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1か月の間に、日本列島から約1000キロメートルも沖に流されてしまったのです。それは、日本列島の太平洋側に黒潮という川のような海流があって、それに乗ってしまったためです。

偶然、私は吉村昭さんの書かれた『漂流』というドキュメンタリー小説を読み終わったところですが、土佐沖でしけにあった長平という船頭が仲間とともに沖に流され、やはり黒潮に乗って鳥島に流れつき、なんとそこで12年間も生活して、生還するという話です。この本を読みますと、江戸時代には船が難破して漂流することは数限りなくあったようで、太平洋側では多くの場合、黒潮に乗って太平洋の中央部に流されていったようです。

ずいぶん罪つくりな海流ですが、黒潮って何だといわれても、よくわからないでしょう。実は、北太平洋の西側から東側まで広がる、大きな時計まわりの海水の渦巻きのごく一部なのです。そのような巨大な渦巻きなど、昔の人は夢にも考えなかったでしょう。

 

地球を見る目

私たちはすごく性能のよい視覚をもっていますが、月面に立ったアポロ宇宙船の飛行士でもない限り、地球を一望のもとに見ることはできません。地球から遠く離れている太陽や月は一望のもとに見ることはできますが、地球の上にいて地球全体を見ることはできません(スペースシャトルが飛行する高度(約300キロメートル)でも無理です)。しかし、自然界の仕組みを知ろうとすると、どうしてもグローバルな視点をもつことが必要なのです。

そこで、今日はグローバルな視点を見る特別な「目」をもってきました。これが「地球を見る目」なのです。実は、超小型のビデオカメラです。電池で駆動し、映像は電波で受信器に飛ばします。受信機をテレビに接続しておけば、このビデオカメラがとらえた映像をテレビで見ることができます。

実は、このカメラは鉄道マニアのために開発されたもので、模型の電車の内部に組み込んでおくと、窓から見える外の景色がテレビに映し出されるわけです。鉄道マニアは線路に沿ったジオラマを作成して、運転手になった気分でそれを楽しむことができます。

このビデオカメラを人工衛星の模型に組み込むと、「地球を見る目」として使うことができます。ここに地球儀がありますが(図1)、この地球儀は自転軸が鉛直方向を向いており、鉛直方向のまわりを自由に自転するようにつくってあります。そのまわりにあるリングは、人工衛星の軌道に当たるものです。実際の人工衛星は空中に浮いていますが、ここでは、無重量状態をつくることができませんので、このリングにテレビカメラ(図1右側の角柱状のもの)を固定し、地球とともに自転させます。天気予報に使われる静止気象衛星「ひまわり」は、地球と同じ回転数で赤道上空をまわるようにできていますが、ビデオカメラを赤道上のリングの位置に固定して地球と一緒に回転させ、テレビカメラで地球表面の映像をとらえると、「ひまわり」と似た状態になります。

地球は宇宙空間に浮かんでいます。宇宙は、この部屋と異なり真っ暗な世界です。暗黒の世界に浮かぶ地球は、いつも太陽に照らされています。太陽は地球から非常に離れているので、太陽光線はほとんど平行光線です。ちょうどOHPの光が平行光線に近いので、地球儀に平行光線を当ててみましょう。すると、地球の置かれている宇宙の環境に似てきます。横から見ると、OHPの光に照らされた側が昼で、その反対側が夜です(図2。OHPは講師の後ろに隠れて見えない。スクリーンに写っているのは、テレビカメラで撮影された地球儀)。

 

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図2:地球儀にOHP(講師に隠れて見えない)の光を当てて、昼と夜を再現する。超小型ビデオの画像が右側のスクリーンに投影されている。

 

 

 

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