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次に舟を推進させるには漕具がいる。漕具には棹、櫓、櫂(小櫂、長櫂、練櫂)、オールなどがある。棹はきわめて原始的な推進具で水底を押して舟を進める。櫓は東洋でよく見られ、特に和船にピッタリくる。長い距離を漕ぐ場合に適している。櫂は櫓よりも古くから用いられていた。操作の方法により手だけで水をかく短い櫂の小櫂、オールのように一点を支えて進行方向に背を向けて漕ぐ長い櫂の長櫂(瀬戸内・芸予諸島に見られる櫂伝馬)、舟尾で8の字のように櫂を操作する練櫂がある。櫂は方向転換が容易でスピートが出るが多くの人数を要する。船競漕で用いる漕具は櫓や櫂が中心である。つまり、わが国の伝統的船競漕(近代スポーツであるボートやカヌー種目は除く)ではほとんどこれらの漕具が用いられる。特に小櫂は技術的には容易なこともあり、今日では多用されている。これにひきかえ櫓は現在ほとんど姿を見ることがなくなった。櫓は技術的に難しく、同時に櫓船の減少もあって特定の祭事がおこなわれる地域以外では消滅状況にある。そのため伝統行事を継承するため櫓が櫂に代わったところも多々ある。

わが国の船競漕の特色を概括すると、漕具的にはハーリー系、ペーロン系、櫂伝馬系、櫓船系に分けられる。各地域の特色については後述するが、伝統的なものは祭事との関係を色濃く反映している。特にハーリー系や櫓船系では神事の一環としておこなわれるところもある。中国の龍舟競渡が農耕に関しておこなわれるのに対して、わが国の多くの地域では漁業祭事としておこなわれている。そして今日では競漕の専用舟を使用しているが、かつては漁船しかも新造船を特に好んで用いていた。その理由は古い船より新しい船の方がスピードが出るということもあるが、先述したように新造船の機能を試そうとする人為的な意味もあった。

舟は杉材による木造船が多いが、今日では木造船が建造不可能になり、グラスファイバー船に代わってきているところも多くなってきた。沖縄や長崎は別にして、多くの地域で木造船の需要が減り、それにともなう船大工の減少により新造船の建造が困難になってきている。よって費用・耐久の面からもグラスファイバー船に代えるところも多くなっている。

競漕形態は2隻から7、8隻の船で競漕するところがあるが、多くの場合2隻である。もっと詳しくいえば、和船は2隻、櫂伝馬・ペーロンは数隻、ハーリーは3隻のところが多い。コースも沖から浜へ漕ぎ込む片道コースと往復コースがあるが、一般に和船やハーリーでは片道コース、櫂伝馬やペーロンでは往復コースが多い。

乗員は数人のところから数十人が乗るところまである。周知のように櫓は1丁につき広い空間を必要とするため漕ぎ手の数はさほど多くない。これに比べペーロン・櫂伝馬・ハーリー系は広い空間を必要としないため細い船幅両側に数十人が乗る。以上のことからも明らかなように、長時間の作業には櫓船が、短時間のスピードにはペーロン船が適していることがわかる。

また乗員には漕ぎ手や舵取りの他に拍子とりが乗る。これは競漕船ゆえの乗員である。また櫓船や櫂伝馬ではこの他に女装者が舳先に乗る。

 

 

 

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