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4. 古い町並みの残る河岸の町

江戸の周辺部には、昔江戸への舟運で栄えた町が今でもあちこちに残っており、それぞれなかなか風情のある町並みを見せている。ここでは、その中でも代表的なものとして、千葉県佐原市と栃木市の河岸跡を紹介したい。

(1) 佐原の河岸・土蔵群(千葉県佐原市)

北には利根川が流れる佐原市は、町を縦断して利根川につながる小野川を使って、江戸時代には利根川舟運の中継港として繁栄した町である。特に、江戸中期から明治時代にかけては、銚子の魚、東北の米などを利根川から江戸へ船で運ぶ中継基地として栄えた。小野川沿った河岸の商家の蔵には多くの産品が出し入れされ、商人が活発に商いをしていた。また、小野川沿いの佐原旧市街は醸造業も盛んで、醤油、酒などの醸造に使われたり、それらを一時保管した土蔵が今も残っている。川から蔵へ物資を荷揚げした「河岸」も各所に残っている。

特に、JR成田線佐原駅南東に今も残る「佐原河岸」と称された小野川沿いの場所と香取街道沿いの町並みには、古い造りの町家のほか、土蔵・洋風建築など伝統的建造物が数多く残り、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。(写真2参照)

また、佐原といえば、日本全図を作成した伊能忠敬を思い出す人も多いと思うが、その旧宅も小野川沿に残されている。旧家は、後に油屋をしていたという店舗と奥の母屋からなり、どちらも平屋建てで、庭をへだてて、2階建ての土蔵も残っている。母屋の裏手には記念館があり、忠敬が作成した「大日本沿海中図」や「琵琶湖図」、書簡や日記、測量器具などが展示されている。町人からこのような偉大な学者が出たのは、佐原が城下町ではなく、利根川舟運の町として、商人が活躍する町だったことと無関係ではないであろう。比較的自由な空気のせいか、伊能忠敬の他にも久保木竹窓などの、学者や文化人が多数輩出している。

 

(2) 蔵の街・栃木(栃木市)

「蔵の街・栃木」を観光のセールスポイントにするだけあって、栃木市は、さすがに歴史を感じさせる土蔵など蔵の建物が多い。市の資料によると、市街地だけでも450余りの蔵が残ってという。

栃木市は、かつて日光例幣使街道の宿駅・市場町として大いに繁栄した町である。また、渡良瀬川の支流で街の中を流れる巴波川(うずまがわ)の舟運で栄えた町でもある。巴波川の舟運を使った江戸との通商で、財を成した商人が多かったのか、今も川沿いには黒塗りの土蔵が軒をつらねて残されており、当時の回漕問屋街の姿を想い起こさせてくれる。

市や市民自身も、伝統的な建物の価値をよく評価しているのか、歴史的な蔵をうまく活用して、商店や市観光施設等に利用した町づくりをしている。中でも巴波川沿いに120mにわたって続く黒塀と8つの白壁土蔵を持つ「塚田記念館」の建物群は、川の流れとマッチし、江戸時代の回漕問屋そのものとして、町のシンボルになっている(写真3参照)。また、栃木でも有数の回漕問屋だった坂倉家の土蔵を改築した「郷土参考館」や、畠山氏の本陣となっていた「岡田記念館」等も見ものである。

 

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写真2 佐原河岸

 

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写真3 今も残る栃木市の回漕問屋

 

 

 

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