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人間が吸いますと、肺の中に空気が入っているわけですね。なぜ上がってくるかというと、大気圧に押されて上がってくるわけです。一方、肺の中にも空気が入っていますから、大気圧で押すことのできる10メートル以上は絶対上がらないわけですね。人間が吸うだけでも10メートルもいかないんだということをまず体験してみて、では高さが100メートルもある木は、なぜ水を上げられるんだろうかということを少し考えてみようというわけです。

実は、なぜ上がるかということは詳しくは解明されていません。現在考えられているのは、植物は上のほうに葉がありますから、そこから蒸散といってどんどん水が逃げていくわけですが、それによって陰圧が生じて水が上がるというのが、一番支持されている説です。でも、実験的にそれを示すというのがまだできないんですね。そういう点で、なぜ上がるのかという説明が、子どもたちにはむずかしいかもしれませんが、木がどれだけ水を吸うか、そして吸った木の水がどこにいくのかを考えるきっかけになります。水は木から蒸散していくわけで、例えば熱帯雨林から蒸散していく水はものすごい量になります。その蒸散の量が、地球上での水の循環を、実はかなり支えていることにもつながりますし、いろいろな視点があると思います。

 

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図10:ヒトは水をどこまで吸い上げられるか。吸水実験の様子。中央大学理工学部構内にて。

 

土の役割

次に、土の役割を考えてみましょう。土というのは、動物や植物の遺体があり、それを食べる生き物がいる、つまり豊かな土ということだけではなくて、炭素を蓄える重要な場所であり、水も蓄えることができるということです。土に有機物があることで、そこに蓄えられる水の量というのは、ただの砂とはかなり違います。そのために、水がある程度の時間、地表近くに滞留しているわけです。それはかなり重要な意味を持っています。

水に溶ける物質というのはたくさんあります。植物や動物が死ぬと有機酸ができますが、その酸が水に溶けた状態でずっとたまっているわけです。それで、実は下の岩石もどんどん風化が進むわけです。風化が進むことで、そこから炭素を含んだ炭酸が多く流れたりするので、地球の炭素の循環もかなり変わってきます。

水がたまるということを考えたときに、簡単な実験をしてみましょう。これは何かの本で読んで面白いなと思ったものです。まず2つのスポンジを用意しますが、1つは乾いたまま、もう1つは水を吸わせて濡らしておきます。なぜこのようなことをするのかというと、湿った土と乾いた土とでは水のしみ込み具合が全然違うということなんです。雨がどっと降ったときに、今、都市で水がどんどん逃げてしまって、急に洪水になるということが問題になっています。これは流れた水が、すぐしみ込まないという問題があるわけです。乾いた土というのは、非常に水がしみ込みにくい。その点を、お茶を使って試してみたいと思います。

まず、乾いたスポンジです。ここにお茶を流すとどうなるかといいますと、表面をぱっと流れていってしまいます。上を水が伝わって行ってしまったというのがわかります。こちらの濡れたほうに水が流れるとどうなるかといいますと、水は表面を流れずに、スポンジの下から出てくるのがおわかりになりますか。もう1回やってみましょうか。スポンジの底を通って出て行きますね。乾いたほうは表面を、びゅっと流れてしまいます。こういうふうに湿っていると、水は格段にしみ込みやすくなります。実際の土ではどうかというのは、またいろいろな条件があるかもしれませんが、要するに土壌があることで、水がたくわえられていると、そこに降った水もしみ込みやすくなるというわけです。これは非常に簡単なモデル的なものですから、現実の場合とは少し違う面もあるかもしれませんが、ただ、土壌にはどういう効果があるかを知る面白い実験だろうと思います。

今日紹介した2つの実験は、遊びのようなものかもしれませんが、1つは植物と水とのかかわりを考える上での切り口として、木の立場になって水を吸ってみるということ、もう1つは土を介して水が地球の中を動き、さらに土の中にある栄養が海を育てるということにもつながっていきます。地球全体の生命系を考え、その歴史を考える、私たち生き物、あるいは地球の今の姿が簡単にできたものではないんだということがわかるかと思います。そういう、いろいろな面からの切り口が可能だろうと考えています。

(協力:日本財団)

 

※本文は、NATURE SCIENCE 2001年1月号(ネイチャーサイエンス発行・角川書店発売)に掲載されたものです。

 

 

 

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