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2000年(平成12年)

平成11年門審第91号
    件名
遊漁船第一川畑丸瀬渡船勇丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、宮田義憲、清水正男
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第一川畑丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:勇丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
川畑丸・・・損傷なし、釣り客1人が海中に転落、溺水したものの、救助
勇丸・・・左舷側前部外板、同舷縁及び操縦席屋根とその支柱を破損

    原因
川畑丸・・・見張り不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
勇丸・・・動静監視不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第一川畑丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、勇丸が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月4日05時35分
鹿児島県隼人港
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第一川畑丸 瀬渡船勇丸
総トン数 3.3トン 2.83トン
全長 11.80メートル 11.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 121キロワット 27キロワット
3 事実の経過
第一川畑丸(以下「川畑丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.40メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、平成10年4月4日05時30分隼人港の船だまりを発し、航行中の動力船の灯火を表示して鹿児島湾内の釣り場に向かった。
A受審人は、操舵室内で見張りと手動操舵にあたり、船だまりと鹿児島湾とをつなぐ水路に入って間もなく、05時31分少し過ぎ辺田小島島頂(124.6メートル)三角点(以下「辺田小島頂」という。)から034度(真方位、以下同じ。)1,550メートルの地点において、針路を205度に定め、機関を微速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、船首をわずかに左右に振りながら、水路に沿って南下した。

05時33分わずか過ぎA受審人は、辺田小島頂から037度1,150メートルの地点で、水路出入口付近に達したとき、正船首わずか左590メートルに勇丸の表示する白、緑、紅3灯を視認できる状況となったが、この時刻に帰港する船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同灯火を見落とし、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近することに気付かず、その左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、水路東岸及びこれに続く小型船船だまりの防波堤との距離を保とうと左方に注意を払って南下を続けた。
05時34分半わずか過ぎA受審人は、小型船船だまりの防波堤外方を通過して港界付近に至ったころ、機関を全速力前進にかけて13.0ノットに増速し、次いで同時35分わずか前左舵5度をとり、目的地に向けて転針を開始した直後、05時35分辺田小島頂から045度700メートルの地点において、川畑丸は、200度に向首し、13.0ノットの速力で、その船首が勇丸の左舷側前部に前方から25度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、日出は06時03分であった。
また、勇丸は、後部甲板上に機関囲壁及びその後方に操縦席を配し、舵柄を設けた木造の瀬渡船で、B受審人が1人で乗り組み、釣り客を瀬渡しする目的で、船首0.65メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日04時50分隼人港の船だまりを発し、航行中の動力船の灯火を表示して鹿児島湾内の弁天島に向かい、05時05分同島南部の西岸に到着して釣り客を降ろし、同時10分帰途に就いた。
B受審人は、操縦席で立って見張りと舵柄の操作にあたり、弁天島の南方及び東方沖合を全速力前進で進行したのち、05時15分少し前辺田小島頂から186度760メートルの地点において、針路を030度に定め、帰港後は何も予定がなかったので、機関を極微速力前進にかけて速力を2.2ノットに減じ、辺田小島東岸とその東方に設置された養殖施設との間を北上し、同時25分少し前同頂から125度315メートルの地点に至り、同施設の北端を替わしたところで、針路を020度に転じ、船首をわずかに左右に振りながら、隼人港の水路出入口に向けて続航した。

05時33分わずか過ぎB受審人は、辺田小島頂から050度590メートルの地点に達したとき、正船首わずか右590メートルに川畑丸の表示する紅灯を初めて視認したが、紅灯が目に入ったことから互いに左舷を対して航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかったので、同灯火がたまたま川畑丸の船首が右方に振れているときに視認した紅灯であって、同船の白灯及び緑灯も同時に視認することができ、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近することに気付かず、その左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、小型船船だまりの防波堤との距離を保とうと右方に注意を払って北上を続けた。
05時35分少し前B受審人は、正船首わずか右至近に川畑丸の船首部を視認し、衝突の危険を感じて右舵一杯をとったものの効なく、勇丸は、045度に向首し、原速力のまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、川畑丸に損傷はなく、勇丸は左舷側前部外板、同舷縁及び操縦席屋根とその支柱を破損したが、のち修理され、川畑丸の釣り客1人が衝突の衝撃で海中に転落し、溺水したものの、同船に救助された。

(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、隼人港港界付近において、南下する川畑丸と北上する勇丸とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある際、川畑丸が、見張り不十分で、勇丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、勇丸が、動静監視不十分で、川畑丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、隼人港港界付近において、釣り場に向けて南下する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、この時刻に帰港する船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近する勇丸に気付かず、その左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、勇丸の左舷側前部外板、同舷縁及び操縦席屋根とその支柱を破損させ、川畑丸の釣り客1人を溺水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、日出前の薄明時、隼人港港界付近において、同港に向けて北上中、正船首わずか右に川畑丸の紅灯を視認した場合、衝突するおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、紅灯が目に入ったことから互いに左舷を対して航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近することに気付かず、その左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、前示のとおり勇丸に損傷を生じさせ、川畑丸の釣り客1人を溺水させるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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