の実施方策(環境税等)
 技術開発等を推進していくことが重要であるが、ヨーロッパで既に実施されている環境税(炭素税、気候変動税など国によって名称や仕組みは異なる。)などの制度的な実施方策を検討しておくことも重要であり、環境税を中心にして検討をしてみた。
 
a. ヨーロッパの環境税等
 環境税は1990年にフィンランドで初めて導入され、その後スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダの先行国に加え99年からドイツ、イタリア、2001年から英国、フランスで実施されている。税率は、おおむね電力1〜2円/kwh、天然ガス1〜10円/L、ガソリン平均10円/L(国によって差がある)程度であり、低い税率で広い範囲に適用されるものが多い。新税の場合と既存の税制に上乗せする方法があり、削減目標を政府と協定することにより免除・軽減される制度などもとられている。
 また、税収の使途は一般財源に組み込むものが多いが、一部環境目的のものもある。
 税導入後の事後評価では、一定の効果があるとの結果が出ており、税と排出量取引、技術・設備の補助金等の組み合わせが効果的であるとしている。
 その他、交通量そのものを削減するTDM(交通需要マネジメント)等も行われており、2000年9月には、EU750都市が参加した「カーフリーデー」などがある。また、EUは4年後の2005年に「排出量取引市場」を発足させることを決めている。
 
b. 我が国での実施方策等
 環境税の我が国での実施は未定であるが、環境省の調査(平成13年8月「地球温暖化防止のための税の論点」)では低率(ガソリン換算で2円/L)でも2%程度の削減効果が期待されるとしている。なお、既存のエネルギー関連諸税との関係を含め課税対象や税率を検討する必要があるとしている。
 また、環境物品調達推進法(グリーン購入法)が平成13年度から全面実施され、再生紙、低公害車の調達をはじめ、学校施設の物品、道路の照明まで公的機関の購入するものは環境負荷の少ないものを選択することとなった。また、自動車税制の一部グリーン化がはかられ、NOx、CO2対策車への軽減等が開始されている。その他、太陽電池や風力発電への補助制度、実験的なTDM等も実施されている。
 
c. 内航海運の実施方策等
 環境税が実施される場合は、内航海運も自動車等と同一の国内制度で、使用する燃料に対して徴税されることになるが、燃料油の種類が異なり課税対象と税率によっては影響が出る可能性がある。また、削減目標協定やエコシップなどの努力に対する税の軽減や、排出量取引等の検討などが必要と思われる。
 
d. 外航船の実施方策と「世界海事環境基金」構想
 外航船への環境税を考えるとき、例えばリベリア船籍の日本チャーター船が、シンガポールで燃料油を購入する場合に、シンガポールで同国の環境税がかかれば、日本のチャータラーがシンガポール国に環境税を支払うことになる。シンガポールがその税収を地球環境保護に使えばよいではないかという議論もあるが、外航船がバンカー油をどこで購入するかは、本船の航路上で安価な所(国)を選択する。一方徴税権は各国にあり、バンカー油に環境税を課す国、課さない国がバラバラでは有効なものにはならないであろう。また、徴税権は国権の最高権力の一つでもありIMOには直接の徴税権はなく、各国に徴税の強制をすることも難しい。
 このように国内対策としては有効な環境税方式も、国際航海をする外航船では難しく、対応を検討していくIMOでも困難が予想されるが、例えば、IMOではタイタニック号海難を契機とする海氷監視の分担金を各国に課しており、これと同様に各国のコンセンサスが得られ「世界海事環境基金」のようなものが創設されれば有効なものとなる。ただし、どんな基準や制度で分担金を集めるかは難しく、各国の登録トン数や何らかの燃料消費量の指標が必要になる。また、分担金を拠出する各国が燃料消費を減らすインセンティブを持たせる仕組みをどう作れるかが課題となる。
 また、京都議定書では先進国のみの義務を定めているが、多くの外航船を登録する便宜置籍国はすべて途上国であり、これらの国々がどんな対応をするかも問題となる。
 このように外航船での実施方策には特殊な面が多く、種々の案があるとは思われるが、案の段階で事前のシミュレーション的な検討等のFSを十分実施し今後のIMOでの審議に備えるとともに、「世界海事環境基金」構想等の提案と日本への誘致など具体的な形で提案と協力をしていくことの検討が重要である。
3.1.4 課題とその考え方
 船舶からのCO2削減の課題と考え方には、いろいろな切り口があると思われるが、代表的なものを以下に列挙する。
 
