3.強化プラスチックの計算
強化プラスチックの計算は、社団法人 強化プラスチック協会 環境委員会が2001年(平成13年)1月にまとめた「強化プラスチック製造工程 排出量等算出マニュアル」をベースとしている。
以下、その概要を説明する。
3−1.対象化学物質
対象化学物質としては、2種類の第一種指定化学物質(政令番号177のスチレンと同320のメタクリル酸メチル)に限定している。
3−2.計算のための分類
計算を行うための分類は、その成形方法、設備の条件、コンパウンドの製造、及び非FRPの製造条件等を考慮して、オープンモールド成形(Aシリーズ)17種類、型内成形ー1(Bシリーズ)6種類、型内成形−2(Cシリーズ)2種類、コンパウンド製造工程(Dシリーズ)2種類の合計27種類、4シリーズに分類している。
Aシリーズ:オープンモールド成形
A-1 | : |
従来タイプの樹脂を用いる手作業による積層の場合 |
A-2 | : |
低揮発タイプの樹脂を用いる手作業による積層の場合 |
A-3 | : |
排ガス処理設備のない条件で、従来タイプの樹脂を用いるスプレー成形の場合 |
A-4 | : |
排ガス処理設備のない条件で、低揮発タイプの樹脂を用いるスプレー成形の場合 |
A-5 | : |
排ガス処理設備を設置し、従来タイプの樹脂を用いるスプレー成形の場合 |
A-6 | : |
排ガス処理装置を設置し、低揮発タイプの樹脂を用いるスプレー成形の場合 |
A-7 | : |
従来タイプの樹脂を用い、樹脂が霧状にならないようにスプレーする場合 |
A-8 | : |
低揮発タイプの樹脂を用い、樹脂が液状にならないようにスプレーする場合 |
A-9 | : |
従来タイプの樹脂を用いるフィラメントワインディング成形の場合 |
A-10 | : |
低揮発タイプの樹脂を用いるフィラメントワインディング成形の場合 |
A-11 | : |
排ガス処理設備のない条件で、ゲルコートを塗布する場合 |
A-12 | : |
排ガス処理設備を設置し、ゲルコートを塗布する場合 |
A-13 | : |
ゲルコートにMMA(メタクリル酸メチル)を含有する場合 |
A-14 | : |
従来タイプの樹脂を用いて手作業で積層し、含浸工程終了後にシートで覆って硬化する成形の場合 |
A-15 | : |
従来タイプの樹脂を用いてスプレー法で積層し、含浸工程終了後にシートで覆って硬化する成形の場合 |
A-16 | : |
従来タイプの樹脂を用いて手作業で積層し、含浸工程なしにシートで覆って硬化する成形の場合 |
A-17 | : |
従来タイプの樹脂を用いてスプレー法で積層し、含浸工程なしにシートで覆って硬化する成形の場合 |
Bシリーズ:型内成形−1
B-18 | : |
レジントランスファー成形の場合 |
B-19 | : |
注型成形の場合 |
B-20 | : |
引抜き成形の場合 |
B-21 | : |
連続成形の場合 |
B-22 | : |
MMD(マッチド メタルダイ)成形の場合 |
B-23 | : |
遠心成形の場合 |
Cシリーズ:型内成形−2
C-24 | : |
SMC(シートモルディングコンパウンド)成形の場合 |
C-25 | : |
BMC(バルクモルディングコンパウンド)成形の場合 |
Dシリーズ:コンパウンド製造工程
D-26 | : |
SMC製造の場合 |
D-27 | : |
BMC製造の場合 |
3−3.計算用Excelブックの配置
シリーズごとに計算用のExcelブックを配置し、シリーズごとの計算を行う。
3−4.移動量の考え方
移動量として計算されるのは、
(1)樹脂の容器(缶及びドラム)付着分(トン/年)=994/1000×年間樹脂取扱量(トン/年)
(2)ゲルコートの容器付着分(トン/年)=97/100×年間ゲルコート取扱量(トン/年)
(3)廃溶剤に含まれる分=1/9×容器付着分
(4)排ガス処理装置を設置している場合で、そうでない場合との大気への排出量の差の分
(表1参照)
3−5.排出量の考え方
排出量として計算されるのは、
(1)樹脂貯蔵タンクのベントからの排出量
(2)成形工程からの排出量
Aシリーズについては、巻末の表1と表2を使用する。
表1 オープンモールド成型(Aシリーズ)工程における積層用樹脂及びゲルコートに含有するスチレンモノマー(SM)の大気への排出係数
表2 ゲルコート塗布及び硬化工程におけるメタクリル酸メチル(MMA)の大気への排出係数(Aシリーズ)
3−6.成形工程のフローチャートと移動及び排出の表示
移動量、排出量の概念図を図1に、オープンモールド成形における工程別フロー図を図2に、型内成形の種類別概念図を図3にそれぞれ示す。
