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2. 調査検討テーマ
 平成13年度は下記2.1の調査検討候補の29テーマの中から第1回目の調査部会で、2.2記載の4テーマの調査検討を実施することとした。
 
2.1 調査検討候補テーマ
( 1) EUプロジェクトの実態とその成果に関する調査
( 2) 独創性のある研究開発の進め方
( 3) 環日本海構想と造船技術
( 4) 国際的コスト競争に打ち勝つ国内物流システムの構築
( 5) 造船におけるマーケッティング
( 6) 便宜置籍船(FOC)排除の方策/戦略
( 7) 200海里排他的経済水域(EEZ)の諸問題
( 8) 造船の労働安全に関する研究
( 9) 客船ルネサンス
(10) 廃棄物問題への船舶利用
(11) 無人商船とそのためのシステム等
(12) 造船におけるバーチャルファクトリーの研究
(13) IT活用
(14) 航海計器、甲板補機、機関補機等の取扱説明書のIT化(CD-ROM化を含む)
(15) 対潜索敵ソーナーの商船用前方障害物探索ソーナーへの開発
(16) ディーゼルエンジンの全面的電子制御技術の開発
(17) 船のエンジンルーム全体の電子制御の推進
(18) 海洋自然エネルギー利用技術の再評価
(19) 船舶への自然エネルギーの利用
(20) 水素燃料船舶の開発
(21) 大型浮体の利用
(22) 大型浮体利用技術の開発
(23) メガフロートの将来検討
(24) 大型浮体の多用途への利用について
(25) マイクロバブルによる摩擦抵抗の低減
(26) 船型及びブロペラの開発に関する研究
(27) 燃料電池の舶用発電機への応用
(28) FPSOシステム(NGH,メタノール,GTL,DME用)
(29) ゼロエミッション船の開発
(30) ゼロエミッション
 
2.2 調査検討実施テーマ
[1] 「船舶の地球温暖化対応について」
[2] 「ブロードバンド時代の船舶通信」
[3] 「深海利用技術」
[4] 「造船産業におけるエンジニアリングサービス」
 
2.3 調査検討結果の概要
2.3.1. 「船舶の地球温暖化対応について」
 (1) 調査検討の背景と内容
京都議定書で日本はCO2排出6%削減となり、内航船(約1,500万トン排出)は3%の改善、外航船(約4億トン排出)はIMOでの審議となっているが、「環境の世紀」と言われているなかでの地球環境保護と国際戦略の動きにも留意しつつ、その技術開発と課題等についての調査検討をした。
 
 (2) 船舶からのCO2等の削減方法
 A. 船舶技術によるもの
・ 摩擦抵抗低減がCO2削減に有効であり、マイクロバブル法などが重要である。
・ ディーゼルエンジンでは、負荷全域でのスムーズな燃焼などがポイントである。
・ ガスタービンでは、排熱回収のトータルエネルギーシステム等が注目されている。
・ 燃料電池は自動車(固体高分子型)での開発が進んでおり、船舶でも可能性は高い。
・ 推進器(プロペラやフィン等)の性能により燃費に約5%の差があり一考を要する。
・ 電気推進方式は、分散・多台数の発電機関により種々の運行パターンに対応が可能。
・ 自然エネルギーの活用では、風力推進での新システム開発等の研究が望まれる。
 B. 運航・物流技術によるもの
・ エコナビゲーション(最適航路/減速運航)では2〜3%の節減効果がある。
・ モーダルシフトは、CO2。排出量の少ないフェリー等を活用し有効である。
・ 規制船型(499型)からロジステック船型への転換がCO2削減につながる。
・ 新航路、新船型の開発とロジステックシミュレータの活用等が期待される。
 C. マトリックス表による評価(本文添付の別表参照)
 
 (3) CO2削減の実施方策(環境税等)
・ 欧州主要国で実施の環境税等は、低税率、広範囲に適用され有効な方策である。
・ EUは2005年に「排出量取引市場」を開設することを決めている。
・ 環境省の調査ではガソリン2円/L程度の環境税でも2%の効果があるとしている。
・ 内航船は燃料油が異なり、環境税実施の場合は税率等によって影響がでる。
・ 外航船ではフラッグと徴税権の問題から環境税は難しく、具体的な方策をIMOに提案するための検討が必要である。
 
