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しかしながら、海洋波との干渉など必ずしもCFDの元となる個々の影響要因が実験水槽やテストベッドでの性能評価と一致せず、実海域での性能が十分予測できるとは言えない面がある。そのため、波浪を含めた実際の航行条件を想定して評価することが肝要であり、CFDの結果や水槽実験の試験データと比較対照すべき実海域における波浪の状況とその際の船体回りの波や乱流発生状況などを収集・解析(モニタリング)手法の開発等も同時に進められている。また、喫水の違いによる造波及び粘性抵抗の違いも大きいため、バラスト、満載の両航海時に推進性能の差が生じにくい船体の開発や、運航速度・海況の影響を受けにくい船体の開発が望まれている。

新造船の場合は船首バルブや船尾付加物の設置は、イニシャルコストとしてほとんど影響しないため適用に障害はない。ただし、レトロフィットは船尾ダックフィンの設置など一部を除いて困難である。寸法比や船型による改善は従来から行われてきており、今後の輸送エネルギー効率の改善幅は最大でも数%程度と考えられる。

 

(2) 船底防汚塗料などによる表面粗度の平滑化

一般に船舶の水面下の外板には防錆力に優れ耐水性の高い船底塗料が塗布されており、さらにその上にフジツボ、イガイ類、藻類、スライムなどの生物の付着を防止する船底防汚塗料が塗られている。近年までトリブチルスズ基をアクリル樹脂に結合させたトリブチルメタクリレートポリマーと亜酸化銅の組み合わせ塗料(以下「TBT塗料」という)が使用されていたが、日本においては1990年前半からTBT塗料の使用が実質的に禁止された。また、IMOにおいては、2003年1月1日以降のTBT塗料の新規塗布を禁止すべく、国際条約化に向けての審議が進められている。

船底塗料としてのTBT塗料は、付着生物の防汚効果もさることながら、自己研磨によって船底表面の微小凹凸の変化が少なくなり摩擦抵抗の経年劣化が少ない、という省エネルギー塗料としての側面があった。また、その性能寿命が長いので必要入渠間隔が長くでき、年間の実質航海日数が増加するため、全体としての輸送エネルギー効率の改善に繋がっていた。

イギリス造船研究協会(BMT、1980)によれば、船体の平均粗度が45ミクロン荒くなると、摩擦抵抗の増加のために25万DWTタンカーでは同出力、同バラスト状態下で0.2kntの速力低下につながるというデータもある。このように1990年代まで省エネルギーに大きな貢献をしていたTBT塗料は海洋生物の生殖機能への影響等から使用禁止に追い込まれ、新たな省エネルギー塗料の開発が進められている。

TBT代替塗料は、トリアルキルシリレート系や金属エステルなどのアクリル系ポリマーを用いた加水分解型自己研磨塗料を中心に開発が進められている。現在、皮膜寿命は入渠間隔をカバーしうる30〜36ヶ月程度まで持続するようになっており、塗料価格ではTBT塗料に比較して1.2〜2倍程度まで生産コストの低減が進んでいる。

MEPCの決定によりコスト面では世界中でイコールコンディションになったとも言えるが、入渠回数の増加や燃料消費量の増加を勘案すると、ランニングコストを含めた20年間の総コストはおよそ0.92%増加するという試算もある19(造研、平成10年)。一方、省エネ性能については、短期的にはTBT塗料並みは期待出来ないと考えられている。

 

19 日本造船研究協会(1998)、第76基準研究部会 海洋汚染防止に関する調査研究(船底塗料関係)

 

 

 

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