[1] 経済成長や生活環境に対する価値観の変更;
 地球環境保護の観点からCO2を削減していくことの基本は、大量生産・資源消費型の経済成長や多消費・使い捨て型の生活から、省資源・リサイクル型の経済や生活へ、考え方(価値観)を変えていかないとできない課題である。
 
[2] 設計・建造・運航から解撤まで;
 船の一生、即ち、設計・建造の効率化、省エネ運航、スクラップ問題等をLCA的な視点でみて、全体のコスト/セーブを評価する必要がある。なお、我が国の船舶建造の効率はすでに相当高いレベルにあり今後とも努力の必要はあるが、設計段階からのリサイクル設計や、最終的な解撤をどうするかなどが今後の課題となってくるであろう。また個々のCO2削減方法についても装置追加等のCO2増と運航全期間の省エネ効果等のCO2減をLCA的な視点から評価していく必要がある。
 また、船の寿命(約20年)が自動車と比べて長いことや、CO2削減がNOx規制の場合のエンジンのみの規制とは異なり、船とフリート全体が問題となることにも留意しておく必要がある。
 
[3] ロジステックとのスムーズな連携等;
 本調査の一義的なタスクは船舶からのCO2削減であるが、物流の連続性等を考えれば港湾機能やそのアクセス、陸上媒体との関係、物流の合理化など関連するロジステックとのスムーズな連携などを考えておくことがCO2削減にとって重要である。このため、ロジステックシミュレータの開発と活用、ターミナル機能の向上、港内航行速力、規制船型(499船型等)から新しいロジステック船型への転換などが課題となってくる。
 
[4] 外航船実施方策のFSと「世界海事環境基金」構想;
 環境税はCO2削減に極めて有効な方法ではあるが外航船では難しく、その実施方策は相当に知恵がいりそうであり、内航と外航を分けて議論をしていく必要がある。
 外航船の実施方策については事前のFSを十分に行い、今後のIMOでの審議等に備えておく必要があるが、FS検討の方向は「世界海事環境基金」構想(3.d項参照)の提案と日本への誘致など我が国が今後リーダーシップをとっていくための内容であることが重要である。
 
[5] 研究開発の重要度と実施時の課題;
 主な技術開発課題とその重要度は別表(末尾に添付)のとおりであるが、ブレークスルー技術を解決する難易度は高く、その社会的な性格からも研究開発と成果を実施する初期段階での公的資金等の確保・支援の必要がある。
 また、地球環境保護のためのCO2削減は人類全体の責務であるとはいえ、それを率先し実施しようとする者にメリットがなければ有効なものにはならない。従って、省エネ効果等の経済性のある技術が有効なCO2削減のための技術として採用されていくことに留意しておく必要がある。ただし、リサイクル、解撤等のコスト増の避けられない問題では、そのコストをミニマム化するための技術とコスト負担の仕組みが必要であろう。また、摩擦抵抗低減技術などのように実船レベルでの積み上げが開発の促進に必要な課題も多く、これを円滑に実施する方策が必要である。
3.1.5 まとめ
 地球環境保護という社会的責務と経済活動の推進とのバランスを考えると、省エネ、資源の多様化、リサイクル等がキーワードとなろう。また今世紀が「環境の世紀」といわれているように、大量消費型社会から資源有効活用型社会への転換という価値観の変更を迫られている課題ともいえる。
 しかしながら、多くの人々の環境保護に対する価値観が変わったとしても、それを生かす社会的制度と、実施者がメリットを感じ採用する技術開発の成果がなければ意味をなさず、ひいては社会的責務も果たせないことに留意しておく必要がある。
 また、CO2問題の根幹は地球環境保護ではあるが、国際経済戦略の戦いの場でもあるが故に多くのビジネスチャンスを内包しており、豊かな発想と十分なFS等を実施し、戦略的な視点からの技術開発等を推進するとともに、IMO等の国際的な場での活動を含め、その成果が地球環境保護と船舶技術の向上に活用されていくことを期待するものである。
 
