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しかしながら、貸出人は、借入人の活動を判断し、理解するために、十分な海運知識に通じていなければならない。極端な場合には、貸出人は抵当権を行使し、経営を外部委託し、船舶を運航することもできるのである。この様な状況の時には、貸出人は相当な赤字を出しても、当該船舶を早急に売却することを好む場合が多い。より良い解決策としては、忍耐と無利子での追加資金を必要とはするが、市況が改善するまで貸出人が借入人とともに船舶を維持することであろう。しかしながら、貸出人がこうした対策で安心していられるためには、在職の経営陣に対して絶対の信頼を有していなければならない。その他の経営にとって重要な点は、良好な実績、正直さ、健全さ、そして主要株主及び経営陣のプロ意識等である。

 

5.3.4 担保-船舶抵当

優先弁済債務貸出人が取る第一の抵当は、通常、融資した船舶に対する第一順位抵当権(FPM)である。普通、船舶のその時点での市場価値の一定割合で、ローンが組まれる。この率は、船舶の種類、経営している海運業の分野及び少なくとも認識出来る範囲内での短周期の業績に関連する事項によって変化する。ローンの期間中には、「船体メンテナンス条項」という契約条項により、船体価値がローン残高の一定率(通例120〜l75%)以下に下がった時に、貸出人が是正措置をとれるようにしている。

1970年代及び1980年代には、新造船建造の当初の融資比率は80%と高いものであった。すなわち、初期の船体メンテナンスの率は125%にすぎなかった。乗り出しのための自己調達資金は20%プラス運転資金であった。広い意味でいえば、この様に高い融資比率であったのは、当時の高いインフレによって、中古の船舶価値が連続的に増加を続け、債務の絶対返済額が実質的に減少したためである。船体メンテナンスレベルはローン残高の通常120%で、継続債務貸し出し残高の83%に匹敵した。1979年及び1985年の海運大不況の後に、キャッシュ・フローの不足及び船体メンテナンス条項の不履行によって、多くの海運ローンが債務不履行へと陥った。1980年半ばの不況後には、貸出人は初期の融資比率を減少させ、特に中古の船舶に対しては50〜60%までに減少させ、船体メンテナンスレベルを最初は140〜175%までに増大させた(継続負債貸し出しレベルの70〜57%に匹敵)。しかし1990年初期に入り、市況が回復し、より多くの商業銀行が船舶融資に対して魅力を取り戻すに従い、融資比率も再び上昇し、60〜70%の貸し出しで、船体メンテナンス条項は120〜l50%になった。しかしながら、1990年半ば頃には、船舶価値が下降し、特にドライバルク分野ではひどく、貸出人の中には、借入人による船体メンテナンス不履行にさらされるものも出てきた。1990年後半に入り、ウェットバルク分野が運賃の下降圧力に見舞われたり、新造船コストの低下によって、ウェットバルク分野の船体メンテナンス条項も、債務不履行になる憂き目を貸出人がおうことになったのである。

いかなる船舶に対しても融資比率が単純な形式である場合は希で、実質支配会社に影響を与える総合的なレバレッジ、流動性、契約なども同様に重要である。

「商品取引」型のバルク船舶の売買では、活発な流動的市場が存在しており、又、それより幾分劣りはするが、専門分野の船舶市場もそうである。多くのプロの売買ブローカーが、ロンドンやオスロを中心に、その他ハンブルク、ニューヨーク、シンガポール/香港をベースに市場を支えている。一般にブローカーの世界では、市場分析をしようとはせず、用いられる価値判断は「一番最近の売買」がベースとなることがほとんどである。

 

 

 

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