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本症の流行域の南限を探索する目的で、Kampong Cham市の南5kmに位置するTa Meang小学校の低学年児童から採血した。抗体価は低いが陽性率は8.0%を示し、南限の決定は来年度以降に持ち越された。

本年度は、我が国における研究機関では初めて、少量ではあるがメコン住血吸虫の虫卵抗原を作成することができた。メコン住血吸虫症患者ならびに感染マウスの血清に対する宿主免疫応答を、日本住血吸虫卵抗原に対する応答と比較した結果、両種間の抗原性および免疫応答に差異がみられることが分かった。超音波の画像にみられる肝病変発現の相違が虫卵抗原に起因するものと推測され、この結果はきわめて興味深い。以上のことから、メコン住血吸虫の実験室内維持による野外での診断用抗原を作製することが望まれる。

来年度の調査実施活動について、寄生虫対策援助計画の実行・継続の可能性と実施内容を協議するために、財団は11月30日−12月4日の期間、松田肇とバルア・スマナをカンボジアに派遣した。彼らはプノンペンの国立マラリアセンターにおいて所長Dr. Doung Socheat、全国住血吸虫症対策統括責任者Dr. Muth Sinuon、およびWHOカンボジア事務所Dr.Stefan Hoyerと会談し、「カンボジアの住血吸虫症対策にとって笹川記念保健協力財団の援助協力は不可欠であり、1997年以来実施されてきた派遣専門家による調査内容は、我が国の住血吸虫症対策に大きく貢献をしている、今後とも是非継続して財団の支援と協力を得たい」旨の要請を受けた。今後の実施内容も、1]Kampong Cham省におけるメコン住血吸虫症の流行域の南限を決定する、2]免疫診断と糞便検査によるKratie省およびStung Treng省に設置されたsentinel schoolsにおける監視体制の強化と集団駆虫の結果判定、3]Stung Treng省におけるメコン川支流域における未知の流行地の血清疫学的調査、4]保虫宿主動物の探索と本症の伝搬に果たす役割、5]CNM職員(Dr. Muth Sinuon)の日本における技術研修、などの要望を受けた。これらは、カンボジアで現在進められているメコン住血吸虫症コントロール戦略を更に強化するものと判断され、現地の状況に沿った実施内容であると認められた。

カンボジアの住血吸虫症対策の国際協力は、Medecins Sans Frontieres(MSF:国境なき医師団)によって1989年以来、本格的な調査とコントロールが行われてきた。しかし、本年になりMSFはカンボジアから完全に撤退したため、海外からの援助は笹川記念保健協力財団のみとなった。財団のご理解とご支援に対し、現地担当者と共に深甚の謝意を表するものである。

 

 

 

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