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彼は自分の将来を思うと極度な不安に陥り、むやみやたらに暴れ、いわゆる家庭内暴力を繰り返すようになっていました。彼が暴れ出したら、家族中が息をひそめて静まり返り、嵐が通り過ぎるのをじっと待つという生活が続きました。

 

ウマが合う人に出会った

そんな夏のある日突然、父親が晴夫を連れて『はじめ塾』の合宿所「市間寮」に来ました。ここの主催者がだれで、何をする所かも知らず、たまたま通りがかりにちょっと寄ってみただけだったのですが、驚いたことにその父親は私の中学、高校、大学を通しての先輩だったのです。偶然の再会で思い出話に花が咲いている間、晴夫は庭の隅からふたりの様子を見ていただけで、父親も晴夫のことは何も話さないまま帰りました。

数日後、父親から「何が気に入ったのかわからないのだけれど、息子がまた行ってみたいと言っているので行ってもいいか?」と電話がありました。これが晴夫が私の所に来たきっかけです。出会いというのは不思議なもので、互いに響き合う者同士は理屈を超えて結びつくものです。じつは、人間関係がこじれてしまっている不登校の問題解決には、このことがとても重要な意味を持ちます。

それから晴夫は私の所に来るようになり、合宿所で黙々と薪割りをすることで、自分の居場所を見つけました。「テレビも漫画本もなく、ゲームもない生活でも楽しいの?」と聞きましたら、「家でじっとしているより楽しい」という返事が返ってきました。

合宿所の生活は、農作業などかなり厳しいものがあるのですが、それでも「居たい」と彼に言わせたものはいったいなんだったのか、私にもわかりません。何をやっても互いに許し合える、「ウマが合う人間同士のかかわり」によって、道は開かれていくのではないかと思います。

 

雑木林的環境で育つ

夏休みの終了後、晴夫は『はじめ塾』の寮生の一員になりました。『はじめ塾』では、10代の子どもたち15名と私の家族3人との共同生活をしています。ここでは不登校の子どもたちだけではなく、さまざまなタイプの子どもたちがいっしょに暮らしています。

私はこれを「雑木林的環境」と言っています。雑木林はさまざまな草木が生え、それらが互いに助け合い、競い合って生きています。教育の場も、さまざまなタイプの人間が共に暮らすことで、バランスのとれた学習が可能になります。

入寮して3カ月が過ぎる頃になると、気の合う仲間との生活の積み重ねで生活力(=生活年齢にふさわしい実力=問題解決力)がつき、他人のことも考えられるようになっていました。

 

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山の寮の台風景色。土間、泥かべ、カマド、石がまもみんなで作った。

 

 

 

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