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講演1

「いのちの旅―人はどこから来て、どう生き、どこに行くか―」

 

日野原重明

聖路加国際病院理事長

 

司会:では、セミナーを始めさせていただきたいと思います。「いのちの旅−人はどこから来て、どう生き、どこに行くのか−」と題しまして、聖路加国際病院理事長の日野原重明さんによる講演をお聞きいただきます。日野原さんは、欧米のホスピスを視察後、死の臨床研究会を結成され、ターミナルケア、つまり末期医療や介護の充実、そして医者に任せきりにしない患者参加の医療、老いてなお成長する新老人運動を提唱されて、現代医療の改善に向けて尽力を続けていらっしゃいます。また、民間病院として初めて聖路加国際病院に人間ドッグを開設し、全国への普及を進められました。成人病に代わる生活習慣病という新語の命名者としても有名です。また、ベストセラー絵本『葉っぱのフレディ』をミュージカルにするなど、多くの分野で活躍されていらっしゃいます。1999年には文化功労者に顕彰されておられます。それでは、日野原さん、よろしくお願いいたします。

 

日野原:きょうはこの美しい秋の日に、杜の都・仙台にまいりましてみなさんにお話できることは、たいへんうれしいことでございます。外国人を日本に迎えるときに、多くの方は京都を見学したいと言われるのですが、私は京都に負けず、仙台も素晴らしいと喜んで勧めているわけであります。あの新緑のケヤキ並木、そしてそれがあとひと月もすると美しい紅葉になるのですが、こういう美しい町に来ると、非常に気持ちがリフレッシュされて快く思います。

きょうは皆さんとともに、人間の死というテーマについて、少し清々しく、晩秋に散る葉っぱのように、大きな自然の営みの中に織り込んで考えてみたいと思います。

私は明治44年生まれですからこの秋90歳になりました。私の余命はおそらくここにおられる皆さんの誰よりも差し迫っていると思います。しかし、いずれは皆さんも必ずこの世を去るということになるのです。きょうはすべての人が経験する死について、そしてそれは普通のことであって、自分だけに与えられた試練ではないのだということ、私たちは自分たちの死をいのちの一部として、リンゴの芯に種があるように、私たちは生まれたときから死の種を持って生まれているのだということを皆さんと一緒に学びたいと思います。子供には小さな死があり、大人には大きな死があって、それをどういうように考えるかということを、私の90年の経験を通して皆さんにお話ししたいと思います。

 

ゴーガンの絵

今日のお話の題につけました「いのちの旅」とは、私たちの人生のことをいうわけであります。「人はどこから来て、どう生き、どこに行くか」というサブテーマは、1903年に亡くなったフランスの画家・ポール・ゴーガンの絵につけられた題名です。この絵の左上に黄色い小さな三角形のところに、彼は次の3つの言葉をフランス語で書きました。順番に読みますと、「我々はどこから来たのか」、そして「我々は何者なのか」、最後に、「我々はどこへ行くか」と書かれています。

 

 

 

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