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3. 緩衝型船首構造の検討

 

3.1 まえがき

造船業基盤整備事業協会(ASIS)により1991年度〜1998年度に行われた「船舶からの油流出防止のための研究開発」は、大規模実験と詳細有限要素解析を用いることにより、タンカーからの油流出を防止するようなタンカーの構造設計に対する指針を与えた。一方で、衝突の際の油流出を被衝突船側のみで防止するためには被衝突船の船側を一様に強化する必要があり、これには大きなコストが必要になるという問題も明らかになった。これに対し、衝突する側の船首構造まで考慮に入れた設計を行うことにより、被衝突船の船側を強化するよりもはるかに低いコストで油の流出のリスクを低減できるという可能性が示された。

この緩衝型船首構造の調査研究においては、衝突する船舶の船首構造の設計を、設計規則を満足しながら衝突に対して強すぎない構造とする(以後緩衝型船首構造と呼ぶ)ことにより、従来用いられてきた船首構造に比べどの程度の有効性を有するかの調査研究を行い、船首構造の設計の指針を与え、将来の基準化に向けた基礎資料とすることを目的とする。

具体的な衝突事故例、現状の船首形状の実態を検討し、また、現在の船首の構造強度に関する基準、他分野における耐衝突防護関連構造の研究の調査を行い、問題点を明確にした。FEM解析、模型試験、簡易解析式を有機的に連携させることにより、様々な船種、船首構造、衝突条件に対するシリーズ計算を行い、緩衝型船首構造の有効性を検討するとともに、具体的な設計指針を示した。

 

3.2 衝突事故事例と船首形状の実態

2000年末の時点で、100総トン以上の商船は約90,000隻存在する。これらの商船で発生する海難事故のうち約10%が船舶間の衝突事故であるが、その特徴は一般的に「衝突船」が相対的に小型であっても「被衝突船」の船側構造に大規模な破壊が生じる事にある。相対衝突速度が比較的に遅くても、少なくとも船側外板に破口が生じて浸水或いは貨物油の流出に到る場合が多く、結果的に人命・貨物・船舶の損失及び海洋汚染を招じ易い。この理由は、船体構造強度(寸法)が衝突船及び被衝突船の質量・運動エネルギーに比較して小さい事及び相対的に衝突船の船首構造(特に喫水線下に突出したバルバスバウ)強度の方が船側構造強度よりも高い傾向にあり、船首構造が船側構造に深く貫入するからである(図3.2-1から図3.2-4参照)。ただし、バルバスバウの形状・構造寸法/様式及び被衝突船の接触部強度の組合せによっては、バルバスバウにも圧潰及び曲り変形が生じる場合がある。一方で喫水線上の船首上部構造の強度は、相対的に船側構造と同等または低い傾向にあり大規模に圧潰してエネルギーを吸収する(緩衝する)場合が多い(図3.2-5から図3.2-10参照)。喫水線上の船首形状は、概ね係船装置類の配置によって決定され且つ鈍な曲面形状である為に、防撓様式(縦通肋骨或いは横肋骨)に係わらず圧潰強度に大差は生じない。一方、喫水線下のバルバスバウ形状・構造様式は多種多様であり強度のバラツキも大きいので、圧潰強度を実用的に制御する余地があるものと考えられる(図3.2-11から図3.2-14参照)。

 

 

 

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