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●精神的バリア

 

外出先で安心してトイレに行けるというのは、誰にとっても重要なことです。「安心して」というのは、「必要な時に気兼ねなく」ということです。トイレに介助の必要な肢体不自由者や、トイレそのものの場所を見つけるのが困難な視覚障害者は、トイレを利用するために他者の助けを必要とします。ですから、トイレに行きたくなったら、誰に頼むか、いつ頼むかを考えねばなりません。しかし、本人にしてみればそこにストレスを感じます。一人で行動していたとしたらなおのことでしょう。見知らぬ人に介助を頼むのは不安でもあり恥ずかしくもある、異性にトイレの場所を尋ねるのは気が引ける、このような葛藤の後、それなら少しくらい我慢しようということになります。たとえ知り合いといっしょでも、タイミングを逸してしまうこともあるでしょう。

また、高齢者の中には、自分は身障者ではないので、「身障者用トイレ」を使うことを好まない人もいます。そうなると、「身障者用トイレ」という位置づけも、考える必要があるのかもしれません。

このように、トイレに行くという一見単純な行為には、精神的なストレスを伴う場合があるのです。そのため、外出をためらったり、できるだけそのストレスを感じなくてすむように、飲み物をひかえたりすることにもなります。

 

●バリアをこえて

 

街の中が整備され、障害者や高齢者が外に出やすくなってきて、そのニーズに応える形で身障者用トイレも増えてきました。以前のように、外出先を考えるのに、使えるトイレの有無を条件にするという必要がだんだんなくなってきました。なぜなら、新しい駅や公共施設など、使えるトイレのありそうな場所を推測して探せるようになってきたからです。

けれども、これまで述べてきたように、障害者や高齢者の外出時の課題として、まだ様々なトイレの問題が残されています。その人たちが、トイレを意識せずに、外出するまでにはいたっていません。ちょっとトイレに行きたくなったからといって、交番や喫茶店やコンビニに飛び込むことはできないのです。もし、様々なニーズにかなうトイレが街のあちこちにできて、それらの情報を簡単に得られるようになれば、障害者や高齢者の外出は、もっと楽しく、ストレスの少ないものになるでしょう。外出時のトイレの問題が解消されていくならば、外に出ることを諦めてしまった人の人生や、その周囲の人々の生活を変えることだってありえるのではないでしょうか。

 

 

 

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