べトナム造船産業
I.市場の全般的分析
現在、世界全体の新造船能力は約2,100万CGTに達していて(CGT[標準貨物船換算総トン数]とは総トン数に船型と船種の相違に応じた係数を乗じて、船型と船種の別に左右されない工事量比較のための単位)、2005年には約2,400万CGTにまで増大が見込まれている。1999年の建造量は、97年の1,710万CGT,98年の1,800万CGTに続いて1,750万CGTを記録したが、これらの数値は、供給能力に比べて需要が著しく低く、需要増大による新造船価の大幅上昇が、少なくとも近い将来には望めないことを示している。
II.べトナム造船産業
1.造船業の発展性
ベトナム政府は造船業、その他の海事経済部門の振興と発展に、引き続き多大の努力を注いでいる。海港、自国船隊、造船業発展のための計画が立案された。
しかもベトナムは世界市場において、特に太平洋、東南アジア地域において、経済の海事部門を発展させる好機に恵まれている。以上の事実は、将来においてベトナム造船業の発展が必要なことを示すものである。
2.現状
政府は経済発展への意欲高揚に力を入れているが、この方針の下、さらに統合、拡大を進め、多国間の国際経済関係において商業べースの投資、協力が実施されている。ベトナムは輸出市場を一層重視し、国内の経済組織に有利な条件の整備を進めている。現在ベトナム政府は、経済の各分野において、年平均6ないし7.5%のGDP拡大という高度成長を目指した5ヵ年計画を実施に移すところである。造船・建設部門は10.8%の成長、輸出では16.5%の成長を達成しなければならない。
政府の間接的支援を受けて、ベトナム造船業は新造船・修繕船両部門で、諸外国との合弁事業、その他の形態の提携を熱心に求めている。政府は、国有造船所にも外国企業との合弁事業の設立や、業務提携協定(BCC)の締結を認めるようになった。さらにベトナムでは全額外資の造船所の設立も認められている。このような提携が、国内造船部門への新技術の導入、技術援助の提供、資本注入につながることが期待される。現在、国内の大半の造船所は多量の受注を確保し、一部の造船所は連続建造の契約も獲得している。
3.ベトナムの造船部門
ベトナムの造船業はほぼ全面的に二つの官庁、すなわち国防省と水産省の監督下にあり、1999年現在、ベトナム国内の造船所の総数は第2表に示す通り、約60に達している。うち最大級の造船所は、その大半がヴィナシンの傘下にあり、ベトナム造船業全体の能力に70%のシェアを占めている。
ベトナム造船産業公社(ヴィナシン)は経済的に強力な造船産業グループで、ベトナム政府に属する特別持株会社の目標モデルとして再編された。ヴィナシンは約14,200名の従業員を雇用し、16造船所と外国との合弁企業4社を含む子会社33社を傘下に収め、ドイツ、イラク、ロシア、オーストラリアの5カ国に駐在員事務所を設置している。40年の経験を積み重ねたヴィナシンは、内外の顧客から信頼できる造船会社として定評を得ている。
4.近年のヴィナシンの事業活動
近年、ヴィナシンは効率の成長を遂げ、1997年の総建造能力は96年より19.5%伸びたものと推計されている。98年の対前年比推定成長率は実に51.7%に達し、99年も同じく24%の成長が推定されている。2000年の対前年比推定成長率はは32.8%で、この時期の平均年間成長率は30%に及んでいる。その間、ヴィナシンは383隻の船舶を建造し、1,264隻を修繕した。主な成果を以下に列記する。
- 6,500DWT型と11,500DWT型の貨物船
- 3,500DWT型タンカー
