日本財団 図書館


ラスが青い顔をして駆けつけた。奴はさんざん俺の不手際をなじった後、奉行所へ陳謝と救援を依頼するために俺に同道を強要した。

この時になっても、俺は船の浮上を楽観していたほど、日本という国を知らなかった。

 

 

「あいにくとお奉行は十日ほど前に江戸へご出立なされてお留守である」

長崎奉行所を訪れた俺たちを応対したのはイシバシ様とヨコヤマ様だった。傍らには通訳のシオヤとイワセが控えている。儀礼的な挨拶が終わると。ラスは本題を切り出した。

「……という現状です。港の通路を塞ぐあの船を一刻も早く引き揚げることは、我々と皆様の双方に課せられた義務ではございませんか」

通訳の言葉が終わらぬうちにイシバシがびしりと言葉を返した。

「待たらっしゃい!船はその方の持ち物である。その船が引き起こした事態は持ち主の責任。港は当方の持ち物であり、通路を塞がれて迷惑しておるのは、ほかならぬ港の持ち主の方でござる。まず、あの沈船の引き揚げはひとえにその方の責任であることを認められい」

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION