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2000年(平成12年)

平成11年門審第86号
    件名
漁船新戎丸プレジャーボート聖栄丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男
    理事官
蓮池力

    受審人
A 職名:新戎丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:聖栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
新戎丸・・・プロペラ羽根及び同軸を曲損
聖栄丸・・・左舷後部ブルワーク及びキャビンを破損、船外機などを濡損

    原因
新戎丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、新戎丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の聖栄丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月13日10時00分
大分県津久見湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船新戎丸 プレジャーボート聖栄丸
総トン数 1.7トン
全長 7.65メートル
登録長 8.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 29キロワット
漁船法馬力数 50
3 事実の経過
新戎丸は、刺網漁業に従事する船体後部に機関室囲壁を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、修理を依頼した揚網機の引取りの目的で、平成10年9月13日09時00分大分県津久見市の四浦漁港刀ケ浦地区を発航し、同時30分同市の日代漁港に至り、修理を終えた揚網機を載せ、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同時50分同漁港を発し、帰港の途についた。
A受審人は、日代漁港を出たのち、09時53分半赤江港1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から212度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点において、針路を022度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。

ところで、新戎丸は、機関室囲壁内の後部に舵輪を設置し、舵輪後方の操舵位置に立って操舵を行うようになっていたが、機関を全速力前進かけると船首が浮上して正船首から両舷各8度の範囲に死角を生じるところから、平素、A受審人は船首を左右に振るなどして見張りを行っていた。
09時55分A受審人は、防波堤灯台から215度1.0海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに錨泊している聖栄丸を視認でき、その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、定針するときに前路を一瞥(いちべつ)したところ他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時00分防波堤灯台から299度420メートルの地点において、新戎丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が聖栄丸の左舷側後部に前方から78度の角度で衝突して乗り越えた。

当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、聖栄丸は、船体ほぼ中央部にキャビンを設け、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時30分津久見市網代の船だまりを発し、同市赤崎鼻南方の釣り場に向かった。
B受審人は、06時35分赤崎鼻南方1,300メートルの釣り場に至って魚釣りを行い、同時45分前示衝突地点付近に移動し、機関を停止して重さ5キログラムの二爪錨を水深40メートルの海中に投じ、直径16ミリメートルの合成繊維製錨索を80メートル延ばして錨泊し、錨泊中の船舶が表示する黒色球形形象物をキャビン上部のマストに掲げて魚釣りを再開した。
09時55分B受審人は、前示衝突地点において船首を280度に向け、前部甲板の甲板上に腰を下し、左舷側から釣り竿を出して魚釣りを行っていたとき、左舷船首78度1.0海里のところに自船に向かって来航する新戎丸を初認し、その動静を監視しながら、魚釣りを続けて錨泊中、10時00分わずか前避航の気配のない同船との衝突の危険を感じ、船首部に移動して海に飛び込み、聖栄丸は、船首を280度に向けたまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、新戎丸はプロペラ羽根及び同軸を曲損し、聖栄丸は左舷後部ブルワーク及びキャビンを破損し、衝突の衝撃で転覆して船外機などを濡損したが、のちいずれも修理された。海中に飛び込んだB受審人は、新戎丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、津久見湾において、新戎丸が、帰港のため北上中、見張り不十分で、前路で錨泊中の聖栄丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、津久見湾において、帰港のため北上中、船首方に死角のある機関室囲壁内の操舵位置で操舵に当たる場合、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針するときに前路を一瞥したところ他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の聖栄丸を見落とし、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、新戎丸のプロペラ羽根及び同軸に曲損を、聖栄丸の左舷後部ブルワーク及びキャビンに破損、船外機などに濡損を生じさせるに至った。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図






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