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俺は彼の両手を握って熱く語りかけた。

「サルベージの経験もなく、大きな船も無いのに、あんたは漁船と漁師と知恵だけで俺の船と俺たちの荷物を救ってくれた。心からの敬意と感謝を捧げるよ。ありがとう」

「いや私こそご先祖のように知恵でご奉公する念願の夢を叶えさせてもらいましたよ」

チェッ、気障なセリフを吐くじゃないか。けど、俺はこの男がますます好きになっていた。世間の事もろくに知らない田舎者のくせに、やらせればドエライ事を器用にこなす日本人が。彼らとの付き合いをオランダ人に独り占めにさせておく手はない。

いつの日か、俺は星条旗を翻して堂々と入港し、日本人と本当の友達になってやるぞ。

 

創作にあたり長崎県立図書館所蔵の「阿蘭陀沈没船引き揚げ図」および徳山市立中央図書館所蔵の「蠻喜和合楽」資料、ならびに片桐一男先生の著作「開かれた鎖国」(講談社刊)等を参考にさせていただきました。また「イライザ・オブ・ニューヨーク号」については米国海事歴史学者ジョン・ミラー氏およびエセックス・ピーボディ海洋博物館々長ピーター・フェチコ氏に貴重なご教示を頂きました。諸先達に深く感謝します。

 

 

 

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