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このように日野の伝統的住居が、通りに面した接客空間や、板塀に桟敷窓を設け、前栽に桟敷を設けて祭りを見物するなど、その空間構成をうまく活用し、祭礼空間に変化することが明らかになった。逆に本来街路に対して閉鎖するための要素である塀を街路に対し開放するための仕掛けを設け、さらに通りに面して接客空間を設けるなど年に一度の祭礼が町家の形態に影響を与えているともいえる。そして日野では祭礼時に桟敷窓の開放、しつらえといった独特な空間演出が行われていることが確認できた。

 

第四節 日野のまちなみの将来と日野祭

 

今回の調査では、日野において伝統的な空間構成が残る一方で、空き家や駐車場のような空地が増加傾向にあることが明らかになった。また祭礼時のしつらえである桟敷窓の開放や桟敷の組立などは、高齢の居住者にとってはかなりの重労働となる、このような理由で、祭礼時にしつらえを行うところが減少しているのが現状である。また日野における桟敷窓がはっきりとした呼称も存在しないということにも象徴されるように、観光客はもちろんのこと、居住者にとっても桟敷窓の地域性に対する認識は低いといえる。新築で桟敷窓を設けた例はあるものの、日野における桟敷窓の将来はそう明るいとはいえない状況である。

しかし桟敷窓だけでなく、高塀の連続するまちなみや町家が日野独自の景観を構成する重要な要素となっていることは明らかである。特に町家に関しては、台所や土間部分などの改造はあるものの全体的に伝統的な形態を良く残しているといえる。またそこに住む居住者も伝統的な住居の空間構成を利用して生活し、祭礼時には最大限に利用しているといえる。祭礼時の利用が、日野において伝統的な住居の形態を残しているという見方もできるのではないだろうか。実際住居を新築する際にも、祭礼時の空間利用を考慮に入れていることもヒアリングにより明らかになった。こういった年に一度の祭礼が、日野において大きな意味を持つことが日野の町家やまちなみの継承、保存といった点に大きく影響しているといえる。このように個々の町家が今のところ良く残っており、桟敷窓という大変特徴的な景観要素をもつ日野の町家やまちなみの将来を祭礼時の空間利用をも考慮に入れて考えていくべきであろう。

 

 

 

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