・本人のやりたくないことは強制されないこと。
・ひとりが1部屋で、消灯時間もなく、外出も自由で、買い物も自由であること。
・スポーツも、学習も、アルバイトもできること。
・同じような年代が大勢いること。
・悩みは24時間スタッフに話せること。
などのことがわかるにつれ、表情が柔らかくなってきた。何にもまして、約2年間、一歩も外に出ることなく、大好きなサッカーもできずにいたのだから、サッカーもできるし、他の人間とも話ができるし、好きなCDも自分で買いに行けるし、とにかく盛んに動き回った2週間であった。
三者の話し合いが持たれた。どういう結論を本人が出すのか、私はもちろん両親も知らない。
・もう少しいてみてもよい。
・高卒の資格は取りたい。
・アルバイトをしたい。
M君の意向はこの3つ。すべてを了解。
ただし、
・高卒の資格を取ること。
・アルバイトをすること。
両方やることは承知するが、どちらを優先するのかを決めることを勧める。本人は、今のところはアルバイトを優先する、との意向を表明。アルバイトも、
・自分で探すか。
・紹介してもらうのか。
を問うと、地理も何もわからないので、他の寮生に紹介してもらいたいとのこと。夜間のスーパーマーケットの商品作りのアルバイトを、他の寮生といっしょにやり出す。
3カ月ほど継続し、今度は自分でパチンコ屋さんのアルバイトを見つけて働く。
漬け物工場での就業訓練。報奨金はおのおののお小遣いとして使われる。
自立回復に向けて
後日、本人と話をした。なぜ、不登校になったのか、そして引きこもるようになったのかは、M君本人にも不明であり、ただなんとなくそうなってしまったとしか言えないとのことだった。学校に行けなくなると、他のこと、例えばアルバイトにも行けないのではないか、という不安でいっぱいになってしまった。
そんな自分の不安を、母親にも姉にも知ってもらいたかったが、上手に伝えられず、ついつい暴力的になってしまった。そうしているうちに、毎日毎日が過ぎてしまい、
“もう他人に追いつけない。こんな自分は一生この生活から抜けられない”と思うようになり、いっそうつらくなって、母親や姉に当たるようになった。自分の気持ちの中には、確かに“なんとかして欲しい”という気持ちがあった。外に出ることができて本当に良かったと、今は思っているとのこと。
M君は今、ひとりでアパートを借り、アルバイトで生計をたてながら、ひとりだけの力で生きている。
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