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現代社会におけるケア

現代は、技術革新とそれによる大量生産によって私たちの生活が急速に豊かになり、日常的な助け合いは必要ないと錯覚するほど便利になりました。私たちのライフスタイルも、無駄な部分を切り捨てることで画一化が進行しています。その反面、生きている実感や、人間的な関わりを味わう機会が乏しくなり、魂が揺さぶられるような経験が少なくなってきたのではないでしょうか。そして、そのことによって精神的な物足りなさや居心地の悪さを感じるようになってきている人も少なくないと思われます。

このように、豊かさを追求し効率性を求めていた時代においては、一人ひとりが「強い人間」であることが前提でした。高齢の人たちや、障害のある人たち、身体を病む人や心に傷を抱える人たちは、社会からつぶされ、また、悩んだり傷ついたりといった、人間的な弱さも、忌みきらわれてきました。

しかし、新しい時代は、「人が人となる」ことが社会的課題になると私たちは考えています。つまり、「人は一人で生きていくことはできない」ことを再認識し、生きていくうえでの苦悩を受けとめ、支える共同体の機能を恢復させ、人と人、人と自然、人と社会の関係を深い次元で結び直していく必要があるのではないでしょうか。

マクロからミクロまでの共同体の崩壊は、人と人とのつながりを育む場所の喪失を意味し、個人の苦悩の孤立化を招いています。とりわけ、苦悩と隣りあわせにある介護という行為もまた、「介護する自分と介護を受ける相手」という関係に分断され、介護を担う人の苦悩が、虐待や自殺といった哀しい事態につながっているケースがあることも事実です。

介護は本来、家族のなかだけ、あるいは施設のなかだけでなされるべきものではなく、地域や社会といった共同体の豊かなつながりのなかで行われ、育まれる行為ではないでしょうか。

 

 

 

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