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行動論的手法による再登校の指導

―K君の場合―

《リブ教育研究所・安田女子大学文学研究科》桜井久仁子

 

不登校期間 小学6年10月〜 13歳男子

 

《家族構成》

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はじめに

不登校児に対して、これまで心理療法的な観点から本人の心理面の治療に重点を置いた取り組みが多くなされてきた。本児が住むF市でも、「決して登校刺激を入れず、本人の心の成長をじっと見守ろう。学校に行くだけが人生ではない」といった指導が主流を占め、自宅や教育センターなどの指導機関、また学校のカウンセラー室で過ごす不登校児が、年々増加してきているのが現状である。

そこでここでは、教室内への完全登校を目標に、行動論的観点から再登校の指導を試みた男子中学生の一事例について報告し、考察する。

 

【主訴】

不登校1996年10月11日〜1997年3月末(小学校6年生時)連続欠席

1997年4月中学校入学後元気に学校へ通学する

5月11日発熱のため欠席(3日間)

5月14日〜連続欠席

 

不登校発現の経過

本児K君(以下Kと記述)は、兄、姉の年の離れた弟として、家族にかわいがられて成長する。とりわけ仕事で不在気味の父に代わり、兄の存在はKには大きく、いつも兄の後を慕い、近所でも評判の仲良し兄弟であった。しかし、Kが4年生の時、兄(当時18歳)が急性リンパ性白血病のため入院をし、1年7カ月の闘病生活のかいもなく、1996年9月に死亡。Kは3日間の忌引き欠席の後登校するが、登校班では集団登校できず、いやいや始業ぎりぎりにひとりで登校する。1カ月後の修学旅行は、旅行先での病気をしきりに心配しながらも、旅行を楽しんで元気に帰宅するが、修学旅行の感想文が書けず、その後長期欠席を続ける。

 

Kの場合、大好きな兄の闘病生活と死、加えて兄の看護のための母親の長期にわたる不在といった環境の激変が、大きな不安をもたらしたと考えられる。病気になることへの過度の警戒や、常に母親の居場所を探し歩くなどといった行動が現れ、家族以外の他者に対して不自然な行動や緊張が見られた。また、厳格な小学6年生の担任教師の叱咤激励と、「何事にもきちんとして欲しい」という要求が、学校に対する恐怖感を根付かす一因となったと推測できる。

 

 

 

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