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そこでの診察の経過などについては、詳しく記しませんが、結果的に、研修に参加しての精神的な負担から「心因性視力低下」をきたしたものと判断されました。短期間に現地で治療しても回復は困難と思われたため、所属の病院へ連絡して、研修を中断して地方に戻りました。その後間もなく、この視力低下は自然に回復しました。

 

考察

このような症例は、そんなに多いわけではありませんが、といって極めてまれなものでもないようです。

心因、言い換えれば様々な形でのストレスの結果、目が見えなくなる―心因性視力障害―、声が出なくなる―心因性失声―などという病態があります。他には歩けなくなったといった症状を呈することもあります。

このような病態はヒステリー性といわれたことがありますが、ヒステリーといういい方は、誤解を招くというか、精神医学的にいう定義と、一般の人が考えることとは少し違いがありますので、広くは、心身症の一つと考えることにしておきます。最近では、別の診断基準で、身体表現性障害ともいいますが、それはそれとして、ストレスが、普通では思いもよらなかった身体症状を示すことがあるという一つの例になるかと思われます。

ただ、このような場合はどうしても、本人のストレスに対する弱さ―ストレス脆弱性―が問題となってしまうのは、やむを得ないかもしれません。主たる対策は、ストレスとなっているものから遠ざけるということに尽きる訳で、この事例もその一つと言えます。

職場での人選に特に問題があったとは考えにくいですし、予測も困難であったことも間違いありません。

診断がつけば、対応そのものはさして問題はないのですが、その後の本人、職場側がどうしていったらいいのかということになります。

研修を途中で中断したのは、他の急性の身体疾患が原因であったわけでないだけに、本人のその後の評価にマイナスとなった面があるかもしれないということは現実には否定できないかもしれません。

 

 

 

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