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渦巻きが容器の回転より弱い状態では、当然のことながら中心のへこみも小さいでしょう(水が止まっている場合は、へこみはありません)。しかし、回転台の上から見ると、ジオイド面を水面と思うわけですから、それよりへこみが小さい渦巻きは、中心が盛り上がって見えます。それが高気圧なのです。

 

高・低気圧と天気

高気圧や低気圧は、天気の変化と密接に関係しています。日本列島が高気圧に覆われると、一般に天気はよくなります。一方、低気圧圏内に入ると、天気は悪くなります。それは、高気圧と低気圧の性質の違いに関係しているのです。それを確かめるために、別の実験をしてみましょう。

同じ円筒容器の水槽を使いますが、水を回転させる前に水彩絵の具をチューブから少し絞り出して容器の底になすりつけ、絵の具のかたまりで点を描きます。それから、水槽を回転させます。すると、塗りつけた点から絵の具が溶け、線状に流れ出します。その線は、らせんを描いて外側に伸びるのがわかると思います(図6)。ちょうど、傘を回転させると、傘についた雨滴が外側に飛ばされるように、水槽が回転を始めると、底に接触した水が遠心力で外側に飛ばされるのです。実は、高気圧圏内の空気でも同じことが起こります。高気圧圏内では、空気より地面のほうが速く回転しているので、地面付近の空気が遠心力で外側に飛ばされるわけです。そうすると、飛ばされた空気を補うように高気圧圏内の上空の空気がゆっくり下降します。下降気流の中では雲が発生しないので、天気がよくなるのです。

一方、低気圧の渦巻きではどうでしょうか。この実験で低気圧をつくるには、容器の回転を突然遅くしてやればよいのです。水は慣性でまわり続けるので、容器から見ると、水は容器より速く回転している状態になります。すなわち、低気圧の渦巻きが発生したことになります。すると、底に塗りつけた絵の具は、らせんを描きながら中心に向かう線を描くことがわかります(図7)。地面の回転が渦巻きの回転より遅い場合は、中心の圧力が低いので、それに吸い込まれるように渦の周辺から中心に向けた流れが生じます。その流れは中心に集まると上昇します。すなわち、低気圧圏内は上昇気流が発生するのです、雲は上昇気流の中で発生するので、低気圧圏内は一般に天気が悪くなります(低気圧は前線をともないますので、前線に沿って天気が悪くなることもあります)。台風の場合も同じです。台風の地面付近では、らせんを描くように空気が台風の中心に集まります(図8)。そのため、台風の中心付近で積乱雲が発達して、暴風雨が発生するのです。

同じことは茶碗の中でも起こります。お茶をスプーンでかき混ぜると、茶殻が茶碗の中心に集まるでしょう。低気圧圏内の現象と同じことが起こったわけです。茶碗は回転していないので、高気圧と同じ現象をつくるのはむずかしいのですが、茶碗を回転させれば、高気圧のモデルをつくることもできます。

このように、自然の原理というものは、茶碗の中でも大自然でも同じですので、簡単な実験で野外の大規模な自然現象の仕組みを理解することができるわけです。ぜひ、教室で試してみてください。

 

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図8:実際の台風に気流の分布。台風中心付近の海上風を入工衛星に搭載したSeaWinds散乱計で観測した結果。(NASA/JPLのホームページより引用)。

 

(協力:日本財団)

 

※本文は、NATURE SCIENCE 2001年1月号(ネイチャーサイエンス発行・角川書店発売)に掲載されたものです。

 

 

 

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