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これまでリボザイムは自分自身の切断、連結反応を触媒することが明らかにされてきたが、他の反応に対しても触媒になることがわかってきた。たとえば、リボザイムは重合能力ももっている。リボザイムは重合反応も触媒する。この反応はポリメラーゼ反応といわれているが、しかし本質的には分解と合成が相補的に同時におこる不均化反応であり、鎖の伸長はあまり期待できない。

 

原始的なRNA複製触媒のモデル

この地球上に最初に出現したRNAワールドにおいては、最初の「生きている」分子は、他のRNAを鋳型に用いて複製できるRNA複製触媒であったであろう。RNAワールドが進化し、おのおのの原始生命システムは、異なった触媒、あるいは構造的な役割をもつRNAの集団から構成された。これらのシステムの複製はすべてRNA複製触媒に依存していた。

テラヒメナのrRNAの自己スプライシングするイントロンは、RNA複製触媒の分子化石かもしれない。最近、デューク大学のビーンらはテトラヒメナのリボザイムは、プライマーと呼ばれる重合反応の開始に必要なヌクレオチドとしてシチジル酸の5量体、基質としてグアニル酸3'、5'-ヌクレオチドを用いると、RNAの重合反応を効率よく触媒することを見出した。プライマーとしてシチジル酸の5量体を用いると、シチジンやウリジンがプライマーに付加し、10〜11個の鎖長のオリゴヌクレオチドが生成する。

これらの反応の結果から、テトラヒメナのリボザイムは複製触媒様の性質をもっていることがわかる。すなわち、まず第一に重合反応の開始にプライマーを必要とすること。第二に、既存の複製触媒と同じように、鎖長延長はモノヌクレオチド単位の連続的な付加で起こり、5'から3'方向に伸びる。第三に、このリボザイムは内部に、プライマーや基質が結合できる部位をもっていることである。しかしながら、この重合反応は鋳型の影響は受けるが、DNAやRNAポリメラーゼにみられるような鋳型依存性がなかったり、鎖長延長の限界などの問題点もある。

真のRNA複製触媒であるためには、鋳型部分は複製触媒とは別で、かつ重合活性は鋳型依存性があること、そして任意の鋳型配列に相補的な配列のヌクレオチドを合成できることなどが要求される。最近そのような考えに沿って、アメリカのマサチュセッツ総合病院のショスタックらによってリボザイムを改造する試みがなされた。すなわち、彼らはバクテリオファージT4の自己スプライシングするイントロンを少し改造し、180ヌクレオチドからなるリボザイムをつくった。これに基質を加えると、ヌクレオチド間の連結反応が起こる。このリボザイムは三つのフラグメント、A(59ヌクレオチド)、B(75ヌクレオチド)、C(43ヌクレオチド)に分解してまぜても、ヌクレオチドを連結する能力はもっていた。この結果は従来のリボザイムから鋳型部分を切り離し別々に加えても、元と同じような形に集合し、触媒活性を発現することができることを意味している。100個以下のヌクレオチドでも集合すれば触媒活性をもつことができるということは、RNA複製触媒に200個以上つながったヌクレオチドが必ずしも必要でないことを示唆している。彼らは、この集合して連結能力をもつリボザイムが原始的な複製触媒のよいモデルになるのではないかと考えている。

これまで知られているリボザイムは、RNAのリン酸ジエステル結合の切断や連結にかぎられている。RNAが「生きている」分子であるためには、自己複製することのほかに、電子や水素原子やアシル基などの転移反応を触媒する、いわゆる物質代謝の能力も必要である。ごく最近、私たちは代謝能力をもつリボザイムをさがす試みをした。その結果、酵母の一種のトルラ酵母から酸化還元反応を触媒する新しいリボザイムを発見した。

 

 

 

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