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2000年(平成12年)

平成11年神審第119号
    件名
プレジャーボートチンドウチュウ同乗者死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

黒岩貢、阿部能正、小須田敏
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:チンドウチュウ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
同乗者が、頚椎損傷で死亡

    原因
針路選定不適切

    主文
本件同乗者死亡は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月17日16時20分
滋賀県琵琶湖
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートチンドウチュウ
登録長 2.7メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 77キロワット
3 事実の経過
チンドウチュウは、製造者型式がGR11のマリンジェットと呼称される、最大搭載人員3人のFRP製水上オートバイで、A受審人が1人で乗り組み、友人のBを乗せ、各人ともライフジャケットを着用し、水上レジャーの目的で、船首尾とも0.1メートルの喫水をもって、平成10年8月17日15時30分琵琶湖西岸の滋賀県高島郡安曇川町近江白浜地区を発し、同湖南東方の沖島北岸に向かった。
A受審人は、B同乗者を後部座席に乗せ、自ら操縦して16時00分沖島北岸に到着してしばし休憩し、再び航走を開始しようとしたところ、B同乗者から自らの操縦により沖島を一周したい旨を告げられた。そこでA受審人は、B同乗者が海技免状を受有していないものの、前日から当日午前中にかけて水上オートバイの指導を受けていたことを知っていたので、低速力であれば問題ないものと思い、同人に前部座席で操縦を行わせ、自らはその背後の後部座席で操縦の指揮をとることとした。

ところで、沖島北西岸からその沖合約450メートルにかけて、「えり」と称する小型定置網の漁場があり、当時も、沖島220メートル頂(以下「沖島頂」という。)から290.5度(真方位、以下同じ。)850メートルの、陸岸より15メートル離れた地点を基点とし、同所から100メートル沖合にかけてT字形のえりが設置され、水面上の高さが約2メートルの多数のグラスファイバー製支柱が打ち込んであった。
また、えりの各支柱は、直径15ないし20ミリメートルの化学繊維製支え綱をその上部に巻き付けてこれを張り合わせ、支え綱両端を湖底に沈めた土嚢にくくり付けることによって支えられており、土嚢の目印となる浮標がえりの周囲に数多く設置されていたので、琵琶湖での水上オートバイ運転経験の長いA受審人は、平素、えりの周辺を航走する場合、支え綱を避けるため同浮標から10ないし15メートル外側を通航することにしていた。

16時18分A受審人は、沖島頂から328度320メートルの地点において、自らは後部座席に座り、B同乗者を前部座席に乗せて操縦ハンドルを握らせ、針路を沖島北西岸わずか沖合に向首する272度に定め、同人の右肩越しに見張りをしながら機関を半速力前進にかけ、10.8ノットの対地速力で航行を開始したところ、同時19分沖島頂から301度570メートルの地点に達したとき、300メートルばかり前方の正船首わずか右から右舷船首30度にかけてえりの支柱列を認めた。
A受審人は、自艇の向首する陸岸沿いには支柱が打ち込まれていなかったものの、最南端の支柱と陸岸との距離は15メートルばかりで、そこを航行するといつもよりかなりえりに接近して通航しなければならなかったが、えりの沖合に向けると遠回りすることとなり、低速力なので何とか陸岸と支柱の間を通れるものと思い、直ちにえりの沖合を迂回する安全な針路を選定することなく、土嚢の存在を示す浮標を探しながら同針路のまま続航した。

16時20分わずか前A受審人は、水面上70センチメートルばかりを真横に張られた支え綱を間近に認め、とっさに後部座席から操縦ハンドルに手を伸ばしこれを回避しようとしたが及ばず、16時20分沖島頂から290.5度850メートルの地点において、原針路、原速力のまま、B同乗者とともに支柱の支え綱にはね飛ばされた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、湖面は穏やかであった。
その結果、B同乗者(昭和46年11月23日生)は、A受審人の要請で駆けつけた漁船及び救急車で病院に運ばれたが、頚椎損傷で死亡した。


(原因)
本件同乗者死亡は、水上オートバイに2人で乗り、琵琶湖南東部沖島北岸に沿って西行中、陸岸近くからその沖合にかけてえりの支柱列を認めた際、針路の選定が不適切で、陸岸と支柱列との間に向けて進行し、同乗者が支柱の支え綱にはね飛ばされたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、水上オートバイの後部座席で操船の指揮をとり、無資格の同乗者をその前部座席に乗せて操縦を行わせ、琵琶湖南東部沖島北岸に沿って西行中、陸岸近くからその沖合にかけてえりの支柱列を認めた場合、陸岸と支柱列の間を航行するといつもよりかなりえりに接近して通航しなければならなかったから、速やかにえりの沖合に向く安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、低速力なので何とか陸岸と支柱列の間を通航できるものと思い、速やかにえりの沖合に向く安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、陸岸と支柱列との間に向け進行して支柱の支え綱にはね飛ばされ、同乗者を頚椎損傷により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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