- 1,300-4000Hp級タグ
- 30ノット級アルミ製高速巡視艇
- 28ノット級アルミ製高速客船
- 輸出向け調査船
- 巡視艇
- 近海漁船(出力600Hp以下)
- 引上げ能力8,500トンの浮ドック
- 1,200m3型LPDバージ
- 1,200-2,500m3型LPG船
- V61型高速水先案内艇
- 沿岸警備隊向けV56型高速巡視艇
- 税関向けV59型高速艇
- K99型100人乗り高速客船
- 500T-3,800T型貨物船
- 510HPおよび3,200Hp級タグ
- 1,000-1,500m3/h級吸上式浚渫船
- 海洋調査艇
- 各種自航バージ
- 80,000Tおよび400,000T型ドック用扉
II.造船部門への投資
- 1996-2000年のヴィナシン発展計画を完遂し、以下のような主要目標を達成した。
更に政府、造船部門からの投資、ヴィナシンの借入資本により、能力の拡充、あらゆる船種について新造船・修繕船技術の向上が図られている。
+ 15,000トン型までの船舶の修繕
+ 10,000トン型までの船舶の新造
+ 漁船、海洋調査艇等の建造
+ 巡視艇、軍用艇の建造。
+ 一部の造船用資機材の製造と設置
5年前にヴィナシンは、重要なプロジェクトの実施のため、諸外国との合弁事業、提携においてベトナム側の中心パートナーとして参画した。1999年4月以降の現代重工業との合弁事業で、ヴィナシンは400,000DWT型までの船舶の修繕を実施した。
1.国際協力計画
現在ヴィナシンは各国の民間部門のパートナー50社と提携し、一部の国内造船所において重要なプロジェクトを実施している。
-多額の投資によりHa Long造船所を近代化、これにより同造船所は1,200TEU型までのコンテナ船を建造できるようになった。
- Ben ThuyおよびNha Trang両造船所にGRP製船舶の建造ラインを設置。この結果、両造船所では間もなく近海漁船の建造が開始される。
- ハノイの船舶設計研究所において曳航水槽のグレードアップ投資。
- ハイフォン市のアンホン工業団地でイタリアのFinencoと提携し、ディーゼル機関工場の建設に投資。
- 現在、造船業界はベトナム政府から、ハイフォン市のアンホンとクァンニン州のカイランの両地区で、関連工業団地を建設する認可を得ている。両地区は外資とベトナム造船業とが提携して、造船業および輸出向けに補機製造の合弁工場を建設する上で、絶好の立地条件を備えている。
2.海事産業に対する投資
a)船隊整備
現在ベトナムの商船隊では老朽化した船舶が多い。各海運企業は主として国内航路に力を注ぎ、国の輸出入貨物の積取比率は、価額べースで15%に過ぎない。自国の輸送需要に対応するために、ベトナムは2000年から2010年までの間に船隊を一新しなければならない。
b)港湾システムの開発
ベトナムの港湾システムは以下の三つの主要港グループに分けて考えることができる。
- 北部港湾グループ:(クアンニンからニンビンまで)15港。年間貨物取扱量は2000年以降1000-2,500万トン、2010年以降4,400-5,000万トン。
- 中部港湾グループ:(タンホアからビントゥアンまで)24港。年間貨物取扱量は2001年以降1500-1,700万トン、2010年以降5,000-6,500万トン。
- 南部港湾グループ:24港。年間貨物取扱量は2000年以降3,000-3,500万トン、2010年以降5,000-6,500万トン。
さらに、輸送需要に対応して原油専用港、漁港その他の地方港湾にも投資が行われる.
