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困ったのは上司で、何とか周囲にこのことがもれないようにと願ったのですが、どこから聞きつけたのか、小さな記事でしたが、「職場のストレスから狂言強盗事件」という報道が新聞に出てしまいました。

本人は、自分の浅はかな行為について、上司に深く謝罪しましたが、ことが公になっただけに、職場としては、確かに業務過重ということは認められても何らかの処分をせざる得なくなり、将来、元の省へ戻すことも考慮の上で、係長職を解き配置転換とすることを本人も納得の上で決定しました。

 

考察

このような出来事は、本人にとっても職場にとっても大変不名誉なことであるのは間違いありません。

また、仮に疲労が重なっていたとしても、休みたいために、短絡的にこのようなことをおこす本人自身の性格にも問題がなかったとはいえないことも確かです。

精神医学的に何らかの診断を付けるというのは大変困難ですが、過労―疲弊状態のために、正常な判断ができない状態にあったと考えられなくはありません。

自殺事故の場合でも、明らかな精神疾患が特定できなくても、疲弊状態のため、精神的に混乱し、正常な判断ができず、衝動的に自殺企図をおこした時に、業務過重との因果関係があれば、労働災害と判断されることがあります。

この事件と自殺とを同例に考えることはできないかもしれませんし、めったにないことですが、多少本人の立場も考慮してみると、もともと気が小さく、自分のストレスを上手に処理できなかったために起こったこととも考えられます。

やはり、職場、上司としても普段からの配慮に行き届かなかったところがあったのではないかという責めは免れないとは思われます。

考えてみれば、休みたいのに休めないため、何らかの病気を理由にする、仮病とはいいませんが、精神科でいう疾病逃避というような状況もあり得ますし、この事例は大変特異なことのようですが、いろいろな形で起こって来る可能性があることを考えておかなければならないでしょう。

 

【参考】

第2巻 2 職場のストレス

10 一次介入とカウンセリング・マインド

 

 

 

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