 (4) 課題とその考え方
[1] 大量生産・消費型から省資源・リサイクル型の経済や生活へ価値観を変える課題。
[2] 設計・建造・運航から解撤まで、LCA的な視点でコスト/セーブをみる必要がある。
 また、NOxのエンジン規制とは異なり、船とフリート全体が問題となる。
[3] 陸上とのアクセスなど、他のロジステックとのスムーズな連携等が重要である。
[4] 外航船はIMOでの審議に備えFSの必要があるが、「世界海事環境基金」構想など我が国がリーダーシップをとれる内容であることが重要。
[5] 省エネ効果等の経済性のある技術が有効なCO2削減の技術として採用される。
 技術開発のブレークスルーは難易度が高く、公的資金等の確保・支援が必要。
2.3.2 「ブロードバンド時代の船舶通信」
(1) 基本認識
 最近陸上ではブロードバンドと称されるCATV、ADSL、光ファイバー通信等、10〜100Mbpsという従来のISDNの100〜1000倍以上の高速情報通信サービスが登場してきている。一方、船舶においては海上遭難・安全システム(GMDSS:Global Maritime Distress and Safety System)で使用されるインマルサットーCは9.6kbpsであり、より高速のインマルサットーBでも64kbpsという、陸上のブロードバンドに比べるとはるかに遅い通信速度しか利用できない環境になっている。
 
(2) 技術課題
 ISMコードの導入によって陸上における船舶の安全管理責任の比重が増大し船社は船舶管理会社に業務を委託する形態も多くなってきている。船舶管理を補う手段として船舶通信を使用した機関運転データの集計/トレンド解析、機関運転性能診断/故障予防、船位表示(動静)及び航路表示、WEATHER解析による最適航路情報入手等、種々のシステムが提案あるいは採用されつつあるが、衛星を利用する船舶通信の費用が高い(約千円/分)という問題もあり、船社や管理会社が積極的に導入という傾向は少ない。通信速度に関しても、ブロードバンドを目指した世界的な高速衛星通信システムの将来構想がいくつか提案されているが、いずれも通信衛星を使用するため費用面の課題が懸念されている。
 しかし、陸上に比べて船舶のみが高速通信環境から取り残されるのは大きな問題である。物流の効率化を行うべく荷主、船社、港湾及び陸上輸送関係が高速通信網で結ばれても、船舶の通信が遅いためにシステムが発展しないようなことは避けたい。従い、船舶通信のブロードバンド実現のためには以下のようなことを考える必要がある。
 高速でかつ低料金化のため、通信衛星だけでなくブイや海上構造物等の洋上通信基地に船舶、航空機、飛行船を組み合わせた新たなネットワークの構築が考えられる。現実に航空機用として双方向の高速通信サービスを提供する「コネクション・バイ・ボーイング」構想をボーイング社は数年前から発表しており、これに洋上通信基地や船舶も組み込むことができれば、通信衛星利用に比べてはるかに低料金体系のブロードバンドネットワーク実現の可能性がある。
 ブロードバンドの用途に関しても、この数年間で陸上での通信速度が飛躍的に上昇することにあわせて、新たなアプリケーションコンテンツの出現や新たなサービスの提供が開始されるようになったごとく、インフラが整備されることによって全く新しい利用方法が出現する可能性が大いにある。例えば、ブロードバンドによる船内及び船外状況のリアルタイムモニタリングを自動化と組み合わせれば完全無人化船の出現を容易にすることになる。現在船社や船級協会が実施している船舶の検査もTVカメラやセンサーと高速通信によって陸上から遠隔で行うことも可能である。費用面でも利用が増大することによって更に単価は下がるであろう。
2.3.3. 「深海利用技術」
(1) 現状認識
 「深海」は一般に大陸棚以深の海域に対して定義されるが、ここでは従来よりも更に深い海域への進出といった観点も含め利用技術の現状/ニーズを整理した。
 「深海」は地球科学的な研究対象と同時に資源・空間利用及び地球環境問題の解決といった観点からの価値が注目を集めつつある。これらの問題解決への期待が高まるにつれ「深海の調査・探査」から「深海からの資源採取」にいたるまで深海利用技術に対する開発要求も大きなものとなっている。深海利用技術の開発要求に対応して、船舶/海洋分野の国内外研究機関においても新たに「深海域再現水槽」といった研究設備の投資が行われている(オランダ/マリーン、日本/海技研)。
 また「深海」に関する海洋開発関連事業として「資源・エネルギー」、「海洋空間利用」、「環境・調査」の分野で水深に応じどのような項目があるか 表―1に整理している。
 