IV.べトナム造船業の今後の発展方向
一方、新造船・修繕船産業のニーズに応えて、他の地場産業や外国資本と協力して、共同生産を行う、国内外の信頼し得る下請事業者の組織化が進められる。中小型ディーゼル機関などの舶用機器、甲板機器、配電盤、航海機器などのうち、特に適した品目を選んで、その組立て、製造を行う事業への投資が最も望ましい。
この開発期間中に、多数の国でベトナム造船業の知名度を高めるために、国際マーケティング活動、船舶輸出受注活動を展開しなければならない。
- 設計
造船部門における高度の需要に対応できるような設計能力の向上のため、新設備と人員要請に投資。
- 新造船
30,000トン型までの船舶の新造のため、主要造船所を新技術の適用により拡張、グレードアップする。
- 修繕船
400,000トン型までの船舶の修繕能力を確保するための投資。
2002年には、主として以下のような船舶の竣工が予定されている。
- 11,500DWT型および12,500DWT型貨物船
- 13,500DWT型タンカー
- 1,016TEU型コンテナ船
- 6,500トン型貨物船
- 6,7500トン型貨物船(2隻)
- 6,300トン型貨物船
- 1,500m3/h型カッター吸引式浚渫船
- 120人乗り高速客船
- 高速救命捜索船
IV.まとめ
現在ベトナム造船業は、その能力を着々と拡充している。
わが国の造船業は、国内・国際市場で「造船需要曲線」が上昇する次のチャンスを忍耐強く待ち構えている。
わが国の経済は開かれていて、今後の可能性と課題に共に取り組もうとする、新たな提携相手を歓迎するものである。
添付資料
第1表2001-2005年における各合弁企業の予定竣工量
目標年次 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
1-現代ヴィナシン |
60 |
80 |
105 |
135 |
200 |
2-その他の合弁企業 |
10 |
15 |
20 |
25 |
45 |
計 |
70 |
95 |
125 |
160 |
245 |
第2表 ベトナム国内の新造船・修繕船ヤード
番号 |
事業所名 |
所在地 |
新造船能力
(DWT) |
修繕船能力
(DWT) |
1 |
Anphu Shipbuilding Co. |
ホーチミン市 |
1,500 |
1,500 |
2 |
Bason Shipyard |
ホーチミン市 |
1,000 |
15,000 |
3 |
Binhchanh Ship-Repairing
Service |
ホーチミン市 |
− |
1,000 |
4 |
CARIC Enterprise |
ホーチミン市 |
300 |
600 |
5 |
Constructional Engineering
Works |
ホーチミン市 |
1,000 |
1,000 |
6 |
Dongtien Shipyard |
ホーチミン市 |
400 |
650 |
7 |
Dongtam Mechanical Factory |
ホーチミン市 |
250 |
400 |
8 |
Hiepthanh Enterprise |
ホーチミン市 |
400 |
300 |
9 |
Hoanglinh Ship-Repairing Yard |
ホーチミン市 |
300 |
300 |
10 |
Mechanical Communication
Enterprise Dist.4 |
ホーチミン市 |
600 |
600 |
11 |
Shipyard No.CK76* |
ホーチミン市 |
600 |
10,000 |
12 |
Nhabe Shipyard |
ホーチミン市 |
300 |
400 |
13 |
Rangdong Yard |
ホーチミン市 |
250 |
250 |
14 |
Saigon Ship-building Co.* |
ホーチミン市 |
1,000 |
4,000 |
15 |
Saigon Shipyard |
ホーチミン市 |
200 |
200 |
16 |
SHIPLACOM* |
ホーチミン市 |
− |
10,000 |
17 |
Thanhda ShipyardCo. |
ホーチミン市 |
800 |
2,000 |
18 |
Thongnhat Cooperative |
ホーチミン市 |
400 |
600 |
19 |
Thongnhat-Nhabe Mechanical
Factory |
ホーチミン市 |
通常船舶400
(バージ800) |
  |
20 |
Bachdang Shipyard* |
ハイフオン |
12,000 |
10,000 |
21 |
BenKien Shipyard* |
ハイフオン |
2,500 |
6,000 |
22 |
Song Cam Shipyard* |
ハイフオン |
1,000 |
3,000 |
23 |
Fishing Ship-Repairing&
Building Enterprise |
ハイフオン |
400 |
200 |
24 |
Haiphong Shipyard |
ハイフオン |
12,000 |
6,000 |
25 |
Halong Engineering Factory |
ハイフオン |
400 |
600 |
26 |
Halong FISCOM |
ハイフオン |
200 |
400 |
27 |
Namtrieu Shipyard* |
ハイフオン |
500 |
5,000 |
28 |
Ship-Repairing Service
Enterprise No.1 |
ハイフオン |
400 |
600 |
29 |
Pharung Shipyard* |
ハイフオン |
4,000 |
16,000 |
