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地球全体の生命も含めたシステムに対して、最近では「生命系」という言葉を、放送大学の岩槻邦男先生がおっしゃっています。生命と環境が一体になったシステムということですが、ただ生命系という言葉は、生命と環境が一緒になっているというだけではなくて、歴史を持っている、時とともに変化しているという概念です。そのようなシステムの例として、炭素の流れを出してみます。

炭素は大気中に、今、温暖化で問題になっている二酸化炭素などがあります。それが雨で地面に降るし、地面には岩石の中に、例えば石灰岩などに二酸化炭素が含まれているわけですから、それが流れてきて海に入るわけです。海から陸に移るものもありますし、地面の中から火山活動によって出てくる二酸化炭素もあるということで、大きな循環があるわけですね。

そういう炭素循環の中で、生き物はかなり大きな役割を果たしています。図2は、炭素の循環を具体的な量で示したものです。海の生物はここに入っていますし、陸にも陸の生物がいます。生物はもちろん炭素でできていますから、死んで分解されれば二酸化炭素に戻ります。それから、特に化石燃料というのがありますが、これは人間が使っている石油、石炭などの消費で、かなり大きな量になっていることがわかります。このように地球は、生物を介して大きなシステムをつくっています。

図3は、過去5〜6億年の間に、地球上で二酸化炭素の濃度がどのように変化してきたかを調べた1つの例です。二酸化炭素は6億年前の古生代ぐらいから大まかに見て減少しています。その大きな理由の1つは、植物が行う光合成です。二酸化炭素を吸収して酸素を出すことで、酸素が増加し、二酸化炭素は減少します。二酸化炭素の減少を植物が引き起こすわけですが、よくよく考えてみますと、植物の行う光合成で二酸化炭素が吸収されると、その吸収された量は植物の体になり、それを動物が食べて動物の体にもなるわけですが、それぞれ死ねば堆積しますね。その堆積したものが、またバクテリアなどの力によって分解されます。もしそれが全部分解されてしまうと、実は、植物が吸収した二酸化炭素と同じ量の二酸化炭素がまた出てきてしまうわけです。それで差し引きゼロということで、二酸化炭素は減らないことになります。

では、なぜ二酸化炭素が減ってくるのかというと、その理由の1つは、つくられた有機物質が土の中に蓄えられているからなんですね。土壌というものは、ただ土があればいいというものではなくて、炭素を蓄えるという非常に大きな役割を果たしています。特に植物の細胞をつくっているセルロースとか、材木に入っているリグニンとか、こういう炭素化合物が土の中にあることで、地球上の二酸化炭素レベルを抑える非常に大きな力になっています。

 

植物の登場と上陸

では次に、植物の歴史、地球の歴史がどのように変化してきたかについてお話しましょう。

これは有名な写真(次ページの図4)かもしれませんが、オーストラリア西部にあるパースから北にずっと行ったところに、シャークベイというところがあります。インド洋に面したところですが、海岸にご覧のような枕状のかたまりがたくさんあります。この岩のようなものは「ストロマトライト」といいまして、「ラン藻類(シアノバクテリア)」と呼ばれる、現在は細菌の一種だとされている原始的な藻類がつくるものです。

 

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図2:地球規模の炭素循環。単位10億トン。移動量は年当たり。(北里洋(2000)「遺伝」別冊12、p.9図1を改変)

 

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図3:顕生代の二酸化炭素濃度の変動推定値。横のバーは大陸氷床の痕跡が見られる期間。(同左、p.49図8を改変)

 

 

 

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