(2) 技術課題
 深海利用に対してはその目的に応じ「調査・探査」の機器類の開発から「資源採取」の設備/装置の開発にいたるまで広範囲に亘り技術課題がある。各分野の代表的な利用技術につき、その課題を概説するとともに造船・海洋の技術が必要となる部分につき考察する。
 [1] 資源・エネルギー分野
・大水深域油田開発、天然ガス開発(メタンハイドレートについては前年度調査)、希少金属の採取等があるがここでは海洋温度差発電・海洋深層水利用技術をとりあげる。
・この場合取水管の開発がひとつのポイントとなる(海中挙動、材料/強度、接合/脱着法、浮体との係留、等)。
 [2] 海洋空間利用分野
・CO2削減の方法としての深海貯留や大量高速情報通信のための海底ケーブル敷設等が挙げられるがここでは海中での作業基地開発技術をとりあげる。
・この場合動力の供給方法やデータの送信方法が開発のポイントとなる(有索の場合は前述取水管と同様の課題、将来的には有人・無索基地の開発)。
 [3] 環境・調査分野
・深海域調査船開発や深海サルベージ技術開発等があるがここでは潜水調査船開発技術をとりあげる。
・この場合現在の短時間潜航から将来的にはいかに長時間潜航を実現させるかがポイントであり動力源及び操作の為の無索自律型制御システムの開発が課題となる。
 
(3) 研究開発体制
 開発の目的により事業主体が異なると同時に造船/海洋分野が必ずしも開発主体とはなりえないのでプロジェクトに応じた体制が必要となる。
 基本的には産官学の共同研究体制となろう。例えば、ニーズが科学的/学術的分野(深海底地形/深海生物調査)であれば文部科学省を担当省庁、JAMSTECを中核組識とし造船企業も含め産官学で参画する形態が想定される。
 造船/海洋分野の技術シーズを関連先にPRし開発企画段階からかみ込むことも重要となる(例えば、海技研の深海域再現水槽の研究用途 等)。
2.3.4 「造船産業におけるエンジニアリングサービス」
(1) 現状認識
 造船の設計と建造は表裏一体のもので建造現場を持たねば設計の向上はありえない、そのために戦後50年近く造船業では設計と現場を1セットとしてやってきた。しかしこのことは最近の韓国の例にあるように同型船を多数建造していく時代にはアンバランスが目立つようになる。
 設計を遊ばせるわけにはいかず、また開発業務ばかりさせるには金が不足している。わが国造船業は近年、高人件費、為替レート等によるコスト競争力低下を技術競争力でカバーしてきたが、ここ数年は韓国の急激な技術開発力の向上により技術力にも追いつき追い越され、苦しい状況に追い込まれている。若年層の造船離れもありわが国の造船業は斜陽産業になってきているのではないかと危惧を抱く向きもある。
 これに対抗するために、船種を特化して設計建造の効率化を図りコスト競争力を何とか維持しているのが現状である。しかしながら、特化していくと設計の目標がどうしてもコストダウンに向きがちで設計の存在が薄くなっていく。設計技術力を支えるのは人であり、優秀な人材が集まるような形がイメージできるようにする必要がある。しかし、経営的に技術者の質、量の拡大が期待できない現状で、個々の会社に分散した技術者集団だけで、達成するのは困難であろう。このための新しいエンジニアリング頭脳の結集が必要である。
 
(2) そのためにやるべきこと。
 造船所数社が抱えている設計リソースを持ち寄りエンジニアリングサービスを専門に提供する組織を設立し、船主ニーズに応じてコンセプトの提案、仕様書作成、基本設計、監督を実施する。
 
1) 造船所は設計業務のアウトソーシングによる経営業務が期待できる。スリム化した設計資源は得意分野に集中することが可能となる。
 
2) また各社に分散していた設計資源の有効活用が出来、大型プロジェクトの開発においては技術力と資金を集中的に投入できるので効率的な開発が可能になる。
 
3) 船主はプロジェクトに応じてレディーメイド設計、オーダーメイド設計と選択肢が広がり、造船所のお仕着せに我慢することなく最適船型の設計・建造が可能となる。また設計と建造の分離により建造価格の透明性が期待できる。
 以上の様なエンジニアリング会社が今後の設計のひとつのあり方になると考えられる。








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