性被害と支援のネットワークについて
弁護士 段林和江
私が性暴力の被害者と関わるようになったのは、1987年に、「東京強姦救援センター」のアドバイザー弁護士になってからです。1989年には、大阪にも「性暴力を許さない女の会」ができて、創立時からその活動とつながって私自身も勉強させられました。その頃からみると、ずいぶん社会の環境は変わりました。
法律家としては、被害者保護にかんする新しい法律の制定や改正が、最も大きな出来事だったと思います。私が関わり始めた頃には、これほど早く法律が変わるなどということは、想像できませんでした。大阪府の前知事による強制わいせつの刑事裁判のときに、法改正を先取りするように、被害者の匿名、スクリーンの使用、カウンセラーの付き添いといった、被害者への配慮が法廷で実現されました。大きな前進でした。法改正後は、いくつかの刑事裁判で、同様の被害者保護が実現しています。これらが、わずかな先例にとどまらずに、むしろ、検察、裁判所、弁護士らが、司法過程で、被害者に二次的、三次的被害を与えないようにと配慮するのが当たり前の状況になるまで、まだまだ時間はかかるでしょうが、少なくとも自分が関わる仕事の中では、一つひとつ実現していきたいと思っています。
最近の大きな特徴は、相談に来られる方が、すでにカウンセリングやボランティアの相談などを経ている場合が多いということです。むしろ、弁護士のところに来られるのは、ある程度時間がたってからで、危機介入というより、その後のサポートということになります。
弁護士にとって、被害者の方がなんらかの精神的サポートを受けられているかどうかは、その後の進展にとって大きなポイントになります。弁護士は、カウンセリングの専門家ではありませんし、法的観点からのアドバイスや意見は、時には、被害者にとっては酷かもしれなくても、受け止めてもらわなくてはならないことがあります。そういうとき、被害者によりそって、気持ちを聞いてくれる人がいることは、それだけで安心感を与えるものです。以前に比べると、被害者の方がサポートを受けられる機会はかなり増えてきたと評価できるでしょう。
逆に、被害者の方が孤立化していると、弁護士や裁判所などへの不信感が嵩じてくることもあります。そうなると、味方のはずの弁護士まで敵に見えたりしてきたりで、弁護士も不幸です。
被害者支援という課題からみると、弁護士が関われることはほんの一部にしか過ぎません。それだけに、被害者をとりまくネットワークが広がることに大きな期待をしています。