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菊竹 きょうは尾島先生のお話です。尾島先生は、早稲田大学の建築学科の中で、唯一東京問題を長い間続けて研究しています。学会の会長になられてからも、実際に新宿で模型を展示したり、環境から都市問題まで、いろいろ見解を発表しております。そのエッセンスをお話しいただければと思っています。

 

大深度地下ライフラインの建設

 

尾島 1998年に新宿NSビルで、東京をどう考えたらいいかという大規模展をおこないました。結局、ハードの話に尽きるのです。遷都の話もありますが、いずれにいたしましても東京首都圏、中でも都心部に関しては、21世紀のあるべき姿をきちんと提言しておく必要があるということで、ここでは7つを提言しました。

1つは、産業構造の転換に伴って副都心をつくったのですが、都心、副都心というのはやはりこれからも大変大きな中核になっていきます。ところが都心、副都心は本当に安全かというと、例えば、新宿とか池袋は東京湾から大変遠い。ですから一朝事あると、都心、副都心がどういう形で救済されるのかということで、第1は、都心に命綱(ライフライン)をきちんとつけるということです。

都心居住の問題とか都心再生の問題が今、言われておりますが、東京都心の丸の内、日本橋界隈に対して、副都心も含めて、都心にきちんとした形でライフラインをつくる必要があります。都心に何かがあったときに、バックアップする機能、命綱がなければ、第3次産業社会の都心機能は維持されないということです。ライフラインとは、少なくとも臨海部と結んで、大深度地下に命綱をつくるのが、一番安上がりで効果もいい。大深度地下利用法が2000年5月に制定されました。この地下利用は、基本的には交通網整備のためです。小渕内閣のときに都心再生推進懇談会ができました。今は森内閣の都心再生推進懇談会です。都心の大深度地下は、都心と臨海部を結ぶものです。交通ですと、一般の人が入ることになり、消防問題をはじめとして安全性の問題で絶対反対です。しかし、無人のライフラインであるならば大変有効です。大深度の地下利用ができることによって、一気にインフラの整備が進みます。それがどんなに得になるのかを推進懇談会で申し上げました。

例えば、臨海部と都心と副都心の新宿などを結ぶ10kmぐらいのトンネルをつくって、ごみのコンテナ輸送、非常時の緊急輸送、あるいは水の再生、エネルギーの排熱利用、通信、情報幹線といったものを入れていきますと、5年ぐらいで採算が合う計算になります。1兆円ぐらいのお金です。たまたまセコムの飯田さんは、今のPHI推進懇談会で、このテーマがもしセコムに与えられるならば、即やりますと具体的に作業を進めています。

単なる水の再生でどれくらいもうかるとか、エネルギーの再生利用でごみの焼却熱、ごみの輸送でどれくらい利益が出るのかというのは、投資に対してどのくらい還元されるかということです。そういう点だけからすると5〜6年で採算が合います。要するに、省資源、省エネルギーです。それからエネルギー幹線、情報幹線という視点をプラスします。東京都心部のインフラストラクチャーは、毛細血管のように道路下にあります。例えば、森ビルが、容積を2,000%よこせと言っても、そこだけ集中的にインフラをバックアップできません。そこだけに上水を引っ張ると、今度は下水が足りない。そこだけにエネルギー幹線をやろうとすると、周りが困るということで、今の道路下に入っているインフラストラクチャーは、大体平均2階建てぐらいにまんべんなく供給できるような形で入っています。ですから副都心だけアップゾーニングしています。他はダウンゾーニングをして、めり張りのある街づくりをしようとすると、圧倒的にインフラ幹線が不足します。ちょうど東海道線があって、東京、名古屋、京都しか止まらないような新幹線があるから、今何とか動脈になっています。

東京のように大きくなりますと、やはり都心、副都心に関しては、新しい共同溝幹線がないともちません。すべてが鈍行で、地表面の道路下の浅いところでネットワークを組んでいても、とても賄えません。ですから副都心をつくったということは、副都心、都心間の幹線、特に臨海部との幹線をつないでいないと、都市機能は成り立ちません。

 

 

 

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