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2000年(平成12年)

平成11年広審第36号
    件名
貨物船第三弘栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

竹内伸二、中谷啓二、横須賀勇一
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第三弘栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底に凹損、左舷ビルジキールが損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月14日02時40分
瀬戸内海備後灘北部 田島
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三弘栄丸
総トン数 139トン
登録長 43.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
3 事実の経過
第三弘栄丸は、北九州市から主に阪神方面にソーダ灰を輸送する船尾船橋型貨物船で、A受審人が妻の機関長と2人で乗り組み、ソーダ灰520トンを積載し、船首2.4メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年5月13日11時45分関門港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
ところでA受審人は、従来船長を雇い入れ、自らは機関長として乗り組んで機関の運転管理に従事するとともに、船長と交代で船橋当直にあたっていたが、その後不況のため経営が苦しくなったことから、前年6月前任船長が下船したあと、後任の船長を雇うのをやめて自ら船長職をとり、妻を機関長として2人で運航するようになり、ほぼ1昼夜かかる積地と揚地の間の航海中、航海の海技免状を受有しない妻と交代で船橋当直を行い、船舶が輻輳する海域のほか深夜や狭水道通航時は自ら船橋当直にあたり、操業漁船や行会い船の少ない広い海域では妻に船橋当直を行わせ、その間船橋内のベッドで休息をとっていた。

発航当日07時ごろ起床したA受審人は、09時過ぎから始まった積荷作業中、トリムなどに注意して積付けを監督し、11時40分積荷を終えるとすぐ出航準備にかかり、出航後関門海峡を通航して周防灘の広い海域に出るまで自ら船橋当直に従事した。
14時30分ごろA受審人は、妻と当直を交替して機関室に下り、機関の運転状況を点検したあと船橋内のベッドで休息し、18時ごろ再び機関室の点検に赴き、この間連続して十分な休息をとらなかったので、疲れが残った状態であったが、平素このような運航に慣れていたのでそれほど疲労感を自覚しなかった。
21時ごろA受審人は、沖家室島沖合で妻と交替して再び単独の船橋当直に就き、その後クダコ水道を経て安芸灘を東行し、越えて14日00時10分大下島灯台南方を通過したのち、鼻栗瀬戸、伯方瀬戸及び弓削瀬戸をそれぞれ手動操舵により通航し、02時05分百貫島灯台から266度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、馬立ノ鼻沖灯浮標を右舷側500メートルばかりに航過したとき、使用海図には仙酔島沖合800メートルに向かう063度の針路線を記入していたが、それまで昼間通航したとき百貫島付近に認めた定置網を警戒してしばらく予定針路より北に向けて航行することとし、針路を053度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの対地速力で進行した。

定針後A受審人は、当直時間が5時間を超えていたうえ、その間狭水道の通航が続いたので疲れを感じ、操舵スタンド後方のいすに腰掛けて見張りをしていたところ、はっきり自覚がなかったものの、疲労が蓄積していたうえ、屈曲部の多い狭水道から広い備後灘に出たので気が緩み、間もなく眠気を催すようになったが、これまで当直中に居眠りをして事故を起こしたことがなかったことからこの程度の眠気はがまんできると思い、船室で休息中の妻を呼んで会話をするなど居眠り運航を防止する措置をとることなく、直島を過ぎてから妻と交替するつもりでいすに腰掛けたまま単独で当直を続けた。
その後間もなくA受審人は、居眠りに陥り、02時24分百貫島灯台を右舷側1.4海里に通過したことに気付かず、仙酔島沖合に向け転針しないで田島に向首したまま進行中、02時40分横田港一文字防波堤西灯台から134度1,100メートルの地点において、第三弘栄丸は、原針路、原速力のまま田島南岸に乗り揚げた。

当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で目を覚まし、直ちに機関を使用して離礁を試みたが、離礁できないので救助を要請し、来援したタグボートによって引き下ろされ、損傷個所を点検したのち自力航行して目的地に向かった。
乗揚の結果、船底に凹損が生じるとともに左舷ビルジキールが損傷したが、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、備後灘北部において、居眠り運航を防止する措置が不十分で、田島南岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、航海の海技免状を受有しない妻と2人で乗り組み、北九州市と関西地方の間の航海に従事し、自ら船橋当直にあたる時間が長いうえ機関室の点検も行うなどして疲労が蓄積している体調のもと、夜間、単独で船橋当直に従事し、クダコ水道から、鼻栗瀬戸、伯方瀬戸及び弓削瀬戸を通航して備後灘に入ったとき、当直時間が5時間を超えて疲れを感じ、眠気を催した場合、休息中の妻を昇橋させ2人で当直にあたるなど居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで居眠りをして事故を起こしたことがなかったのでこの程度の眠気はがまんできると思い、休息中の妻を昇橋させ2人で当直にあたるなど居眠り運航を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、単独で当直を続けるうち居眠りに陥って乗揚を招き、船底に凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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