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Iijima(1970)およびIijima et al. (1973)は、クラチェ省がカンボジア国内でも最も高度にメコン住血吸虫症が流行している地域であることを報告している。これまでのわれわれの調査でも、クラチェ省、特にKbal Chuorが位置する同省北部地域が、流行の中心地であることを確認している。メコン川沿岸の各地域における抗体検査の陽性率は、メコン住血吸虫の中間宿主貝の生息状況と密接な関わりがあることは、これまでに報告してきた通りである。すなわち、Kbal Chuor周辺では、川底が中間宿主貝の生息に適した岩盤になっており、多数の中間宿主貝を容易に見つけることができるのに対して、Kanh Chour付近では川底のほとんどが砂で覆われており、中間宿主貝の生息は認められていない。このように、メコン住血吸虫症の流行には中間宿主貝、の生息状況が深く関わっているが、その実態は充分に把握されているとはいえない。今後の調査における重要な課題のひとつである。

カンボジア国内におけるメコン住血吸虫症の流行はメコン川の上流ほど高度であり、もっとも下流にあたるカンポンチャム省では本症の流行はほとんどみられないことが、次第にあきらかになってきた(図2)。そこでわれわれは、血清疫学調査によってカンボジア国内におけるメコン住血吸虫症流行地域の南限を決定することを、調査目標のひとつに定めている。前年度までに調査した地点の中で、最下流域に位置するカンポンチャム省のThmal Kolでは、全90検体中1例の抗体陽性例が検出されたため、今回はThmal Kolからさらに数km下流に位置するTa Meangを調査地点に選んだ。検査の結果、全100検体中8例が陽性と判定され、メコン住血吸虫症流行地域の南限を決定するには至らず、メコン住血吸虫症流行地域の南限の決定は、来年以降の課題として残された。

 

2) 糞便検査

本年度の調査では、新たに糞便検査を実施して血清疫学調査結果との比較を試みた。糞便検体は、採血をおこなった各地点の小学校児童に提供を依頼した。各地点で回収された糞便検体数を表2に示す。集まった検体は、各省のPublic Health Officeの検査室においてホルマリン・ディタージェント法により処理した。最終的に得られた沈渣を獨協医科大学・熱帯病寄生虫学教室に持ち帰り、同教室において、検体中に含まれるメコン住血吸虫をはじめとする各種寄生虫の虫卵を顕微鏡下で検索した。

糞便検査の結果を表2に示す。1]メコン住血吸虫:今回の調査で得られた糞便検体全249例のうち、メコン住血吸虫の虫卵が検出されたのは、わずかにKbal Chuor(クラチェ省〉の1例のみであった。この糞便検体1g中に含まれる虫卵数は、100個と算出された。Kbal Chuorは、血清疫学調査において陽性率がきわめて高かった(97.1%)地点であるが、虫卵陽性検体は1例のみと、予想以上に少なかった。この結果は、メコン住血吸虫症患者の糞便中に排出される虫卵数が少なく、糞便検査と比較して血清検査の方が感度が高いことを示すとともに、調査地点内のメコン住血吸虫症流行地で毎年おこなわれている集団駆虫活動が影響していると考えられる。

 

 

 

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