図1 移動量、排出量の概念図
図2 オープンモールド成形工程別フロ−図
A:オープンモールド成形
図3 PRTR法算出用成形フロ−チャート
B.型内成形−1
C:型内成形−2
3−7.算出式
3−7−1.SMの算出式
3−7−1−1.移動量算出式
(1)排ガス処理設備を有するゲルコート塗布工程(A−12)
SM移動量[Kg/年]=(1+1/9)×3/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]×1000×SM含有率+(α-β)×97/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]………式−1
1/9:廃溶剤に行く移動量分
α:排ガス処理設備を設置していない場合の排出係数
β:排ガス処理設備を設置している場合の排出係数
いずれも表1から求める。
(2)排ガス処理設備のないゲルコート塗布工程(A−11)
SM移動量[Kg/年]=(1+1/9)×3/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]×100×SM含有率………式−2
1/9:廃溶剤に行く移動量分
(3)樹脂は容器購入で、排ガス処理設備を有する積層工程(A−5又はA−6)
SM移動量[Kg/年]=(1+1/9)×6/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×SM含有率+(γ-δ)×994/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]………式−3
1/9:廃溶剤に行く移動量分
γ:排ガス処理設備を設置していない場合の排出係数
δ:排ガス処理設備を設置している場合の排出係数
いずれも表1から求める。
(4)樹脂はローリー又はコンテナ-購入で、排ガス処理設備を有する積層工程(A−5又はA−6)
SM移動量[Kg/年]=(γ-δ)×年間樹脂取扱量[トン/年]………式−4
γ:排ガス処理設備を設置していない場合の排出係数
δ:排ガス処理設備を設置している場合の排出係数
いずれも表1から求める。
(5)樹脂は容器購入で、排ガス処理設備のない積層工程
SM移動量[Kg/年]=(1+1/9)×6/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000× SM含有率………式−5
1/9:廃溶剤に行く移動量分
(6)樹脂はローリー又はコンテナ-購入で、排ガス処理設備のない積層工程
SM移動量[Kg/年]=0(なし)………式−6
それぞれ(1)〜(6)項の条件を組み合わせて、SM移動量を算出する。
3−7−1−2.排出量算出式
1)Aシリーズ(オープンモールド成形)
(1)ゲルコート塗布工程
SM排出量[Kg/年]=ゲルコートの排出係数[Kg/トン](表1より)×年間ゲルコート使用量[トン/年]=ゲルコートの排出係数[Kg/トン]×97/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]………式−7
ゲルコートからのSM排出係数[Kg/トン]は排ガス処理設備の有無、及びゲルコート中のSM含有率が分かれば表1から求まる。
(2)樹脂は容器購入とする積層工程
SM排出量[Kg/年]=各成形条件における排出係数[Kg/トン](表1より)×年間樹脂使用量[トン/年]=各成形条件における排出係数[Kg/トン]×994/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]………式−8
各成形条件における排出係数[Kg/トン]は成形方法、排ガス処理設備の有無、樹脂の種類(従来タイプ又は低揮散タイプ)、SM含有率が決まれば、表1から求まる。
(3)樹脂はローリー購入とする積層工程
SM排出量[Kg/年]=各成形条件における排出係数[Kg/トン](表1より)×年間樹脂取扱量[トン/年]+1/10000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000………式−9
1/10000:樹脂貯蔵タンクのベントからの排出係数(調査結果)
(4)樹脂はコンテナー購入とする積層工程
SM排出量[Kg/年]=各成形条件における排出係数[Kg/トン](表1より)× 年間樹脂使用量[トン/年]………式−10
2)Bシリーズ(型内成形−1)
(1)樹脂は容器購入
