しかし、誰もが使えるトイレへの取り組みは、実に「今日的な課題」であることも、認識しておく必要があります。障害のある人や高齢者が街に出たり旅をすることが少なかった時代には、その人たちに対し何らかの配慮をしたトイレがあれば、利用者の有無にかかわらず「良し」とされてきた面がないとはいえません。ところが、利用する人が増え、利用者層も多様化してきました。その結果、今まで良しとされてきたトイレの質と、トイレの数の問題が、より深く考えていかねばならない課題として、クローズアップされてきました。トイレの問題が、バリアフリーな社会へ向けて越えねばならないハードルの一つであることは、今や明らかです。誰もが使えるトイレへの取り組みが今日的課題であるというのも、そのためなのはいうまでもありません。
●「障害の概念」の変化とノーマライゼーション
これからユニバーサルトイレについて述べるわけですが、その前に、この言葉の背景にある社会的潮流や概念をざっと見ておくことにしましょう。まず、最近の「障害の概念」の変化と、40年以上前にできた「ノーマライゼーション」の考え方に触れておきたいと思います。
旧来のWHO(世界保健機関)における「障害の概念」では、障害は、機能障害(医学上の障害)、能力障害、社会的不利の三層からなる、とされてきました。しかし、この考え方は、2001年になり、国際的に大きく変わろうとしています。
新しい考え方は、機能障害(impairment)のかわりに構造/機能(structure/function)を、能力障害(disability)のかわりに活動(activity)を、社会的不利(handicap)のかわりに参加(participation)をもって説明します。そして、その全体を説明するのに、健康状態および環境因子と個人的因子からなる背景因子を考慮しています。
一言でいえば、これまでは「障害」について、障害を持つ個人の方向から概念規定をしてきたのに対し、今後は社会全体つまり環境の中で「障害」をとらえ、障害を持つ人々を社会の一員として包含してゆこうということです。この考え方は、「障害のあるなしにかかわらず同等の社会参加を可能にする社会が、“ノーマルな社会”であり、そのような社会作りをめざす」という、ノーマライゼーションの考え方に一歩近づいたものといえるでしょう。この新しい障害の概念は、今後の世界的潮流になると思われます。
●バリアフリーデザインとユニバーサルデザイン
次ぎに、バリアフリーデザインとユニバーサルデザインについて、少し述べておきます。両者には、多くの報告もあり、その方向性が明らかになりつつあります。
バリアフリーデザインは、近年、すっかり社会に定着してきた感がありますが、この言葉は、1974年の国際連合障害者生活環境専門家会議で採択されたものとされています。バリアフリーという言葉は、世界的には、主として建築など「ハード面」の言葉として理解されてきました。しかし我が国では、この狭義の物理的なバリアだけでなく、文化・情報面でのバリア、制度面でのバリア、心理的なバリアを含めた、広義なものとして流布されていることは、周知のとおりです。