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(2) 公物法の枠組みからの離脱

わが国の行政法学上、海域管理海洋管理に関する法制度を論じようとする場合に、その出発点となるのは、常に公物管理法の枠組みであった。まず、海洋は、法定外公共用物と性質決定され、機能管理のための実定法が存在しないことを前提に、公物管理法通則から海の管理権の根拠とその管理主体、海域の利用関係の法的性質、具体的な管理措置の根拠とその限界、といった問題が演繹的に論じられてきた。さらに、海は国有である、との学説・判例上の公定解釈があり、海域について、国有財産法上の財産管理が及んでいることも前提とされ、そこから、海域の管理権を「国の所有権」に求めるような有力学説が展開されてもきた。

しかし、筆者は、わが国の海域管理・海洋管理法制について、従前の如き公物管理法という理論的枠組みからの一応の脱却を図ることが必要である、と考えている。従来の行政法学上の議論では、いわゆる沿岸域の管理法制のあり方が暗黙の前提とされており、法定外公共用物に係る論争(国有財産法か、地方自治法による法定受託事務か、という解釈論上の争い)や、輻輳する海域利用の調整に係る権限の問題、海洋全体を公物として把握した上での総合的な環境管理的法制度の提言、といった事柄は、すべて公物管理法をベースに展開されてきた。

しかし、陸域に近接する沿岸域については、そのような議論が有用であるとしても、12海里に至る領海全体や、さらには、接続水域・排他的経済水域・大陸棚といった海域まで視野に収めるなら、公物法の枠組みをモデルとする行政法学上の思考からの離脱こそ必要なのであり、現在は、まさにその機が熟しつつあるように思われる。

筆者としては、海域・海洋管理について、「国の直接の公法的支配管理」に服する部分を認め、これを海上行政警察と観念し、行政組織法としての海上保安庁法、個別作用法としての海事法令・漁業法令・環境保全法令・地下資源法令等からなる法的仕組みの概念上の受け皿とすべきであると考える。

 

 

 

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