A 船舶技術によるもの
対象 削減方法 削減効果(%) コスト/
セーブ
課題(ブレークスルー技術) 開発期間 総合評価 備考
船型 船型改良 △ 限界 低/少 通常船型では限界。 適宜  
摩擦
抵抗
低減
マイクロバブル法 ○ 5〜7.5% 中/中 実用化技術(吹出装置、メンテ等)。 13年度・青雲丸実船実験。
空気膜法 ○ 5〜7.5%  高/中 空気膜の持続性、保持等。  
表面処理法 △ ?% 不明 新塗料、新素材等の開発。 不明 新塗料等に期待。
空気抵抗低減 △ 0.5〜1% 低/少 船型・上部構造によって異なる。 適宜 空気抵抗の大きい船では必要。
エンジン ディー
ゼル
高効率化等 △ 限界 中/少 新材料開発、断熱高温化等。 適宜  
負荷全域のスムーズな燃焼 ○ ?% 中/中 電子制御、可変翼過給機、
燃焼室最適設定。
 
ガス
タービ
SMGT - - (開発中) - - 国家プロジェクト。NOx低減
コンバインドシステム等 ○ 10%up 高/中 トータルエネルギーシステム等。  
燃料
電池
PEFC ◎ 10%〜 高/大 経済性達成すれば有望、
舶用化技術。
自動車用FCの開発の進展。
その他 ○   - 高/不明 舶用化の可能性。  
  原子力船 △ 不明 高/不明 経済性、社会的容認 × 普及が前提
  その他 - - - - - ガスエンジン、排ガスからの除去。
推進システム 推進器 高効率化等 ○ 5%〜 中/中 高効率化、PODシステムWJ等。 適宜  
システ
電気推進/ハイブリッド ○/△(個別) 高/中 ガスエンジン、燃料電池、
ハイブリッド技術。
(個別) 各エンジン開発による。
自然エネルギー 太陽光 太陽光発電 × 微少 高/少 発電効率Up,価格1桁Down。
ハイブリッド。
不明 注;塗料型太陽電池の開発。
風力 風力推進 ◎ 10% 中/大 荒天航海・経済性等の総合性能
ハイブリッド。
30,000DW外航船の実績あり。
風力発電 × 微少 高/少 高効率な発電装置。 不明 海技大/神戸商船大の研究
 
B 運航・物流技術によるもの 
対象 削減方法 削減効果(%) コスト/セーブ 課題(ブレークスルー技術) 開発期間 総合評価 備考
エコナビゲーション 最適航路 WRS採用、FSS船等 ○ 2〜3% 中/中 海気象情報の精度向上。
FSS船の開発等。
WRS(Weather Routing Service)比較SR240/FSS
減速運航 計画的な省エネ運航 ○2% 少/中 計画作成と実行。 奨励キャンペーン。
物流技術 効率化/
情報化
アライアンス ○10% 少/中 アライアンスが行われ易い制度。 競争が阻害されない範囲内。
IT活用 中/中 物流シミュレータの開発・利用。
最適配船。
 
モーダルシフト 陸上から、海上へのシフト 陸上 -
海上 +
○ トータル -
- 運賃、発着時刻、高速化、航路新設
積付方式、ターミナル、情報提供。
規制緩和。
- 海上の排気量は増加する。
ロジステック船型 499船型から新船型へ ○ 未検討 少/中 新航路の検討、新船型の開発。
ロジステックシミュレータ。
- 合理的な規制値の変更。








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