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3-5 軍事技術開発予算の変化

 

軍事技術開発費をみる前に、まず民生研究も含めた米国全体の研究開発費をみてみる。第7表は1960年から97年までの研究開発費の推移を、第8表は1980年から98年までの軍事費の使用内分けを示したものである。第7表によれば米国の総研究開発費の絶対値は1960年から90年までは年率6-15%の伸びを示しているが、1990年以降は2-8%の伸びに抑えられている。また、米国全体の研究費に占める連邦予算研究開発費の比率も1960年には65%であったものが97年には30%に激減している。さらに、1960年には米国全体の研究開発費の53%が軍事技術の開発に使用されたが、その比率は年々減り続け1997年には17%が軍事技術開発、4%が宇宙開発、その他の79%は民生技術の開発に使用されている。

 

第8表では全体の軍事費の絶対額は1980年から90年までは年々増加しているが、その増加率は年毎に落ちている。また、1990年以降は減少して1998年の軍事費は1985年当時の水準の2640億ドルとなっている。全体の軍事費に占める軍事技術開発費は、1980年の130億ドル(9.8%)から1998年の360億ドル(13.6%)とそのシェアは逆に多くなっている。

 

第9表は2000年度予算教書の中の連邦政府技術開発予算の打分けを、配分される省庁あるいは機関ごとに示したものである。本表によれば1993年の連邦研究開発費は725億ドル、その58%の422億ドルが軍事技術の研究開発に使用された(Funding by R&D Share)。これらの数値は、2000年度の予算では連邦研究開発費総額782億ドル、軍事技術の研究開発に使用される総額は49%の385億ドルと初めて民生研究費が軍事技術研究費を上回ることとなった。第7表及び第8表は、実際に使用された研究費に基づく統計であり、第9表は予算であるので個々の数値は若干異なるが年次的傾向は同じである。

 

第9表の軍事予算のテーマ別分類(Funding by Defense Theme)では、2000年度に12億ドルが基礎研究に、46億ドルが応用研究に割り当てられているが、軍事技術開発に用いられている総額385億ドルの予算の大部分は試作やテストを含む開発費320億ドルである。385億ドルという数字は2000年度にDODに配分される予算350億ドルよりも多いが、これは他の省庁に割り当てられた予算のうち35億ドルが軍事技術開発に振り向けられていることを示している。

 

2000年度予算教書は、DODに振り向けられた予算の一部が民間産業の技術ノウハウと経済的なメリットを軍需産業に取り込む目的の軍民両用プログラムの推進と産業運営金融イニシアティブに使われると述べている。つまり、クリントン政権の初期には軍事技術を民間産業に転化する手段として使われた軍民両用プログラムの目的が、若干変わってきているといえる。NISTが管理するATPはクリントン政権発足以来ずっと続いているが、2000年度では2億3千9百万ドルの予算が計上されている。ATPに似たプログラムとして、DODは先進概念技術デモンストレーション・プログラム(Advanced Concept Technology Demonstration: ACTD)を実施している。

 

現在44のACTDが実施され、13プロジェクトが完成している。完成した技術例としては、伝染性A型肝炎ウィルスに有効なワクチンが開発されて食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の認可を受け、軍用及び民間用に市販されている例がある。また、DODは遺伝子操作でマラリヤに効くワクチンの開発に成功している。その他ACTDの開発例としては、防弾用軽量新素材の開発等がある。クリントン政権は21世紀研究開発基金(21 Century Research Fund)の名の下に民生技術の重点分野に集中的に予算を振り向け、その額は2000年度で380億ドルに及び連邦研究開発予算780億ドルの49%に達する。対象分野は、コンピューターを含む情報技術、医薬生命科学、宇宙開発等でその成果が期待されている。

 

 

 

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