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5. まとめ及び今後の課題

 

アマモ場、ガラモ場等の藻場は、魚介類幼稚仔の保育場であるとともに、栄養塩類の吸収や酸素の放出によって海洋環境の保全に重要な役割を果たしているといわれているが、東京湾をはじめとする内湾海域では埋め立てによる浅海域の消失と富栄養化等の環境変化により減少の一途をたどってきた。

本調査は、東京湾をモデル海域として、藻場形成の可能性と、藻場形成を阻害する要因を明らかにし、藻場造成適地選定や効果的な造成方式を策定するための基礎資料を得ることを目的として実施したものである。

 

藻場形成可能性を検討するにあたって、主要な藻場形成条件である水温、塩分、光量、流況について、四季の平均的な海況でのシミュレーションによって現況を再現し、これと既往知見による藻場形成条件とを対比して現況の藻場分布を再現した。

アマモ場、ガラモ場等の分布は、概ね現況の藻場分布を再現するものの、一致しない部分も見られた。特に、アマモ場については、実際には藻場のみられない湾口に近い海域(富津岬以南、横須賀市以南)及び市川・船橋市沿岸で藻場が形成される結果となったが、前者は、強い波浪の影響によりアマモが定着できないことが、後者は、出水時の塩分低下やアオサ類等の競合生物の繁茂が主な要因と考えられた。

今回の検討では、波浪の検討と特異的な条件下(出水時)での検討を行っていないが、藻場成立可能性を精度よく検討するためには、今後、これらについて補完する必要がある。

波浪については、冬季、夏季の強風時を想定した波の解析を行い、波による砂の移動(砂面安定性)を把握すれば、藻場形成の可能性を明確にできるものと考えられる。

また、出水時については、今まで解析された事例が少なく、海域毎の塩分低下の程度や継続時間は把握されていない。従って、過去の河川流量資料から流量を設定し、出水時における塩分の低下、継続時間を明らかにすれば、藻場形成の可能性を精度よく検討することができるものと考えられる。

 

このように、課題は残されているが、藻場成立の主要な条件となる水温、塩分、光量及び流速を用いて、藻場形成の可能性のある水域を推定した。

藻場形成を阻害する大きな要因は、光量と低塩分と判断され、光量の面からは水深の浅い場所で藻場形成の可能性があるが、表層付近は塩分低下も大きいため種類によっては低塩分の影響を受け、むしろ比較的水深が深く、塩分低下の影響の小さい水深帯であれば藻場形成の可能性を示すものがみられた。

 

今後、藻場造成による環境改善計画を検討していく場合、今回の検討の中で課題として残された波浪及び出水時等の特異的な条件下での環境変化を補足検討するとともに、藻場による環境浄化の原単位(酸素放出量、栄養塩の吸収量等)を既往知見から整理し、水域毎にどの程度の規模であれば環境改善の効果が期待できるのかを定量的に解明していく必要があろう。

また、机上の検討だけでなく、東京湾等の内湾における既往の造成事例について資料整理を行い、実際の問題点、課題を明らかにすることも重要であろう。

さらに、環境面では造成に適した海域と判断されても、東京湾のように船舶の輻輳する海域では、実際に造成できる海面は限定される。

 

 

 

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