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海運会社の格付けは、事業面と財政面の両方に基づいている。利息及び元本の期限通りの返済能力が、主要要素である。発行人が経営する部門も決断の対象となるが、専門化及び多角化については、議論の余地がある。また、長期用船が魅力的か、船舶資産の売買の可能性が魅力的かについても意見の分かれるところである。

格付け機関は、市況や財政状態の全般的な、あるいは特定な変化に応じて、債券を再格付けする。この様な再格付けは、市況の変化を先取りすることもあるし、これに従う場合もある。銀行債務と違って、債券は投資家により売買されることができる。この流動性が、投資家に対して損失や投資ポートフォリオ構成への適当なヘッジを提供することができるのである。債券の取引価格は、市況や発行人の財政状態が悪化すれば下がる。これによって、債券の利回りが増えることになるが、発行人によって支払われる額面価格には影響がない。

発行人の視点からは、ハイ・イールド債ファイナンスの利用は、銀行債務の興味深い代替措置となりうる。最大の魅力は、一般的には10年後の一括返済という返済構造である。これに対し、海運銀行債務は、定額均等償還、または、少なくとも、通常7〜10年間の毎年返済+25〜50%の最終回多額返済が求められる。これは、通常の10〜15年の償還期間と等価である。ハイ・イールド債発行の魅力は、元本の返済がないため未払い金準備率が低く、借入人のキャッシュ・フロー保留力を向上させることである。反対に、そうやって節約されたキャッシュ・フローは、より高い債務コストを支払うのに必要な利益を生み出すために再投資する必要がある。同様に、借り入れた資本も、元利償還ではなく投資に向ける必要がある。結果としては、債券利息支払い不履行を防ぐためのキャッシュ・クッションの低下を招く可能性もある。

債券発行は、通常、総額1億ドル以上で行われる。これは、債券発行時の高額の手数料に見合うものとするとともに、第2次市場での取引に十分な量を出回らせるためである。これらの高額な手数料は、債券発行を引き受け、投資家への配当を提供する投資銀行に支払われる。高いコストは、関連の証券法に適合させるとともに、適切で十分な注意が払われていることを証明するのに必要な詳細な法律上の業務の実施にかかわっている。債券発行は、通常、手形や債券の額面価格に対して割り引いて売られる。割引の度合いは、格付けによるか、当該手形や債券のタイプに関する市場需要による。高額な手数料や費用とあいまって、高い発行割引や利回りは、借入人にとっての最終的なコストを異常に高くする結果をもたらすこともあり得る。

 

5.10 公募債及び手形ファイナンス-EMEの発行者

ハイ・イールド債市場における海運関係の債券発行者には、2つのタイプがある。1つは、定額で満期まで限られた返済しかない長期の債務を求めるものである。この種の発行者は、債券ファイナンスを銀行債務にかわるものと考えている。2番目のタイプは、増資をしたいが所要の増資ができず、あるいは必要な資本価値を生み出すことができない(または、その価格を支払う能力を示すことができない)者である。上記の双方にあてはまる者もあろう。

表5.Fは海運会社が発行したハイ・イールド債をリストにしたものである。EMEが基本的に支配している会社によって発行されたものは、総計31億ドルであり、一方、その他の地域による発行は総計21億ドルである。

 

 

 

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