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3) サンゴ群集の撹乱、特にサンゴやサンゴ礁の白化現象に関連して

1998年にサンゴ礁海域で広範囲に見られた造礁サンゴとサンゴ礁の白化現象の結果が、サンゴ群集にどのような影響を及ぼしたかを知るために野外調査を行った。西表島の網取湾に設定した調査区を活用して、白化現象前後の群集の様子が検討できるような調査を行うことが出来た。結果の分析にはさらに多くの時間を要するものの、全般的にミドリイシ類が大量に死亡して大きな影響を受けた反面、キクメイシ類やハマサンゴ類はほとんど影響を受けておらず、白化を引き起こした要因(高海水温)に対する感受性に種による差異が見られた。我が国のサンゴ礁の多くの場所で、ミドリイシ類が種数・生物量ともに大きな割合を占めることを考えれば、サンゴ群集の受けた影響はきわめて大きかったと言える。

なお、我が国のサンゴ礁海域における白化現象については、日本サンゴ礁学会が、その学会誌Galaxeaの創刊号に白化の特集を組んだので、多くの情報が活用できる状況になった。それらの報告に加えて、今後あいついで多くの報告が出されることが期待されるため、さらに包括的な検討が出来るようになると考えられる。棲息場所形成に重要な役割を果たしている造礁サンゴ類が死亡すれば、それに伴って生物群集が変化することは明らかで、その経過は棲み込み連鎖からある程度予測することが可能である。その予測の検証には時間を要するが、白化現象を自然の力によるサンゴ礁の撹乱と位置づけて、野外調査を継続する必要があり、網取湾に設定した永久観察区の今後の追跡調査の継続が有効であると考えており、サンゴ礁魚類群集の調査を今後も継続することを考えている。

 

サンゴ礁生物群集と種多様性の効果的保全のためには、棲息場所の水質や底質などの非生物的環境の保全も当然ながら、造礁サンゴなど生息場所形成に重要な役割を果たす、いわゆる「骨格生物」が良好な状態で棲息できるようにすることが最も重要である。それが達成されれば、他の動物がそこに棲み込むようになる。また、骨格生物の個体群の成立と維持を計るためには、必要に応じた人為的な個体群の復元も有効と考えられ、群体破片の移植を含めた多面的な取り組みの必要性を検討し、それに関連した作業も計画したが、台風によって移植群体が破壊されることがあって、十分な継続調査は出来なかった。群体破片の移植によって人為的に創り出されたサンゴ群集の発達に伴い、魚類群集がどのように変化するかという時間を要する野外実験に再度挑戦したいと考えている。

 

上記の1)-3)については、未発表の成果の一部を含む資料を添付する。

 

4) サンゴやサンゴ礁に関する「Q&A」については、主に阿嘉島研究所のホームページに寄せられた質問などを参考に、サンゴの理解にとって役立つと思われる事項を加え、それらの中から幾つかを取り上げて纏めた。

以上

 

 

 

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