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A 地球外物質より探る

武田弘 (千葉工業大学付属研究所教授)

 

1999年度研究報告書

「地球の海の水は何処から来たのか?」すなわち、地球の海をつくった水は何によってもたらされたのかを考える問題は、地球をつくった物質はどこから来、どんなものであったかにかかわってくる。これを説くには、地球の生い立ちまでさかのぼらねばならない。しかし、この研究テーマでは、その材料物質に話をしぼる。地球を作った物質はどんなものであったか知るため、太陽系全体をつくった物質が何かを知る必要がある。本研究では太陽系をつくった物質の平均化学組成を出す上でも重要な隕石である炭素質コンドライトの二、三の隕石を取り上げた。この隕石種は地球に落下してきた隕石では、もっとも水を多く含むものである。フランスのオルゲィユ(Orgueil)に落下したものは、そのうちでも、もっとも大きな隕石で、よく研究されている。本研究ではこの隕石について主に報告する。

詳細な学術的研究としては、海の水の中に塩を作るもとの物質であるナトリウムや塩素が多く含まれている隕石の発見を報告する。また最近、木星のガリレオ衛星の一つ、エウロパの表層に、地球以外に海があることがわかったこと、昔海があったかもわからないと思われている火星表面の新しい地形の発見についても述べる。

地球に水をもたらしたものは、太陽系初期に地球に衝突してきた微惑星といわれる小天体であったといわれているが、他天体の物質が地球にやってきているということを理解してもらうには、人類がそのような考えをどのような条件で受け入れていったかを話さなければならない。この事についてはQ&A1に詳しくのべた。現在でも地球に隕石が落下してくるのを目撃した人達は極めて少ない。地球初期にはもっとたくさんの微惑星が地球にやってきていたわけだが、このような落下の現象をよりよく理解するため、具体的な隕石落下の資料を上記オルゲィユ隕石について収集した。水惑星に関係した隕石種のうち、代表的なものとして扱われている隕石が落下して来た時の様子を再現するため、古い時代の文献をイタリアおよびフランスより集め、落下当時の様子と、その隕石の全体像を収集した。

地球に衝突してきた微惑星といわれる小天体の最新情報を得る取材研究も行った。1999年7月26日より30日まで米合衆国コーネル大学で開催された「小惑星・コメット・流星(ACM)会議」は、ここ3年間に集積された小惑星とコメットについての最新の研究と計画実行中のこれら小天体探査の実施状況が第一線の研究者より直接聞けるまたとない機会であった。この会議で上記研究発表(小惑星帯における安山岩の発見)を行うとともに、取材、研究連絡等を行い、小惑星・コメットについて最新の情報を本報告書に盛り込むことが出来た。このACM会議に出席するととともに、フランスに落下した太陽系始原物質の代表で、最も水を多く含むオルゲィユ隕石の画像取得と落下にまつわる調査を兼ねて行った。今までこの隕石の原石についての情報はよく知られていなかったが、フランス国立自然史博物館の好意で、所蔵の大型資料すべての画像を取得することができたと同時に、落下地点のオルゲィユ村近くのモントーバン自然史博物館に、最も大きく、落下状態を良く保持している試料原石の所在を確認し、画像を取得した。これらの隕石はその後の研究や他隕石との交換のため小さく割られているので、このような写真は(付属資料「フランス・オルゲイユに落下した隕石」)、このプロジェクトにより、はじめて集められたものである。

 

 

 

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