深い深い海のそこに、人間の知らない電話局がありました。
なぜ、海のそこに電話局があるのでしょう?それは、広い広い海のむこうの国の人たちや、海のまん中にうかぶ島の人たちと、お話をするための電話線が、海のそこにしずめられていたからです。電話線は、人間たちがしずめたものでした。
お日さまの光のとどかない暗い海のそこにある電話局は、人間の知らない電話局ですから、はたらいているのはみんな、海にすむいきものたちでした。
局長さんは、チョウチンアンコウのおばあさんです。六十センチもある大きな黒いからだで、頭のうえにりっぱなチョウチンをさげています。このチョウチンがピカッと、暗い海の中で銀色に光ると、どんなにとおいところからでも、よく見えるのでした。
チョウチンアンコウは長いあいだ、この電話局にいたので、海の中のできごとも、海のうえの人間たちのこともよく知っていました。ですから、ここへくれば、いろいろなニュースを聞くことができるのでした。
海のそこの電話局には、なかなかりっぱな電話線をつなぐこうかん台がありました。それはきかいが古くなって、人間が海にすてたものでしたが、クジラがせなかにのせてはこび、デンキクラゲたちが細い触手(しょくしゅ)をつかって、電話線をつなぎなおしたものでした。
人間が海のむこうの国に電話をかけようとしますと、こうかん台に、赤いランプがともります。すると、わかいエビのおじょうさんたちが、すばやくこうかん台のプラグを動かして、電話線をつなぎかえる、というしくみになっていました。
ポーンという大きな音がひびいて、赤いランプがともりました。海のそこでは、どんな小さな音でもはんきょうして、大きな音になるのです。