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このような物質は、小惑星帯では、初めて発見された物であり、太陽系の最も始原的物質が、部分的に溶融する事で、地球的な安山岩が出来ているということは、これまでの常識では考えられないことであった。今年は、新しく入手したカンポ・デル・シエロおよびモン・デユ鉄隕石について、珪酸塩メルトと鉄の分離機構を解明している。

 

4. 始原的物質である小惑星に塩水があった最初の発見

コンドライト隕石は太陽系の始原的物質であるといわれているが、その中に岩塩が見つかった。最初の発見はドライな気候のテキサスに落下した隕石をすぐ拾って、水を使わないで研究した結果、その中に塩化ナトリウム、塩化カリウムの結晶(岩塩)が発見された。その中には塩水がとじこめられていた。その後この種の隕石が見つかり、その組織を研究したところ、その母天体のどこかに塩湖の小さいのがあり、それが干上がった地層に隕石が衝突し、かきまわされ、固体化し、その破片が地球に落下してきたものの中にとじこめられたというストーリーが出来あがった(ゾレンスキー…武田弘 論文/付属資料(関連論文))。太陽系の非常に初期(200万年以内)に出来たもので、当時生きていたヨード129同位体が崩壊してできたキセノン129が残っていることで確認された。

これに関連した話題は、サイエンス6月12日号に公表された「太陽系の古い岩塩」という論文である。始原的な隕石の中から岩塩とカリ岩塩の粒子が発見されたことは、40億年以上前に、水分を含んだ塩水が乾燥して、蒸発残留物を形成したことを示唆している。Whitbyたちは(Science, 12 Jun, p.1819、Ottによる展望)、Zag Hコンドライト隕石の岩塩結晶とマトリックス物質のキセノン、ヨードおよびアルゴン同位体濃度を高精度の質量分析計を用いて測定した。キセノンはヨード-129が崩壊して出来たもので、太陽風や惑星間大気汚染などに関連する成分の無い、同位体的に純粋なキセノン-129だった。このように、Zag隕石から発見された岩塩は、おそらく太陽系が形成された最初の200万年間で形成され、非常に短期間で、且つ非常に早い時期に水分がなくなり蒸発残留物が形成されたことを示している。

 

5. 太陽系の物質進化と言う見方での、地球の水の意義について

このような大きなストーリーの中で、水を地球にもたらした始原的隕石はどんなものか、どのようにしてできたかを示すCD-ROMを作成中。その中で、太陽系の他の天体に比べ、地球の物質のうちでユニークなのは、地球に海があり、今も火山活動が続いていることが、重要であるというストーリーを展開している。本研究で調査したオルゲイユ隕石の原石に関する映像(付属資料「オルゲイユ隕石」)も有効に使われている。

1864年にフランス南部に落下したオルゲイユ隕石の我々の調査に基づく情報が有効に生かされたものとして、次のTV番組が作成された。NHK地学関係解説委員高柳雄一氏らにより作られた「小さな星の大きな秘密」というBS放送で放映された3時間にわたる番組である(付属資料「2000/8/28『小さな星の大きな秘密』(NHK・BS 1)」)。オルゲイユ隕石落下地点での取材で、我々の調査ルートに沿い紹介し、落下地点のモニュメント、博物館で展示されているもっとも大きな実物隕石の撮影など、もし、この水惑星プロジェクトの調査がなかったら、実現されなかった映像の取材が行われた。

 

 

 

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