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〜あとがきにかえて〜

 

本書の刊行のねらいは、一つには、現在精神的な苦痛から「不登校」に悩んでいる当事者の方々に対し、過去「不登校」に苦悩し、現在は自立回復している経験者(不登校OB)・保護者らの言葉から有効な対応方法の一端を学びとってもらうことです。二つ目には、全国に数多く存在する民間の「フリースクール」や「カウンセラー」のなかで、とりわけユニークな活動や着実な方法で成果をあげているグループを知ってもらうことです。三つ目には、不登校に対して特別視する風潮が当事者の精神的な負担を増幅し、引きこもりへと導いてしまう傾向があることから、地域の人たちにも、「不登校」の内面を理解してもらうことです。

こうしたねらいを達成していくために、「経験者」「保護者」「フリースクール」「カウンセラー」のそれぞれの立場から、本人、家族としての体験または象徴的な不登校の事例を著してもらうことにしました。まず、共通するフォームとして、1]家族構成・家庭環境 2]不登校のはじまり 3]経過期間 4]自立・回復に向けて 5] 所感(今だから言えること)の五つの要素について触れてもらうようにしましたが、本書を読まれる方が自身の問題に置き換え、回復に向けての手掛りになるように、不登校の状態から自立・回復に向かうきっかけとなった出来事や心の動きをとりわけ重視し、記載してもらうことにいたしました。

自立・回復へのターニングポイントを重視したのは、「不登校」状態になった原因をいくら精緻に分析したところで、すでに「不登校」状態になっている人にとって、脱「不登校」への問題解決にはなり得ないことが多いと指摘されているからです。

日本財団ボランティア支援部では、平成11年度よりボランティア資金助成の重点分野として「不登校児・生への取り組み」を掲げ、これまでおよそ200に上るボランティア団体・NPO法人・親の会の活動に対して、資金助成をして参りました。それらの活動報告を通して見えてきたことは、不登校に伴うさまざまな問題を解決していくためには、親子関係の再構築とフリースクール・カウンセラーなど第三者の適度な介在が必要なケースが多いということでした。

そこで、まず親子関係を再構築していく道を探ってもらうために、「経験者編」「保護者編」を設けました。両編の各事例は基本的には親・子という相関関係で結ばれてはいませんが、本書のタイトル「大人が変われば子どもも変わる」のとおり、親の変化が子どもに重要な転機をもたらすケースが多いということです。逆の言い方をすれば、我が子に「不登校」という状態が続けば続くほど、親子の意識の隔たりは、むしろ大きくなる傾向があるのかもしれません。

以前、ある「不登校セミナー」に参加したときに、かつて不登校で共に悩んだ経験をもつ母娘が、パネラーとして登場してこんな発言をしていました。

 

母親:「娘(第一子)が中1〜3年まで不登校になったのは、娘が幼稚園児のとき私が第二子(長男)出産のため運動会や遠足について行けなかったことが関係しているかもしれない。父親も長男が生まれてからは、娘をあまりかまってやらずに…」また、「娘が中学進学への不安を言い出した頃には、小学校のPTA活動を一生懸命やっていて、あまり相談にのってあげられなかったのが原因になっていったのかもしれない」

 

 

 

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