30 |
Technicaland Professional
College of Transport No.2 |
ハイフオン |
500 |
300 |
31 |
Tambac Shipyard* |
ハイフオン |
3,000 |
300 |
32 |
Benthuy Shipbuilding Factory* |
ゲティン |
1,000 |
750 |
33 |
Nghetinh Repairing Works |
ゲティン |
通常船舶100
(バージ250) |
通常船舶400
(バージ600) |
34 |
Fish Mechanic Co. |
ダナン |
  |
  |
35 |
Hoasenshipyard |
ダナン |
30 |
30 |
36 |
SEATECCO |
ダナン |
120 |
300 |
37 |
Songhan Shipyard* |
ダナン |
600 |
600 |
38 |
SongthuCo. |
ダナン |
400 |
2,000 |
39 |
Halong Shipbuilding
Enterprise |
クァンニン |
1,000 |
1,000 |
40 |
Halong Shipyard* |
クァンニン |
12,000 |
3,500 |
41 |
Khanhhoa Shipbuildingand
Repairing Works* |
ニャチャン |
600 |
600 |
42 |
Hanoi Shipyard |
ハノイ |
1,000 |
200 |
43 |
Nhatthanh Shipyard |
タイビ |
100 |
100 |
44 |
The Enterprise of Salvageand
Ship Repair |
ブンタウ |
- |
3,000 |
45 |
Vungtau Shipyard |
ブンタウ |
- |
200 |
46 |
Ship-Repairing Enterprise
No.81 |
ハイフオン |
海軍修繕基地 |
  |
47 |
WorksNo.69 |
ハイフオン |
海軍修繕基地 |
  |
48 |
WorksNo.173 |
ハイフオン |
海軍修繕基地 |
  |
49 |
X-46Shipyard |
ハイフオン |
海軍修繕基地 |
  |
50 |
X-48Shipyard |
ハイフオン |
海軍修繕基地 |
  |
51 |
X-50Shipyard |
ダナン |
500 |
4,500 |
52 |
X-51Shipyard |
ホーチミン市 |
1,000 |
1,100 |
53 |
X-500Shipyard |
ハイフオン |
修繕基地 |
  |
54 |
Namha Shipyard* |
ナムハ |
600 |
600 |
55 |
Songdao-Namha Shipyard |
ナムハ |
600 |
300 |
56 |
Songlo Shipyard* |
ビンフー |
600 |
400 |
57 |
Mechanical Enterprise No.721* |
カントー |
500 |
500 |
58 |
Shipbuildingand Repairing
Enterprise No627 |
キェンジャン |
400 |
400 |
59 |
189 Enterprise |
ハイフオン |
500 |
400 |
60 |
Hyundai-Vinashin Joint VentgureCo* |
カンホア |
1,000 |
400,000 |
注:*を付したヤードはヴィナシン所属。
第3表 2000-2010年におけるベトナム商船隊増強の方向(ヴィナラインズの計画)
船種 |
2000-2005年 |
2006-2010年 |
2001-2010年 |
隻数×船型 |
合計DWT |
価額 |
隻数×船型 |
合計DWT |
価額 |
隻数×船型 |
合計DWT |
価額 |
コンテナ船 |
8×1200/
1500TEU |
10,000
TEU |
100 |
4×1,500 TEU 4× |
16,000 TEU 200,000 |
150 |
16 |
26,000 TEU 310,000 |
250 |
原油タンカー |
3×90,000 2×60,000 |
390,000 |
125 |
3×90,000 DWT |
270,000 |
120 |
8 |
660,000 |
245 |
プロダクト船 |
2×15,000 DWT |
30,000 |
15 |
2×30,000 DWT |
60,000 |
30 |
4 |
90,000 |
45 |
LPG船 |
3×2,000 m3 |
6,000 m3 |
10 |
3×3,000m3 |
9,000 m3 |
20 |
6 |
15,000 m3 |
30 |
多目的貨物船 |
5×30,000 DWT |
150,000 DWT |
80 |
5×35,000 DWT |
175,000 |
100 |
10 |
32,500 |
180 |
(意味不明の項目) |
2×65,000 DWT 2×10,000 DWT |
13,000
20,000
|
13
20
|
3×6,500 DWT 2×10,000 DWT |
19,500
20,000
|
19.5
20
|
3×6,500 DWT 4×10,000 DWT |
32,500
40,000
|
32.5
40
|
計 |
27 |
10,000 TEU 72,300 DWT 6,000 m3 |
363 |
26 |
16,000 TEU 745,000 DWT 9,000 m3 |
460 |
53 |
26,000 TEU 1,468,000 DWT 15,000 m3 |
  |