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しかし、自殺の背景には何らかの精神疾患の存在が考えられることが多いといわれ、その精神疾患等と自殺事故との間に因果関係があり、精神疾患等の発症が業務過重と関係があると判断された場合には災害補償の対象になるということで、認定基準ができたわけです。

特に前に述べたようなうつ病、うつ状態が発症した時には、抑うつ気分、悲哀感、罪業感、自己不全感などのために生きていく意欲がなくなって、自殺に至った場合は、仮にきちんとした遺書があっても、正常な判断能力があったとは考えにくいということになります。

そのうつ状態を含む精神疾患等の発症の要因が、職場のストレス、業務過重より、本人の素因にウエイトが大きい、またストレスといっても個人的な悩みや家庭内での問題が主である時には、労働災害との認定は困難になります。

労働災害の認定上、問題になるのは、この何らかの精神疾患等が特定されないままの自殺事故も少なくないことです。一部でいわれる過労自殺という表現が適切であるかはともかくとして、明らかに業務過重があったことが認められ、精神的、身体的に極度の過労―疲弊状態―に陥り正常な判断能力を欠いた状態、精神的に混乱した状態で、時には衝動的にみえる自殺事故がおこった場合は、具体的な精神疾患等の診断が特定されなくても災害補償の対象になると考えられます。

つまり自殺事故を労働災害と認定する条件は、その背景にある精神疾患等の疾患名の特定が絶対の条件ではなく、業務過重により、精神的、身体的に大きな負担がかかり、錯乱状態を含む正常な判断能力を欠いた状態での事故であると判断されることということになるでしょう。

もちろん実際の認定事案では、なかなか判断が難しいことが多いのは当然です。

 

ウ PTSD(心的外蕩後ストレス障害)

最近この言葉は、新聞やテレビなどでも時々見かけることがあるかと思います。

 

 

 

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