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2000年(平成12年)

平成11年神審第111号
    件名
遊漁船第18栄昇丸プレジャーボートカトレア衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、米原健一、西田克史
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:第18栄昇丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:カトレア船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
栄昇丸・・・・船首部に擦過傷
カトレア・・・左舷船尾から操舵室にかけて破口を伴う亀裂、浸水のうえ転覆、のち廃船、船長が右上腕部挫傷等、同乗者が左第4趾末節骨骨折、腰部打撲等

    原因
栄昇丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
カトレア・・・注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第18栄昇丸が、見張り不十分で、錨泊中のカトレアを避けなかったことによって発生したが、カトレアが、有効な音響信号により注意喚起を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月12日04時00分
福井県福井港三国区
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第18栄昇丸 プレジャーボートカトレア
総トン数 4.77トン
登録長 9.60メートル 4.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 205キロワット 29キロワット
3 事実の経過
第18栄昇丸(以下「栄昇丸」という。)は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客を乗せる目的で、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成11年5月12日03時40分福井県崎漁港を発し、同県福井港三国区北部の三国ヨットハーバーに向かった。
ところで、栄昇丸は、速力が10ノットを超えると船首が浮き上がり、舵輪後方の操舵位置からは、正船首から両舷各10度の範囲が死角となるため、A受審人は、平素船首を左右に振ったり、操舵室の左右各舷の窓から顔を出すなどして死角を補う見張りを行っていた。

発航後、A受審人は、舵輪後方に立ち、時折、船首を左右に振りながら見張りに当たり、陸岸に沿って西行したのち、雄島の沿岸を左舷側に300メートル離して回り込み、針路を南に転じて船首をいつものとおり三国防波堤灯台に向けたところ、前路に普段多数見える錨泊中の釣船が掲げる灯火を認めなかったことから、他の船舶はいないものと思い、やがて死角を補う見張りを行わず、左方の陸岸寄りを南下した。
03時57分A受審人は、三国防波堤灯台から349度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、東尋坊鼻の西方150メートルを航過したとき、針路を三国防波堤灯台東方400メートルの三国防波堤南西方照射灯に向く158度に定め、機関を全速力前進からやや減じた回転数毎分1,800にかけ、12.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首1,100メートルのところに錨泊中のカトレアが掲げる灯火を視認できる状況で、その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、前方をいちべつしただけで依然前路に他の船舶はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、死角の範囲に入っていたカトレアの灯火を視認することができないまま続航した。

こうして、A受審人は、錨泊中のカトレアの存在に気付かず、同じ針路、速力で南下中、04時00分三国防波堤灯台から359度1,120メートルの地点において、栄昇丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、カトレアの左舷船尾に後方から平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、カトレアは、船外機付きのFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、同乗者1人を乗せ、あじ釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日03時30分福井県九頭竜川と竹田川との合流地点から300メートル上流の竹田川右岸の係留地を発し、福井港三国区北部港界付近の釣場に向かった。
B受審人は、三国防波堤灯台から022度1,530メートルに存在する民宿の明かりを船首目標にして目的の釣場に至り、03時50分同民宿の明かりを064度に見る陸岸から500メートル西方沖合の前示衝突地点で、船首から重さ7キログラムの錨を水深10メートルの海底に投じ、長さ50メートルの合成繊維製索のうち15メートルを延出して船首の係留用金具に固縛し、舷縁上高さ2.5メートルのマスト頂部に白色全周灯を点灯して錨泊した。

その後B受審人は、操舵室前方のいけすの前に、同乗者が右舷船尾に腰を下ろし、それぞれ両舷に釣竿1本ずつを出し、前方を向いた姿勢で釣りを続けるうち、03時59分船首が158度を向いていたとき、機関音に気付いて後方を振り返り、正船尾370メートルのところに栄昇丸が立てる白波と同船の浮き上がった船首を初めて視認し、同船が自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、栄昇丸に避航の気配がなかったが、そのうち錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、速やかに避航を促すよう有効な音響信号により注意喚起を行うことなく、釣りを続けた。
B受審人は、04時00分少し前栄昇丸と衝突の危険を感じ、同乗者とともに立ち上がり、同船に向かって大声で叫んだが効なく、カトレアは、船首を158度に向けたまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、栄昇丸は船首部に擦過傷を生じ、カトレアは左舷船尾から操舵室にかけて破口を伴う亀裂を生じて浸水のうえ転覆し、栄昇丸によって三国ヨットハーバーに引き付けられたが、のち修理費の都合で廃船となった。また、B受審人が右上腕部挫傷等を、海中に投げ出された同乗者が栄昇丸に救助されたものの左第4趾末節骨骨折、腰部打撲等を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、福井県福井港三国区において、栄昇丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のカトレアを避けなかったことによって発生したが、カトレアが、有効な音響信号により注意喚起を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福井港三国区北方沖合から同区北部の三国ヨットハーバーに向けて南下する場合、舵輪後方の操舵位置で見張りに当たると、船首浮上によって正船首から両舷各10度の範囲に死角を生じるのであるから、前路に錨泊しているカトレアの灯火を見落とすことがないよう、船首を振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に他の船舶はいないものと思い、船首を振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のカトレアの存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、栄昇丸の船首部に擦過傷を生じさせ、カトレアの左舷船尾から操舵室にかけて破口を伴う亀裂を生じさせて浸水のうえ転覆を招き、B受審人に右上腕部挫傷等を、同乗者に左第4趾末節骨骨折、腰部打撲等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、福井港三国区において、釣りのため錨泊中、栄昇丸が自船に向首して避航の気配が認められないまま接近するのを認めた場合、速やかに避航を促すため、有効な音響信号により注意喚起を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、栄昇丸がそのうち自船を避けてくれるものと思い、有効な音響信号により注意喚起を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、自身及びカトレアの同乗者を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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