SM排出量[Kg/年]=1/100×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×SM含有率=1/100×994/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×SM含有率………式−11
1/100:排出係数
(2)樹脂はローリー購入
SM排出量[Kg/年]=1/100×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×SM含有率 + 1/10000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000………式−12
1/100:排出係数
1/10000:樹脂貯蔵タンクのベントからの排出係数(調査結果)
(3)樹脂はコンテナー購入
SM排出量[Kg/年]=1/100×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×SM含有率………式−13
1/100:排出係数
但し、ゲルコートを併用する場合はゲルコートの排出係数[Kg/トン](表1より)×年間ゲルコート使用量[トン/年]=ゲルコートの排出係数[Kg/トン]×97/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年](式−7)をSMの排出量に加算する。
3) Cシリーズ(型内成形−2)
(1)SMC成形
SM排出量[Kg/年]=2/1000×年間SMC取扱量[トン/年]×1000………式−14
2/1000:排出係数
(2)BMC成形
SM排出量[Kg/年]=1/1000×年間BMC取扱量[トン/年]×1000………式−15
1/1000:排出係数
4)Dシリーズ(コンパウンド製造工程)
(1)SMC製造
SM排出量[Kg/年]=17/10000×年間SMC生産量[トン/年]×1000………式−16
17/10000:排出係数
(2)BMC成形
SM排出量[Kg/年]=8.8/10000×年間BMC生産量[トン/年]×1000………式−17
8.8/10000: 排出係数
3−7−2.MMAの移動量と排出量算出式
ゲルコートを塗布し、且つそのゲルコートにMMAを含有する場合にのみ適用MMA移動量[Kg/年]=(1+1/9)×3/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]×1000×MMA含有率………式−18
1/9:廃溶剤に行く移動量分
MMA排出量[Kg/年]=ゲルコートの排出係数[Kg/トン](表2より)× 年間ゲルコート使用量[トン/年]=ゲルコートの排出係数[Kg/トン]×97/100×年間ゲルコート取扱量[トン/年]………式−19
ゲルコートからのMMA排出係数[Kg/トン]はゲルコート中のMMA含有率が分かれば表2から求まる。
3−7−3.トルエンの移動量と排出量算出式
A.移動量算出式
(1)樹脂は容器購入
トルエン移動量[Kg/年]=(1+1/9)×6/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×トルエン含有率………式−20
1/9:廃溶剤に行く移動量分
(2)樹脂はローリー又はコンテナー購入
トルエン移動量[Kg/年]=0(なし)………式−21
B.排出量算出式
(1)樹脂は容器購入
トルエン排出量[Kg/年]=年間樹脂使用量[トン/年]×1000×トルエン含有率=994/1000×年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×トルエン含有率………式−22
(2)樹脂はローリー又はコンテナー購入
トルエン排出量[Kg/年]=年間樹脂取扱量[トン/年]×1000×トルエン含有率………式−23
4.強化プラスチックの計算例
(条件)
(1)オープンモールド成形(Aシリーズ)
(2)ゲルコート塗布(排ガス処理設備有り)
(3)年間ゲルコート取扱量12トン
(4)ゲルコートのSM含有率 50質量%
(5)手作業による積層
(6)積層用樹脂は従来タイプを使用
(7)積層用樹脂は容器購入
(8)年間樹脂取扱量 120トン(積層用のみ)
(9)積層用樹脂のSM含有率 45質量%
移動量の算出:
1)ゲルコートからのSM移動量[kg/年]………式1と表1より
10/9 x 3/100 x 12 x 1000 x 50/100 + (291-206) x 97/100 x 12 = 1190kg/年
2) 積層樹脂からのSM移動量[kg/年]………式-5より
10/9 x 6/1000 x 120 x 1000 x 45/100 = 360 kg/年
3) 合計SM移動量
1550kg/年
排出量の計算:
