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これに続いてデビット・テイラー中央研究所で、水力学者が行った電子計算機による船体沈下量の分析では、安全委員会が以前に行った推定と近いものが出た。BMTフリュード・メカニックス株式会社が行った模型船実験から得たキューナード社の見解は、“QE2に実際に生じた損傷と全く違った。”結果であったので、“この実験は真実究明に、ほとんど価値がない。”ということであった。安全委員会は、独自の分析手法を用いて、一定の船体沈下量数値を得ていたため、その結論は信頼して良いものであると考えていた。

注40 水深決定のために用いられる装置、手続、計測器及びマサチューセッツ州カッティハンク島付近のヴィンヤード海峡における水深図作成。マサチューセッツ州カトウメット、アメリカン・アンダーウオーター・サーチ・アンド・サーベイ株式会社。1993年3月刊。

 

本件海難における船体沈下現象の役割…安全委員会は、QE2の船体損傷が重大なものとなったのは、ほぼ25ノットで航走中に生じたと十分に考えられ大きな船体沈下によるものと確信する。NOAAとキューナード社/AUSSの調査で、衝突した岩石の中では、RR IIが最も激しく傷んでいた点で一致している。そこで、QE2船体の最大の損傷は、RR IIとの衝突で生じたと考えるのが極めて自然である。NOAAが発表したRR IIの深度を基にすると、QE2は、船体沈下がなければRR IIに衝突しなかった。AUSSが発表したRR IIの深度を基にすると、QE2は、この岩石に衝突することになるが、それでも、もし船体沈下がなければ、損傷はず一と軽度で済んでいたであろう。これに加えて、もし船体沈下が発生していなかったなら、NOAAあるいはAUSSの報告による水深が妥当であっても、QE2とRR Iとの衝突は、全く、起こらずに済んでいたであろう。

AUSSが発表した、衝突した岩石2、3、4それと6それぞれの深度を基にすると、QE2は、たとえ船体沈下がなくても、依然、これらの岩石と衝突した可能性がある。しかし、これらの岩石には、RR IIに見られる程の激しい衝撃の痕跡はない。それだから、これらの岩石が、船体に与えた損傷は、多分、それほど重大でなかったと考えられ。一方、1993年4月に行ったNOAAの調査による、衝突した岩石2、3、4それと6それぞれの水深を基にして、船体沈下が全くなかっと仮定すると、本件は、発生しなかったことになる。しかし、本件では、実際に船体沈下が、発生したことが明らかであるし、安全委員会は、船体沈下の増大が、乗揚による損傷を深刻なものとした直接の原因と確信する。

船体沈下は、特に高速力航行にあっては、明らかに、浅海水域での乗揚と船体損傷との危険性を増大させるものである。

 

 

 

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