4)ゲルコートからのSM排出量[kg/年]………式-7と表1より
206(表1より) x 97/100 x 12 = 2400kg/年
5)積層用樹脂からのSM排出量[kg/年]………式-8より
68(表1より) x 994/1000 x 120 = 8100kg/年
6)合計SM排出量
10500kg/年
表1 オープンモールド成型(Aシリーズ)工程における積層用樹脂及びゲルコートに含有するスチレンモノマー(SM)の大気への排出係数(使用した樹脂又はゲルコート1トン当たりに排出するSM量をkgで表示) |
積層用樹脂又はゲルコート中のSM含有量[質量%] 1) |
25 |
30 |
35 |
40 |
45 |
50 |
55 |
手作業による積層 |
従来タイプの樹脂 |
28 |
34 |
42 |
55 |
68 |
81 |
94 |
低揮散タイプの樹脂 2) |
21 |
23 |
26 |
28 |
30 |
32 |
37 |
機械主導の積層 |
排ガス処理設備を設置していないスプレー法 |
従来の樹脂 |
38 |
46 |
63 |
95 |
127 |
159 |
191 |
低揮散タイプの樹脂 2) |
23 |
28 |
39 |
58 |
79 |
99 |
119 |
排ガス処理設備を設置しているスプレー法 3) |
従来の樹脂 |
29 |
35 |
49 |
73 |
98 |
123 |
147 |
低揮散タイプの樹脂 2) |
18 |
22 |
30 |
45 |
60 |
76 |
91 |
近距離から樹脂が霧状にならないように含浸する場合 4) |
従来の樹脂 |
24 |
29 |
35 |
42 |
49 |
56 |
63 |
低揮散タイプの樹脂 2) |
15 |
19 |
21 |
26 |
31 |
35 |
39 |
フィラメントワインディング成型法 |
従来の樹脂 |
41 |
50 |
60 |
72 |
85 |
97 |
109 |
低揮散タイプの樹脂 2) |
27 |
32 |
39 |
47 |
55 |
63 |
71 |
ゲルコートの塗布と硬化 |
排ガス処理設備を設置していない場合 |
100 |
120 |
151 |
198 |
244 |
291 |
338 |
排ガス処理装置を設置している場合 3) |
73 |
88 |
110 |
144 |
178 |
206 |
246 |
含浸工程終了後にシートで覆って硬化する場合 |
従来タイプの樹脂の揮散係数×0.80又は0.85 5) |
含浸工程なしにシートで覆って硬化する場合 |
従来タイプの樹脂の揮散係数×0.50又は0.55 6) |
注:
1)SM含有率は質量%で表示されているので、算出式においては「質量%÷100」として算出する。本含有量が各記載数値の中間値を示す場合は、比例配分にて排出係数を算出することが望ましい。
このSMの含有率は、モルダーで追加される分も含めた数値である。しかし、紛体、充填材やガラス等のその他の添加剤は加える前の数値である。積層用樹脂又はゲルコートに季節型がある場合(SM含有率が変動する場合)は、1年間春秋タイプを使用したとして計算する。
2)低揮散タイプの樹脂とは、パラフィン入りの樹脂及び低臭気性樹脂を対象とする。これら以外は従来タイプと見なす。
3)積層用樹脂及びゲルコートの両方に共通であるが、排ガス処理設備を設置している場合は、そうでない場合との差は移動量に行くことになるで注意すること。
例えば積層用樹脂で、且つ従来タイプの樹脂を使用し、SM含有率が40質量%の場合、(95−73)kg/トンが移動量となる。
4)エアレスのレジンスプレー等(霧状にならないことが前提)が想定できる。
5)手作業の積層の場合は0.80を、機械主導の積層に場合は0.85を採用すること。
6)手作業の積層の場合は0.50を、機械主導の積層に場合は0.55を採用すること。
表2 ゲルコート塗布及び硬化工程におけるメタクリル酸メチル(MMA)の大気への排出係数(Aシリーズ) |
ゲルコート中のMMA含有率[質量%]*1 |
1 |
5 |
10 |
15 |
20 |
ゲルコート1トンから大気へ排出されるMMA量[kg] |
6.75 |
33.75 |
67.5 |
101.25 |
135 |
*1
MMAモノマーの含有率は、モルダーで追添加される分も含めた数値である。しかし紛体、充填材やガラス等、その他の添加剤は加える前の数値である。
MMA含有率は質量%で表示しているので、算出式においては「質量%÷100」として算出する。
本含有率が各記載数値の中間値を示す場合は、比例配分にて排出係数を算出することが望ましい。